第十話 自然を生み出す人の姿をした龍
餓鬼を昇天させたその夜
瑠奈は一枚のチラシを見つめ
「ハァ・・・」
ため息をついた
「・・・ハァ・・・」
またため息
それを見ていた龍は瑠奈の側に行った
「何だ?何見てんだ?」
龍の顔は瑠奈の顔のすぐ横にあった
「(ち、近い・・!!)」
瑠奈の率直な感想だ
確かにとても近い
龍は湯上りで仄かに湯気が上がっていて
少し髪が濡れている事もわかるくらいだった
「動物園?ここに行きたいのか?」
「え!?あ、うん!」
瑠奈は声がひっくり返して言った
「・・・どうした?瑠奈」
「え、いや、ううん、何でもない・・・」
瑠奈はそう言った後、ハハハと言った
「・・・まぁ、いいや」
龍は気にしないでチラシを見直した
『ついに明日!我が動物園にホワイトライオンのレオル君がやってきます!
レオル君がいるのは明日限定!午後五時まで!
この機にホワイトライオンの姿を見ておこう!』
そう書いてあった
チョー宣伝してるね
「へぇー、ホワイトライオン?珍しいな、ホワイトタイガーは結構見るけど・・・」
龍は表向きこうは言ってるけど本当は、可哀想にと言う気持ちで一杯だった
「・・・瑠奈、これ見に行きたいの?」
「え、あ、うん。ホワイトライオンなんて見たことないし、珍しいから・・でも・・・」
でも明日は平日で瑠奈たちには学校がある
しかも四時までで、学校から直で向かおうと思うと一時間近くかかる
「あ、いや、大丈夫。明日は三者面談で午前中で学校終わるから。それから行けばいい」
「・・・三者面談・・?そんなの聞いてないよ?」
普通はホームルームで言われてるか、プリントがあるはず
だが、瑠奈は知らない
なぜだろうか・・?
「ま、親のいない奴には報せてないしな」
そう言いながら龍は立ち上がり、一枚のプリントを出した
そのプリントには『三者面談の報せ』と書いてあった
「あ!私貰ってない!」
「だから、親がいない奴には報せてないっての」
「でも知る権利はあるはずだよ!」
瑠奈が頬を膨らませて言うのを見て龍は無意識に瑠奈の頭を撫でた
「な、何?何するの!?」
「え、あ、いや・・・まぁ、なんだ・・・報せなかったのは悪かったよ。実はプリントする際にミスがあってさ、枚数が一枚たりなくて、瑠奈には帰ってから教えようと思ってたんだけど、疲れててそのまま忘れてた・・・ゴメンな」
疲れはきっと餓鬼を退治したときの事だろう
てか、普通そういうのって前日じゃなくて一週間くらい前に報せるもんだと思うが・・・
「・・そういう事は早く言っておいてほしいな」
「ゴメン。・・・・って事だから明日、学校終わったら二人で行こうよ。それ」
とさっきのチラシを指差して言う
これは読者としても『デートの誘い』と受け取っていいのだろうか・・?
「え、ふっ・・二人で・・・?」
あ、瑠奈もデートの誘いだと思ってる
「あ、いやか?だったら今から何人か呼びかけるけど・・・」
こいつはニブチンだなぁ・・・
女子特有の『恥じらい』に決まってるじゃねぇか
・・たぶんだけどな
「う、ううん!二人で!・・二人がいい・・・」
逆にデートに誘ってる気が・・・
要約それに気付いたのか龍の頭から湯気がはっきりと・・・
「ふ、二人・・!?」
顔、真赤ですよ龍さん
「そ、そっか・・二人が・・いいんだ・・・・・」
右手で口元を押さえる龍
顔を伏せる瑠奈
そしてその立ち位置のまま時間が流れる
「・・あれ。でもそれなら龍は三者面談で学校出れないんじゃ・・・」
いいとこに気がつきましたね、瑠奈さん
そう!
