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笠姫  作者: 加藤無理
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初夜

性描写が苦手な方は飛ばして下さい。

 婚儀が終わって初夜になる。案内係が引き下がると、笠と道晴みちはるは寝室で二人きりになった。部屋の隅で灯りが周りを照らしている。


 笠は道晴を見つめた。道晴も見返している。とっくに元服したとはいえ、まだ少年らしさが残っている。体型はどちらかといえば華奢で、顔の作りは凡庸だ。無表情なので感情が汲み取れない。笠は、

「道晴だな」

「はい」

 道晴が短い返事をすると笠は、

「まだ臣従の礼は取らないが良いか」

「はい」

 道晴は相変わらず無表情だ。笠は、

「私の他に婚約者がいたか?懸想けそうしている女子おなごはいるか?」

「いいえ」

 道晴はほとんど動かない。笠は、

「この祝言を本当は断りたかったか?側室を持つのを許すぞ」

 道晴は黙ってしまった。灯りのロウソクが微かに揺れる。笠は、

「まだお前は数え年で二十歳にもなってないな」

「俺を憐れんでいるのですか?」

 道晴が不快そうに言った。笠は、

「この祝言を本当に受け入れているのか」

「貴方こそどうなのですか」

 不安そうな声。無表情だった道晴の顔が微かに歪む。笠が何かを言う前に道晴が、

「俺はどうせ城も持てない下っ端の大名家の跡取りでしかも年下だ」

 大名家であっても石高が低かったり外様だと領土も狭い上に城すら待てない。その場合は陣屋で政務を行う。

「卑下するな。家来達にしめしがつかないだろう」

 笠が言うと道晴は、

「それならば憐れまないで下さい」

「分かった。では、今からどうする」

 道晴の目が泳いだ。笠はじっと道晴を見つめている。それに気付いた道晴は咄嗟に顔をそむけた。笠は落ち着いた声で、

「今すぐに抱けとは言わない」

 布団に入って身体を横向きにして寝始めた。


 道晴は呆然と笠を眺めていた。今まで道晴は恋愛をしなかったわけではなかった。三年前に花見で隣になった豪商の娘に淡い恋心を抱いた。彼女は可憐だった。しかし大名の跡取りとして思いを打ち明けなかった。去年は御家人の娘に惚れた。だが既に笠との縁談が決まろうとしていた。


 道晴は大名の跡取りとしての誇りと自覚を持っているつもりだ。婚約が決まった時も期待しなかった。醜女でも性格が悪くても家事が苦手でも貧乏でも、家や一門が安泰になるならそれで良かった。覚悟は出来ている。


 それどころか笠は道晴を憐れんでいた。露骨に嫌がっていたならば叱責して初夜を無理にでも迎えようと道晴は思っていた。憐れみは意外でもあり屈辱でもあった。


 いつの間にか笠は寝息を立てて熟睡している。道晴は布団に入った。それでも笠は目が覚めない。道晴は笠の後ろから軽く抱く。まだ笠は起きない。道晴は布団の中で笠の服を脱がしていった。仰向けにしても笠は眠ったままだ。道晴は笠の身体を撫で回した。首から膝まで何度も擦っていく。途中で口づけもする。


 次第に笠の顔が緩み、身体が火照っていく。時折、甘えた声がする。道晴は自分の服を脱ぎながら笠の身体を揉んでいく。笠の息が荒くなっていく。道晴は裸になると笠をしっかりと抱いた。


 すっかり目が覚めた笠は驚いたが、道晴は離さなかった。笠の耳元で、

「お笠」

 と、名前を呼んだ。

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