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第1通:永遠の夜に咲く青春_訳ありの手紙-2

 街の入り口での雑談の後、別れを告げて何処かへ行こうとするルーリーを呼び止める。


「あ…待って、ルーリー。」


 アレックスの声は震えていた。曾祖父の約束を果たすために旅立ったものの、目的地の手がかりはほとんどなく、胸の中に不安が渦巻いている。


「きっと、ひいじーちゃんにとっては当たり前すぎて、書き残さなかったんだろうな…」


 家族の反対を押し切り、情報も準備も足りないまま飛び出してしまった自分を責める気持ちもあった。


「ちょっと、聞いてもいいかな?」


 アレックスは覚悟を決めて、震える声で問いかけた。


「もちろん。」


 ルーリーは優しく微笑み、彼の話を聞く準備を整えた。


「実は、僕のひい爺ちゃんが残した手紙に、ムーンキャリーっていう場所に行くように書かれていたんだ。でも、どこにあるのか分からなくて…」


 アレックスは手紙を取り出し、ルーリーに見せた。


 その手紙には、古びたインクで書かれた文字が並び、ところどころに消えかけた印が見える。アレックスはその手紙を大切に握りしめていたが、どこか不安げな表情を浮かべていた。


 ルーリーは手紙の文字をじっと見つめ、眉をひそめて考え込んだ。


 やがて、ふっと口元が緩み、にっこりと笑う。


「ムーンキャリー?それなら、アタシの知ってる郵便ギルドのことだよ。ちょうど用事もあるし、一緒に行こうか?」


 その頼もしさに、アレックスの胸は少し軽くなった。


 アレックスは驚きと喜びで目を輝かせた。まさか第一村人…街人?で当たりを引いた幸運を素直に喜んだ。


「本当に?ありがとう、ルーリー!」


 その瞬間、ルーリーの視線がふと遠くの闇へと向けられた。


 一瞬だけ表情が険しくなり、何かを察知したように眉間に皺が寄る。


「…巻いたはずなのに、追いつかれたか?いや、もしかすると中で待機してる連中もいるのかもしれないな…」


 彼女は周囲を鋭く見渡し、暗闇の中に潜む気配を探るように目を細めた。


「どうしたの?」


 アレックスは不安そうに尋ねた。


「ちょっと気になることがあってね。まあ、アタシから離れなければ大丈夫さ。」


 どこか遠くを見つめたままそう言った。


 アレックスはその様子に少し不安を感じたが、ルーリーの頼りがいのある態度に安心感を覚えた。



***



 ムーンキャリーに到着したルーリーとアレックスは、郵便ギルドの接客用ソファーに腰を下ろす。


 内装は、木目調の温かみのあるデザインで、壁には主要な配達ルートを示したルミナスステップ内の地図と、都市周辺の詳細な道が描かれた地図が張り付けてある。


 天井からは魔法の明かりが柔らかく照らし、部屋全体に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


 赤いリボンを結んだポニーテールは、まるで少女のように軽やかに揺れた。細くしなやかな指先は丁寧にカップを持ち、透き通るような白い肌と、どこか儚げな瞳は、初めて見る者を一瞬戸惑わせる。アレックスはその美しさに目を奪われ、しばらく性別を判断できずにいた。


 目の前のテーブルに置かれたのは、魔法の光で培養したタンポポから製造された、この街の名物のタンポポコーヒーだった。


 今の世界ではコーヒー豆が入手困難になり、コーヒーと言えばこちら一般的である。これでも世界的には嗜好品寄りの扱いだが、ここではそこら辺の露店でも売っている庶民的な飲料なのだ。


「どうぞ、街の名物を味わってください。」


 やがて、シュニャンが口を開くと、澄んだ少年の声が静かに響き、彼が男の子であることを告げた。


「あ…いや…ありがとう。」


 アレックスは、ちょっと年下の可愛い子に笑顔でコーヒーを出されたことに内心喜ぶが、すぐに驚きの表情に変わった。


「えっ、男の子…?」


 思わずコーヒーを吹き出しそうになりながらも、シュニャンの無邪気な笑顔に心が和らいだ。


 その様子を見て、ルーリーはにやりと笑った。


「この子はシュニャン。見た目は女の子みたいだけど、れっきとした男の子なんだよ。まあ、シュニャンはいろいろ特別な子だから、見た目で騙されちゃだめだよ。」


 ルーリーは純粋な少年の反応を見て、ドッキリを成功させた仕掛け人のように笑っていた。彼女の隣に座ったシュニャンは、毎度のことなのか乾いた笑顔だった。


 シュニャンは静かに立ち上がると、ふと自分の赤いリボンを直し、カラスを模したトレーナーの袖をきちんとまくり上げた。少女のような柔らかな印象は影を潜め、彼の真剣な眼差しが際立つ。


 「お嬢様、アレックスさん、どうぞごゆっくり。ボクはまだ仕事があるので…もうしばらくすれば、オウフェイ様もお戻りになられると思います。」


 そう告げると、シュニャンは一礼した。その姿は、ただの美少年ではなく、確かな使命感を背負った使用人のようだった。



***



 アレックスはシュニャンがルーリーを『お嬢様』と呼ぶのを聞いて、少し不思議に感じて問いかけた。


「ルーリー、シュニャンがキミを『お嬢様』って呼ぶのはどうして?」


 ルーリーはソファーに深く腰を下ろし、腕を組んで得意げに胸を張った。


「この郵便ギルドを立ち上げたのはアタシなんだよ。こう見えても、キミが生まれるずっと前からこの仕事をしてるベテランさ。」


 彼女の手を取った瞬間、明らかに人間離れした体温の高さに驚いた。ホムンクルスは通常37.5度を超える体温を持ち、その熱を逃がすために、彼女は露出の多い特殊な服を着ているのだ。実は、アレックスは実家の使用人の中にいるホムンクルスを見たことがあり、その服装にも納得がいった。


 「ちょっと大胆な格好だけど、これは錬金術で作られた特殊な繊維でね。熱を吸収して放散する仕組みだから、暑さを感じずに済むんだ。」


 ルーリーはうさ耳フード付きのノースリーブパーカーのファスナーを少し下ろし、涼しげに笑った。


 この世界は資源が限られてて、女性たちの服装はもともとボディラインを強調する露出が多い文化もあるが、彼女の露出はホムンクルスとしての機能性を兼ねたものだった。


 そして、長寿のホムンクルスであり、ベテランの郵便配達員でもある彼女のは何者なのか?


 「まさか…キミがバニーウォーカーなのか?」


 アレックスは息を呑み、彼女の瞳を見つめる。彼女は、曾祖父から聞いていた噂の…伝説の配達員だった。


 「そうだよ。アタシがバニーウォーカーさ。」


 ルーリーは体育座りをして、うさ耳フードをかぶりながら誇らしげに答えた。

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