教師たる者、自らが担当するクラスの三者面談に出るのは当たり前だ
でも、龍の場合は違うのさ
「俺は明日、用事あって国外に行くんだ」
「・・どこ、行くの?」
きっと心配なのだろう
そりゃそうだ
瑠奈は龍の事が大好きなんだから
「ガラパゴス諸島。そこにテントを張って住んでる奴がいるんだけど、そいつに会いに」
「・・それって大丈夫なの?そこって自然遺産にされてるとこでしょ?」
「あぁ、そうだよ。だけど、そいつだけ特別なんだ。樹木を生み出すことのできる奴だから」
意味がわからない
そう言った顔で龍の顔を見つめる瑠奈
それにしても龍の知り合いって変人ばっかだな
「分けわかんないか?・・そいつもな、俺と同じ、人龍なんだよ」
人龍とは
人間と龍の間に生まれた子供の事を言う
ちなみに龍のほかに四人の人龍がいる
種類があり
火炎の人龍、雷電の人龍、水氷の人龍、樹岩の人龍、風嵐の人龍
それぞれがそれぞれの力を使い戦っている、はず・・・
今はわからない
過去形になる可能性もある
それでも、みんな龍の戦友だ
「へぇー・・・樹を生み出す龍かぁ・・・環境に優しいね」
「本人もその能力のおかげか穏やかな性格でな、環境保護団体の長でトップの権力を持ってる」
「そうなんだ」
環境保護団体の権力って何だ・・?
多分「これは伐ってはいけない」とかって活動かな・・?
「それで、明日は朝からいない。大量の食料を調達しに行くからね」
「そうなんだ・・・」
瑠奈は何か寂しそうに言った
きっと龍に起こしてもらえないと思ったのだろう
・・・たぶん
「大丈夫だ。朝からっても、お前を起こしてから行くから、寝坊する心配ないぞ」
その心配はしてないと思う
「あと、朝飯は作っておくけど、弁当は作らないから」
授業、午前中で終わるからね
「わかった。じゃあ私は・・・待ってればいいのかな?」
明日デートだもんね♪
「あぁ。終わったらなるべく早く戻ってくるから」
「う、うん!早くね!」
いや・・・
明日の話しだし・・・
「じゃ、おやすみ」
「うん!おやすみッ!」
瑠奈さん、本気で好きなんだね、龍のこと
・・・そいう事でいいんだよね?きっと
次の日
「瑠奈、起きろ!朝だぜ!」
「ん・・んん・・・」
瑠奈はきっとドキドキして眠れなかったのだろう
ちょっと眉を顰めた後、布団の中に潜り込んだ
「・・・・ふぅ・・・」
龍は一度ため息をついた後
「ぃよっと!」
と布団を引ん剥いた
「んん・・・さむいよぉ・・・」
「起・き・な♪」
なんか恐怖心をあおる笑顔で言った、が
「ねむい・・・」
寝ぼけて前が霞む瑠奈にはただの笑顔にしか見えてない
しかも小さく震えて、その目はまるで小動物のよう
簡単に言えば守ってやりたい存在、かな
その仕草につい龍も頬を赤らめた
が、龍はそんなに優しくは無い一面を見せる
「起きやがれ!」
龍は自らの体温を上げ、部屋の温度を上げた
瑠奈の部屋は一瞬にして灼熱地獄と化した
つってもサウナかな
温度は100℃くらいだけど・・・
龍の姿が鬼のようだ
顔が影って目が赤く光ってるように見える
「・・・あついよぉ・・・」
でもやっぱり小動物のような瑠奈
瑠奈の顔は暑さで火照って顔が赤らめて来て
汗で髪が額に張り付き
ほんの少し開いた瑠奈の瞳は潤っていた
まるで風呂上りの状態だ
これはみなが思うだろう、かわいいと
それに対し龍の頬は赤くなり優しい一面になった
=体温を下げ、部屋の温度を上げるのをやめた
「ったく・・・」
呟くと引ん剥いた布団から手を離し
瑠奈に近づくとギュッと抱きしめた
「・・あったかい・・・」
ビックリしないんだ
普通なら「ッ!?」ってなると思うけど・・・
てか、龍のこの行為って完全に瑠奈の事好きじゃね?
・・まぁ、その辺はどうでもいいかな
今のところは・・・
「・・・・・・・・・・・・」
あ、あれ・・・
寝ちゃ、った?
え、ヤバイじゃね!?
時間・・!!
えー・・・まだ一時間以上ある・・・
大丈夫か・・・
で、抱き合った状態で添い寝、すか・・・
まるでラブラブなカップルすね!
