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第1通:永遠の夜に咲く青春_イーウェイのうっかりミス

「アタシと最初に会うったとき、けっこう遠くまでみえてたよね?」


 例のヘタレ追跡者が店から飛び出していったあのときだ。


 その時、イーウェイは二人の走り去る姿をじっと見つめていた。夜の世界では、人間にしてはかなり長い時間見えていたのだ。


 新世界では人間にも夜目(ルナリス)はあるのだが、動物系の種族ほどは見えない。ただ、この時点では彼女が言ったように、たまたま夜目(ルナリス)が強い個体の遺伝という説は否定しきれなかった。


 「それに、ちょっと動揺した時に白葉をぎゅっと握っていたのと、不自然にスカートが動いてたのが気になったんだよね。掴んで誤魔化そうとしていたみたいだけど。」


 ルーリーはイーウェイに近づき、狐の尻尾をつかんだ。毛が一瞬逆立ったが、気にせず続ける。


「変身中はうっかり尻尾が動かないように、こうやって押さえてたでしょ?」


 掴んだ尻尾をイーウェイの片足に巻き付けた。


「それでも無意識に動かしてしまい、スカートが揺れたのを手で掴んだポーズで誤魔化してたんだ。これ、知り合いにもいるんだ。彼女はタロット占いが趣味の狼族だったなあ。」


 自分の尻尾でスカートが揺れるのを嫌がるケモ耳女子が、動きを抑えるためにやる尻尾の扱い方でもあった。


「手紙についてのフリータとの会話も…ちょいちょい反応してたのは気になったけど…」


 壁にもたれて腕を組み、話を聞いていたフリータの方を向いた。


「上手く2人で口裏合わせはやっていたようだけど、1つ大きな設定ミスをやらかしてた。」


 ルーリーはアイテムポーチの中を探り始めた。


「侍の国やオタクの憧れの国として有名な日本、小説ではよく東洋の国って書かれるけど…」


 彼女が取り出したのは、街や地域の地図に比べて遥かに貴重な世界地図だった。シュニャンの傑作のひとつでもある。


 カウンターに広げた地図の、日本があると言われている場所を指さす。


「残念ながら、日本って…今では存在しない架空の国なんのさ。」



***



 ルーリーが日本が架空の国であることを告げた瞬間、イーウェイとフリータは一瞬言葉を失った。彼らは互いに顔を見合わせ、次の瞬間には思わず笑い出してしまった。


「いやー、まさかそんなポンしちゃうなんて…おバカなのがバレちゃった。」


 イーウェイは頭をかきながら、狐の耳をぴょこぴょこと動かした。彼女の表情には、驚きと同時に自分たちの設定の甘さを認める余裕があった。


 「オレ達としては海外の話を出せば、そうそう現地を知っているヤツには会わないと思ってたんですが…存在しない国だったのは…」


 フリータも肩をすくめて笑った。彼の目には落胆ではなく、楽しげな光が宿っていた。


 旧世界ほど、地理の知識が一般的に定着していないので、フィクションの国を信じてしまう者も多い。地図が貴重な世界では、よくあることだ。


「知らない地方を設定に盛り込むときは、よく調べること…とくに相手が仕事上、アタシのように地理に詳しい場合は、こうなるんだ。」


 ルーリーは笑顔で注意しながら地図を畳んだ。



***



「たぶんアタシが昔の食堂に行く機会がなくなってから、働いていたのかな?妖狐族って当時、この地域はあまりなかったら、見かけたら覚えているはずだしね。」


 妖狐族がこの地域に集まり始めた歴史は比較的浅い。ルーリーが郵便システムをこの地に普及させる際、識字率を上げるために手紙文化が強く根付いていた妖狐族たちを、ルミナス・ステップに移住させたのがきっかけだ。


「誘致の話聞いて、イーウェイも来ちゃったんだけど、もういろいろ飽和状態であぶれちゃってさ、地元に帰るのもダルいし、ここで住み込みのバイトしてたんだよね〜。」


 これに関して、ルーリーは申し訳なく思ったが…ネットやラジオもない世界では、同じ妖狐族の生活圏内でも場所によっては情報が遅く、古い情報が伝わってしまうのだ。


「さて…返事を届けてあげるから、カイランの手紙…読んであげな。」



***



 イーウェイはカイランからの手紙を受け取ると、少し驚いた表情を見せた。彼女は手紙を読み進めるうちに、懐かしさと共に心が温かくなるのを感じた。


 後半は思い出よりも…真実を知ったことへの謝罪と後悔ばかりだったが、そんなことよりも彼の今の本音を知れたことの真実を知ったことへの謝罪と後悔ばかりだったが、そんなことよりも彼の今の本音を知れたことの気持ちの方が大きかった。


「カイラン、あの頃のことを覚えていてくれたんだ…」


 と、彼女は小さく微笑んだ。彼の気持ちに気づいていながらも、当時は自分も一歩踏み出せなかったことを思い出し、少し切ない気持ちになった。


「また会って話せるなんて、嬉しいな。あの頃のこと、もっと話したいことがたくさんあるし…」


 と、彼女は心の中でつぶやき、手紙を大切にしまい込んだ。


「しかし、イーウェイさん…もう年齢的に本人は…」


 フリータは少し困惑した表情を浮かべながら、イーウェイに視線を向けた。考え込むように眉をひそめている。人間の寿命を考えると、イーウェイに言葉の続きを伝えるかどうか悩んだ。


「いやいや…勝手に殺しちゃダメなんだな。」


 ルーリーはその言葉に反応し、軽く笑いながらフリータの肩を叩いた。


「実はね、カイランはまだ生きているんだ。レイロンの加護のおかげで、彼は長寿と健康を保っているんだ。ただ、加護の効果も永遠じゃない。正直、あまり猶予はない。」


 その言葉には、レイロンの加護がどれほど強力であるかを示す自信と、時間が限られていることへの慎重さが込められていた。


「ありがとう…ルーリー。確か郵便って荷物も届けてくれるんでしょ?」


 涙を指で拭きとったイーウェイが言った。


「手紙よりも高いけど?」


「当たり前っしょ!そんな安いもん頼むわけないじゃん…イーウェイをカイランのところに連れてってよ!」


 イーウェイは、ルーリーの言葉に対して、軽くウィンクしながら答えた。


「特殊配達…承った。」

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