第1通:永遠の夜に咲く青春_怪しい裏道-2
ルーリーとシュニャンは、少し…いや、かなり気乗りしない様子でレイロンの屋敷に到着した。彼女たちは、オウフェイの提案に従い、旧世界の技術を再現するというレイロンの趣味に期待を寄せていたが、彼女のセンスが少々ズレていることを知っていたため、嫌な予感と不安しかなかった。
武装私兵の護る厳重な警備を顔パスですり抜け、レイロンの屋敷に足を踏み入れる。エントランスは派手さを抑え、清潔感が漂う落ち着いた空間だった。床や壁の境目が曖昧で、まるで蛇が自由に這い回れるように設計されている。レイロンが壁を滑るように移動するのも、まったく違和感がなかった
旧世界のアートが好きで屋敷内に飾ってはいるが、それは何かしらの報酬や謝礼として手に入れたもので、自分で買ったものではない。分かる人が見れば、時代や作風はバラバラだ。
ルーリーは館の豪華な装飾など気にも留めず、まるで自分の庭を歩くかのようにズカズカと進んだ。
「ルーリー、戻ってきておったのか。」
レイロンは階段を使わず、まるで白蛇のように壁を滑るように這い下りてきた。その動きは優雅でありながらも、どこか獲物を狙う蛇の鋭さを感じさせた
「あいかわず階段の存在が疑問視される動きだねえ。こっちは戻ってきてすぐ、大きなヤマだよ。」
「お久しぶりです。レイロン様。」
独特なレイロンの移動法はシュニャンも見慣れた様子で、ルーリーの一歩後ろで丁寧に頭を下げた。
「シュニャンよ。お前さんの地図はわしらの活動でも重要な物じゃ、感謝しておるよ。」
レイロンは彼に向かって頷き、彼の地図作りの才能を称賛しる。彼女の腰に手を当てて、誇らしげに背筋を伸ばす姿に、ルーリーよりもさらにデカイ胸がぷるんっと揺れる。
「お役に立てて光栄です。」
彼女の称賛に少しも動じることなく、彼は真面目な表情で答えた。通常の男の子なら、彼女の豊満な胸が揺れる様子に目を逸らしてしまうところだが、世界に1人しかい存在を許されてない種族は、生殖器自体はあるのだが繁殖能力はないという変わった体質をもつ。子孫を残さないので、性欲が無いのだ。
「アレックスの様子はどう?」
ルーリーは、アレックスが慣れない旅で疲れていることを心配していた。ただただ、必死な気持ちだけが体を動かし続けていた少年は今、どうしてるのだろうか。
「心配はいらぬ。しばらくまともに寝ることができんかったようでな・・・ここにきてからずっと寝ておるよ。」
その顔は威厳ある組織の長というよりも、子供が寝るのを見届けてきた母のような優しさがあった。
「ここにいる限りは、追手も手を出せぬ。」
道中戦闘もボス戦並みに苦戦を強いられ、最奥にテストプレイの実施を疑うほどの裏ボスがいるクリア後の隠しダンジョン…と表現しても的外れではない環境もあるが、彼女の持つ権力と財力が国や貴族の機関から完全に独立しているので、下手に問題を起こすと国際レベルで面倒なことになるのだ。
「ところでこの状況、わしの趣味の出番ということかの?」
重量感のある豊満なバストを腕組で持ち上げ、優雅に微笑みながらルーリーとシュニャンに問いかけてきた。
「あ…うん…まあ…。」
目を逸らし、投げやりな声で答えるルーリー。
「はい…そういうことに…なりますねえ…。」
シュニャンのほうも目を伏せて、諦めたような声だった。
***
秘密の研究所と言えば地下が定番と思っているレイロン。そんな彼女はマジで、地下に旧世界のロマンを研究する施設を作っていた。
「事情は理解した。こんなこともあろうかと…長距離移動手段を用意しておいたぞ。」
鉄製の引き戸で区切られた、格納エリアへと案内される。やたら鎖をギリギリに巻いて厳重に鍵をかけている引き戸もあるが、なぜかそこはスルーして先に進む。
ロクな物が入ったないことは容易に予測できるので、ルーリーとシュニャンも気にしないことした。
「これぞ我が渾身の一作、運命の軌道SPECⅡじゃ!」
レイロンは誇らしげに、服からはみ出た南半球を振り回すかのような豪快なスイングで引き戸を開けた。
そこに現れたのは、巨大な投石器の改良型。
「飛距離は伸びたが、安定性をさらに犠牲にした次世代モデルだ!」
「もう投石器は勘弁してくれ!これで飛ばされたら、配達どころか遭難確定だぞ!!」
ルーリーは呆れ顔で前に出て、過去の悲劇を思い出しながら強くツッコんだ。
彼女はコレの前の型で距離を稼ぐどころか、明後日の方向に投げ飛ばされてしまい、予定より遅れて配達することになったのだ。
目の前に立ったルーリーをマネキンのようにどかそうとするが、彼女の脚力の強さでは、レイロンの力をもっても僅かに引きずるのが限界だった。
「安定性を犠牲にした時点でスペックは向上してないと思います。」
必死でルーリーをどかそうとしているレイロンの後ろで、シュニャンが冷静に指摘する。2人の力比べをずっと見てても仕方ないので、次の格納スペースを見せて欲しいとレイロンに言った。
「次は、より安定した形で投げ飛ばすのはどうじゃ!!」
レイロンが2つ目の鉄製引き戸をゆっくりと開けると、中からは人が一人すっぽり収まる、まるで謎めいた球体が姿を現した。その形状は、どこか懐かしくもあり、まるで未来の野球ボールのようだ。
「おっと、これはまずい!著作権的に完全アウトの匂いがプンプンすっぞ!!」
ルーリーは慌ててレイロンの手を掴み、開きかけた扉を勢いよく閉じた。鉄が硬い物に激しくぶつかる音が、格納庫エリアに響きる。音の大きさに、シュニャンがビクっとなり、能力を使用していないのにちょっとだけ、非物質の羽根が出てしまった。
すでに2つのろくでもない発明品を目の当たりにし、2人の期待はすっかり薄れていた。ルーリーは、次の鉄製の引き戸を開けようとするレイロンの後ろでめ息をつく。シュニャンはルーリーの背中から覗くように、レイロンの動きを見ていた。
「おぬしら、わしが組織の長として多忙な中、隙間時間に心血注いで作った作品に文句ばかり言いやがって…」
レイロンは不満げに取っ手を握り、まるで怒りを刻み込むかのように引き戸をゆっくりと開けていく。動くたびに小さくブツブツと呟く声が響いた。
「ルーリー様、アレって…更年期障害ですか?」
「しっ!あいうのは自覚ないくせに、言われたら逆切れしてたち悪いんだから。」
シュニャンが小声で尋ねると、ルーリーは慌てて指を唇に当て、もう片方の手でシュニャンの口元をそっと塞いだ
「しばくぞ、おぬしら。」
レイロンの低く威圧的な声が部屋中に響き渡り、蛇の尾の先が鞭のように床を叩く鋭い音が鳴り響いた。反動で彼女の豊満な胸が揺れたが、その威圧感に誰も目を向ける余裕はなかった。
普段が大らかなおばあちゃんのような印象なのですっかり忘れていたが、怒らせてはいけない人であることを思い出した。
すでに2つの怪しげな発明品を目にし、ルーリーとシュニャンの期待は完全に萎えていた。ルーリーはため息をつきながら、次の鉄製引き戸を開けようとするレイロンの背中を見つめる。シュニャンもまた、彼女の動きをじっと観察していた。