「・・・起きねぇ・・・」
あ、龍は起きてた
よかったよかった!
ちなみに瑠奈は龍の腕の中で無防備に就寝中
キス出来そうなくらい近いですよ!
普通の男子なら朝っぱらからルパン三世の状態
=パンツ一丁で襲い掛かってるでしょうね♪
でも龍は欲より理性の方が確実に勝ってるから大丈夫!(笑)
「ッ!・・無防備過ぎる・・・」
あ、理性負けそう
マジで?
ヤバイんじゃね?
瑠奈が、と言うより龍が
「・・りゅう・・・?」
あ、起きた、かな?
「なに、してるの・・?」
うん
もっともな質問ですね
間違ってない寝起きの第一声です
「い、いや・・寒いとか言ってたから・・・その・・つい・・・」
ついって言っちゃったよ、おい!
てか、ついですか!?
「じゃ、じゃあ俺・・・」
と龍は退こうとしたがそれを瑠奈が止めた
「瑠奈?」
「・・・もうちょっとだけ・・・」
でも授業開始まであと一時間弱
そろそろ起きないと朝御飯を食べる時間が無くなるよ
「・・でもそろそろ起きないと―――――」
僕と同じこと言おうとしてるよ・・・
ま、言わせないけどね☆♪
「それでも・・こうしててほしいな・・・」
寝ぼけてるように思えなくなってきた
完全に起きてる・・・いや
それなら多分拒むな
半分寝ぼけてる、ってとこかな?
「・・どうなっても知らねぇぞ?」
・・・・理性が負けちゃったかなぁ?
「・・・・うん・・・」
あ、認めた
おいおい・・・
十八禁にはしたくないからね?
瑠奈は頷いてから目を閉じた
龍を近くに感じてたいだけだよね?ね?
「・・・・ったく・・・」
龍は瑠奈が目を閉じたのを知ると額にキスをした
大丈夫
瑠奈は寝つきがいいからもう寝てる、はず
「起きな、お姫様」
耳元で呟くとそっと部屋を出て行った
「・・キス、された・・・」
額を触り、呟いた
起きてたみたい、だね☆♪
「・・・お姫様・・・」
言われた言葉を口に出した
そして一気に顔が真っ赤になった
うん、普通の反応だね!
その後
瑠奈は着替えて下の居間に行った
「お、おはよう」
「ん、起きたか!朝飯、出来てんぞ!」
何もなかったように喋る龍
気付かれてないと思ってるぞ、龍のやつ
「ほら食いな。学校、遅れるぞ」
「う、うん!」
龍は瑠奈を送り出してから家の鍵を閉め、文字通り飛んだ
龍はガラパゴスに向かう前にほぼ世界各地を巡った
「さて・・たいへんだな・・・」
何がだ・・!?
その頃
学校、朝のホームルームでは
「えー、今日は火炎先生は休暇を取った、というか取らせた」
取らせたんだぁ・・・
取ったんじゃないんだぁ・・・
「どういう事ですか?」
もっともですね
どういう事でしょう
「火炎先生は教師である前に二十四時間、365日、常に警察として動いている。それ故まともな休暇をあまり取ってない、と校長が言っていてな。だから一日だけでもまともに休むように、と無理矢理休ませた!」
いいのかそれって!!
お前も教師だろ!?
無理矢理って・・!!?
「だから私が三者面談に立ちあう」
てな感じだった
龍はたった約一時間強で世界を巡り終え、ガラパゴスへ向かった
「・・もうすぐだな・・・」
龍は久しぶりに会うのがうれしいのか、微笑んでいた
そして龍が降り立ったのは島の真ん中あたり
そこにテントがたっていた
「よぉ、狐音。久しぶりだな」
「あ、狼牙くん。久しぶりだね、元気だった?」
こいつは樹乃 狐音、男性
樹岩の人龍だ
樹を生み出し、地を操る
でも基本は攻撃ではなくサポートだ
龍の事を最初の名で呼ぶ
「ほら、食料、持って来たぞ。足りるか?」
「うん、十分過ぎるくらいだよ。ありがとう♪」
ちなみに見た目はまるで女子のよう
龍は今まで時折ここへ食料を運んでいた
記憶が無かった時はどうかしらない
そして他愛のない話をする
「他のみんなはどう?元気にしてる?」
他のみんな、というのは他の人龍の事だ
「あぁ、元気すぎる。
麒麟はデパートの社長で、電力会社全般のボス。
泳流は温泉旅館の若女将だ。
空馬は風力発電所の近くに住んでプロペラを回してる」
麒麟は雷電の人龍、泳流は水氷の人龍、空馬は風嵐の人龍の古名だ
古名・・・物事の昔の名。古い時代の名称
これでの意味は最初につけられた名前だ
※古名は実在するが、三番目の意味は存在しない・・はず
※詳しくは辞書を使って調べてみよう!
