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第1通:永遠の夜に咲く青春_2人の賢人

 ルミナス・ステップの夜空は、白銀の星々が瞬き、静謐な輝きを放っていた。そんな天空を、ひときわ優雅な姿が滑るように舞う。金色の瞳が星の煌めきを映し出し、白と灰色の羽毛は月光を受けて淡く輝く。翼の先端は銀色に煌めき、彼が羽ばたくたびに空中に一瞬だけ星屑のような輝きが散った。


 【オウフェイ】と呼ばれるその存在は、世界滅亡を生き延びた唯一のフクロウであり、神格化された賢者である。彼の飛翔はまるで神話の神鳥の如く、見る者の心に静かな畏怖と安らぎをもたらした。


 彼の渋く落ち着いた声が、夜の静寂を破るように響く。


「情報は常に流れ、真実はその中に隠れている。だが、焦るな。急ぐ者ほど見失うものだ。」


 その言葉には、長い時を生きて得た深い知恵と、穏やかな慈愛が宿っていた。彼はルーリーの事務所で「組織の頭脳」として、旧世界の知識と新世界の情報を自在に操る。


 夜空を切り裂く白銀の翼は、まるで星々の間を滑る銀の矢のように、静かに街の灯りへと向かっていった。その姿は、ルミナス・ステップの人々にとって、希望と知恵の象徴であった。


 オウフェイの優雅な飛行は、ルミナス・ステップの街にさらなる神秘をもたらし、彼の存在がこの世界にどれほどの影響を与えているのかを物語っていた。



***



 夜の闇に包まれたシュテルン・トゥルムの近く、白く輝く大理石の屋敷が静かに佇んでいる。優雅なアーチを描くバルコニーには、月光が繊細な彫刻の影を落とし、手入れの行き届いた庭園の花々が風に揺れていた。


 屋敷の2階、窓辺のソファに腰を下ろす女性がいた。彼女の名はレイロン。上半身は人間の美しい女性だが、下半身は白く滑らかな鱗に覆われた蛇の体である。白蛇族の唯一の存在として、この世界に生き続けてきた彼女は、その妖艶な姿で見る者を魅了した。


 長いウェーブのかかった白銀の髪が月光に照らされて輝き、和洋折衷の露出度高めの衣装が彼女のしなやかな曲線美を際立たせている。歩くたびに揺れる谷間と下乳が、周囲の視線を引きつけてやまなかった。


 その時、音もなく窓から滑り込むように飛び込んできたのは、金色の瞳を持つフクロウ、オウフェイだった。彼の翼は銀色に煌めき、羽ばたくたびに空気が震える。


「おや、オウフェイ。ババアの家に夜這いかね?」


 レイロンは微笑みを浮かべ、軽口を叩いたが、その声にはどこか落ち着いた威厳が宿っていた。


 オウフェイは止まり木に静かに止まり、渋い声で答える。


「吾輩がフクロウの体でなければ、お相手をお願いしたいところだがな…冗談が言える状況でもなくてな。」


 彼の瞳が鋭く光り、言葉に重みが増す。


「例の狐の冤罪事件だが、重要人物のひ孫が行方不明らしい。」


 レイロンの瞳に一瞬、驚きの色が走った。彼女はゆっくりと窓辺から這い寄り、蛇の尾を床に這わせながらオウフェイに近づく。


「それは由々しき事態じゃのう。隠蔽したい一族のガードが固く、事情聴取もままならんと聞くが…」


 オウフェイは翼をわずかに広げ、静かに続けた。


「この情報は、数日前に街でうろついていた不審者をシバいて得たものだ。彼らは屋敷に雇われたバウンサーらしく、ひ孫の行方が分からなくなってからは捜索に人員を割いているらしい。」


 レイロンは眉をひそめ、考え込むように絨毯の縁を指先で撫でた。


「お前の言い方だと、ここに当たりをつけてやってきたように聞こえるが…」


「そうだ。雇い主はひ孫の行先に心当たりがあるのだろう。あるいは、この街に絡む重要な情報が隠されているかもしれん。」


 レイロンはベッドの上で尾を巻きながら、深く息をついた。


「ひ孫が何かしらの物証を持ち逃げしている可能性が高い。もしそれを奪われたら、我々の調査は大きく遅れる。ノヴァ・トゥルースの信頼を損なうわけにはいかん。」


 彼女の声には、組織の使命を背負う強い決意が滲んでいた。


「名前はアレックス。ネズミに動きを悟られぬよう、細心の注意を払え。お嬢が戻ったら、話をしておく。じゃあな。」


 オウフェイは静かに羽ばたき、窓から夜の闇へと飛び去っていった。



***



 オウフェイが夜空に消えていくのを見届けると、レイロンは静かに窓辺に這い寄り、月を見上げた。


 彼女の白銀の鱗が月光に淡く輝き、しなやかな蛇の尾が床を静かに這う。


 その瞳には、かつて出会った少年の冒険者の姿がぼんやりと浮かんでいた。


 彼はまだレイロンが組織を作る前、個人で資金繰りをしていた時代に出会った人物だった。


「今回の重要人物が、あの時の小僧とはな…」


 レイロンは静かに呟いたが、その声にはどこか言い淀む響きがあった。


 目線をわずかに逸らし、指先で月明かりに照らされた鱗を撫でる。


 彼が悪党から自分を守ってくれた日のことを思い出し、微かに微笑んだ。


 彼女が人間の野党ごときに負けることはないのだが、その勇敢な行動に心を打たれ、感謝の意を込めて彼に長寿健康の加護を与えたのだ。


 唯一種族の白蛇族の彼女は、人々に金運と長寿健康の加護を与える能力を持つ。


 金運は一時的に引きが良くなる程度であり、長寿健康も人が持つ本来の生命力を最大まで伸ばす程度なので、どんなに健康な個体でも人間なら200年が限界だ。


 悪用する者には効果が反転する天罰も下る。


 それでも加護を求める者が後を絶たず、今の立場を手に入れるのに利用してきたが、中には善行に対して恩恵として与えることもあった。


「お前のような者がいる限り、この世界もまだ捨てたもんじゃないと思ったのう。」


 レイロンはそう言いながらも、どこか遠くを見つめるような視線を浮かべていた。


 その瞳の奥には、言葉にしきれぬ複雑な感情がちらりと揺れている。


「カイラン…あれからもう100年以上経つのう。お前の体では、そろそろ加護の効果も限界かもしれん…」


 彼女は静かにそう呟き、月を見上げたまましばらく動かなかった。


 その沈黙の中に、言葉にできぬ思いが秘められていることを、誰も知らなかった。

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