第22話 魔龍族
「やはりそうであったか……。どことなくザルファードの面影が残っていると思ったぞ」
四天王ザルファード――魔龍族である彼の者は四天王随一の力を誇った男だ。魔龍族は龍の力をその身に宿し、他の魔族よりも遥かに強大な力を持っているのだが、あやつはその力に決して溺れることなく、弱き者に手を差し伸べる心優しき者であった。
セレネの体格はザルファードよりも遥かに小さいが、赤き髪に真紅の瞳、頭の後ろから生えている黒き角はどこかやつの面影がある。
「ザルファードに幼き息子がいることは知っておりましたが、まさかその子が生き延びて子を成していたとは驚きました」
「……うむ。本当に惜しい男を亡くしたものだ」
「あ、あの……おふたりは一体……?」
祖父であるザルファードを知っている我とミラをセレネが不思議に思っている。今の我とミラの身体は人族のものであるからな。
「人族の身体ではあるが、我は魔王である。転生の秘術が成功して再びこの世へ戻ってきたのだが、魔族ではなくこの身体に転生してしまったようだ」
「私はあなたの祖父であるザルファードと同じ四天王だったミラです。私も魔王様と同じで人族の身体に転生してしまいました」
「えっ、ええっ!? ゼ、ゼノン様は魔王様なのですか!?」
「ま、まさか本当に!? 父から聞いていたあの魔王様!?」
「嘘……本当に!?」
我とミラが同胞たちへ素性を明かす。とはいえ、それを証明する手段がないのはもどかしいところだ。
「た、確かに先ほど見た闇魔法は魔王様が得意だったものです! 一度拝見したことがございます!」
50年という長い年月の中で、我の話を親から聞いている者もおり、この中で一番歳をとっている青色の肌をした老人は我のことを覚えているらしい。魔族は人族よりも寿命が長い者も多い。ここにいる同胞たちは全員がバラバラな種族であって、魔龍族はセレネだけのようだ。
「魔族が虐げられるようになったのは我が人族に敗れたことが原因だ。そしてそなたたちの仲間を救うことができず、本当にすまなかった」
「魔王様のせいではございません! それも我ら四天王の力が足りなかったためでございます! そして魔王様が転生してから10日も経っておりません。それでも魔王様は同胞を救うために尽力してくれたではございませんか!」
ミラは我をかばうが、同胞のために尽力することなど当然だ。
その結果この者たちを救うことはできたが、すでに命を失った者のほうが圧倒的に多い。我の力が及ばなかったことは間違いない。
「ま、魔王様、どうかお顔をお上げください! お父様もそうでしたが、ここにいる者は誰ひとりとして魔王様のことを恨んでなどおりません! もしも魔王様がいなければ私たち魔族は一方的に攻めてきた人族に滅ぼされていただけでした。魔王様が魔族をまとめ上げ、魔王様のお考えに皆が賛同したらこそ、あそこまで戦えたのだと聞いております!」
「ああ、俺も親父からそう聞いた!」
「ええ。それに魔王様は今こうして私たちを助けてくれたではありませんか! 本当に感謝しております!」
「……その言葉、我の方こそ感謝する」
同胞たちを守れなかった我は非難こそされてもおかしくはなかったのだが、セレネを始めとする集落の者は我のことを許してくれた。もちろん今は我がこの者たちを助けたばかりなのでそちらの感謝の気持ちが強いことはわかっている。汚名はこれからの行動で返上せねばならない。
「さて、まずは腹ごしらえからだ。その間に我は少しやることがある」
身体の怪我の方はミラの回復魔法で治療しているが、捕らえられてからまともなものを食べさせてもらえていないようで、だいぶ痩せ細っている。川の水はあるが、ただでさえ大人数のため、食料はそれほどの量を持ち運ぶことができなかった。
とはいえ、空腹状態にいきなりたくさん食べるとよくない。本格的な食事は我が領地へ戻ってからにするとしよう。
「ふーふー!」
同胞たちが食事をとっている間にそこの拘束したザイラスからはいくつか聞きたいことがある。とはいえ、これ以上こいつを運ぶのは面倒なので、ここで始末していくとしよう。最後は我が同胞たち自身の手で敵を討らせるため、殺さないように尋問せねばな。