なぜその名で表すかと言うと樹乃が現代名では誰が誰かわからないからだ
つまり、樹乃は古名しか知らない
「そっかぁ。みんながんばってるんだね!狼牙くんの警察業はどうなの?」
「あぁ。全世界回って犯罪者の心を木端微塵にしてる」
「相変わらず物騒だねぇ・・・」
龍の毒舌は時々人の神経を殺すからな
一言でいえば、恐怖!
「狼牙くん、好きな人いないの?」
「な、なんだよ、いきなり・・・」
確かにいきなりだ
どんな考えがあって言ってるのだろう
「狼牙くん、恋でもすればもっと大人しくなるだろうなって思って」
「俺はやんちゃな女の子レベルか・・・」
確かにそういう子が恋するとその人に悪く思われたくないがためにか大人しくなるね
あ、ちなみに今のは作者の意見です
「でも、それって狼牙くんのいいとこでもあるのかな?」
「知るか・・・・俺の力はみんなを守るためにあるんだよ。犯罪者は成敗するけどな」
「やっぱり物騒だね・・・」
成敗ってどうするんだろう・・・
腕をボキッと、とかかな・・?
「で、お前は?どうなんだ?」
「あ、うん。僕はここで密猟者たちから動物たちを守ってるんだよ。今年はもう六回も密猟に来て・・・結構たいへんなんだよ」
「・・・・そいつら、どうしてるんだ?」
「空から来る奴らには樹海を作って着陸しないようにして、海から来る奴らには崖の岩壁に岩のとげを作って上らせないようにしてる」
・・・痛そう・・・
でもそれなら確実に入れないかもね
「密猟が犯罪なのは知ってるよな・・・」
「うん、知ってるよ?」
「なら何で警察に連絡しないんだよ!?」
声がこわい・・・
恐怖を感じるよ・・・
「ここは動物たちが独自の進化をとげたとこ。だから電波とかそういうのはここにはないんだ。火も電気も、全部ね」
携帯や何かしらの電波を動物に感じさせるわけにはいかない
そうする事でこの島の中で特有に育った動物たちの身に何が起きるかわからない
そういうことかな
それも自然に対する敬意なのかもしれない
「・・はぁ・・・なら、まぁしゃーないな・・・・動物ってのはそういうのに敏感だろうからな・・・・生態系が崩れても困る」
「そういう事なんだよ。ゴメンね?」
特定の人種には評判がいいのだろうが
男に舌を出されてちょっと困り顔でいわれても、寒気がするよ・・・
簡単にいえばマンガで女子が「てへッ☆」とかって言ってるときのポーズ・・かな・・・?
「ところで、気付いてるのか・・?」
「・・ん?何が?」
ここで一応、念のために言っておこう
孤音は女っぽいけどオカマさんでは無く
所謂ボクっ娘ってやつに近いです
それでも、念を押すようですが、性別は列記とした男性ですからね
「・・・空に二機、海に三機、ってとこだな・・・・プロペラ音とエンジン音が聞こえてる」
「・・密猟・・・狼牙くん、相変わらず耳がいいんだね」
「おぅよ」
龍の言っている機はヘリが二機、ボート二隻、潜水艦一隻だ
空と海からの攻撃
てかよく海中の音が聞こえるな・・・
「ヘリは北東から、ボートは北西西から、潜水艦は南南西から・・か・・・」
「バラバラだね・・・」
来る位置はバラバラ・・・
対処はむずかしいだろう
「これはむずかしいね・・・」
「あぁ・・一人なら、な」
いやでも三人くらいいないとむずかしいのでは・・?
全体的にバラバラなんだから
「・・・よし、やるか」
それって・・・
破壊行動ではないですよね・・?
第十話 終