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【短編】半額シール

作者: 大型犬先輩

ニュースで、物価高がまた話題になっていた。食料品も、電気代も、電車賃も、じわじわと値上がりしている。ため息をつきながら、私は出勤の準備をした。いつものようにかばんを手に電車に乗り込むと、なぜか指先に奇妙な感触があった。かばんの中をまさぐると、見慣れない虹色に光るシール。


「なんでも半額シール」と書かれていた。どこで手に入れたのか、まったく記憶がない。


試しに昼食の弁当に貼ってみると、驚くことに本当に値段が半分になった。店員はまるで気づかず、会計を済ませる。疑う様子は一切なかった。


調子に乗った私は、本屋で雑誌に、家電量販店でイヤホンにシールを貼ってみた。どれも完璧に半額。まるで魔法のようだった。


三日後、シャワーを浴びているとき、背中に違和感を覚えた。鏡を見ると、あのシールが張り付いている。いつの間にか自分に貼ってしまったらしい。爪で引っ掻いても、石鹸でこすっても剥がれない。


諦めて外出すると、さらに驚くことが起きた。電車賃が半額。コーヒーショップも、映画館も、私が使うものすべてが自動的に半額になった。


「これは悪くないな」


そう思ったのは、給料日までの話だった。


銀行のATMで通帳を記帳すると、給料が20万円から10万円に減っていた。私の労働の価値まで半分にされたのだ。確認のために慌てて窓口へ向かったその時、銀行に異変が起きた。


「動くな!」


覆面の男が拳銃を振り回して叫んだ。どうやら銀行強盗らしい。


客たちは床に伏せ、子どもの泣き声が響く。すぐに警察が駆けつけ、交渉が始まった。妊婦や子ども、優先すべき命として次々に解放されていった。


そして最後、残されたのは私だけだった。


強盗が私の首に銃を突きつけたとき、外から警察の声が響いた。


「人質を解放しろ!」


「この男の命と引き換えに逃がせ!」強盗が叫び返す。


だが、無線から聞こえてきた声は冷ややかだった。


「人質の価値は通常の半分と算定。損失は許容範囲内。突入を開始。」


「え?」私は耳を疑った。


強盗も一瞬困惑したが、突入してきた機動隊を見て興奮状態に。銃声が響いた。


---


病院のベッドで目を覚ました。肩を撃たれただけで済んだのは奇跡だった。強盗は逮捕され、裁判が始まった。


法廷で判決が下されたとき、私は最後の衝撃を受けた。


「被告人を強盗致傷の罪により懲役20年に処す…ただし、被害者の価値を鑑み、刑期を半分の10年とする。」


傍聴席がざわめいた。私はその場に座り込んだ。


シールは今も私の背中に張り付いている。


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― 新着の感想 ―
半額という捉え方が実に不思議で、ブラックユーモアが効いていて面白かったです。
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