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笠姫  作者: 加藤無理
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縁談

 笠が十八歳の時、奥医師の監督のもと、御台所である寔子の脈を測るようになった。必要とあれば針と灸を使うこともあった。奥医師の想像以上の結果が何度か続いた。寔子の風邪や身体の痛みが治ったりもした。期待していなかった家斉は驚いた。お目見え以上の女中達も素直に評価した。彼女達は笠が寔子の診察をする前に実験体となっていたが、それなりに効果があったのだ。


 医術の他にも笠は相変わらず薙刀と乱読を続けていたし、綿の服も着ていた。草鞋も自分で作っている。滋養の食べ物として時々、玄米や麦飯を料理担当の中居に勧めたりもしていた。家斉は苦い顔をしたが何も言わなかった。


 笠は音楽は苦手だったが、琵琶だけは一所懸命に頑張って平家物語を一通り出来るようになっていた。


 ある日、笠は寔子に呼ばれて部屋に入った。寔子は笠に呆れてはいたがなるべく意思を尊重していた。笠は私服を肥やしたりも誰かを妬んだりも呪ったりもしていない。笠は笠なりに誰かの役に立ち上がっているのは本当だと寔子は分かる。笠も素直に寔子を慕っている。笠は、

「御母上様。どうなさいましたか、具合が悪いのですか」

 寔子は、

「私はお前が心配なのだ」

 笠がキョトンと不思議そうに寔子を見返していると寔子は、

「お前の嫁ぎ先が見つかりそうだが、上手くいくかどうか」

 笠は不安そうに、

「お相手はどんな御方おかたですか」

 寔子は、

「一万五千石の大名、鉢田家の跡取りだ。名は道晴みちはる。お前よりも三つ年下だ」

 笠は悲しそうに、

「年上の私と婚儀なんて少し可哀想ですね」

 寔子は溜息を吐き、

「他人事か。上様が一所懸命に探しなさったのだぞ」

 笠は、

「私は不満ありませんが、鉢田家の道晴はどう思ってるのでしょうか」

「そんな心配するなら普段から大人しく教養を身に着ければ良かっただろう」

 寔子は言った。笠が気まずそうに俯くと、寔子は、

「お前とほぼ同じ歳の峰はとっくに嫁いで行ったではないか。この縁談を逃したら将軍家の恥だぞ」

「肝に銘じておきます」

 笠が暗い声で言った。


 十五歳の少年と結婚。笠はまだ見ぬ道晴が気の毒に思えた。確かに十五歳なら既に元服しているし、大名家の跡取りならば幼い頃から婚約している。十五歳の結婚自体は早くもない。しかし将軍家の年上の娘が嫁ぐとなると話は違ってくる。笠はある程度、自分の立場は分かっている。笠も本来ならば幼い時から嫁ぎ先が決まっているはずなのだが、風変わりな性格と生母不在で強い後ろ盾が無かった為に婚約が遅れていたのだ。鉢田家も道晴も将軍家から笠を押し付けられて困っているのではないかと笠自身、心配しているのだ。


 笠自身は無理に結婚しなくても良いと考えていた。しばらくは医術で寔子や女中達を診て大奥の役に立つ。大奥を出ていくとしたら仏門に入って尼として細々と暮らす。貧民救済活動出来たらそれで良い。姉妹は幼いうちにバタバタと死んでいったが、それでも生き残った姉妹は十人以上はいる。


 しかし、父である家斉の意思をムゲに出来ない。家斉は子ども達を大名家に嫁がせ婿入させて幕府との繋がりを強化しようと考えているのだ。国難の今、その努力はあながち間違ってはいない。縁故と贔屓は良くないが、結束を固めるのは大事だ。

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