もう一人の寝言
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目が覚めると、口が妙に乾いていた。
口を開けたまま眠ってしまったのだろうか。普段ならこんなことは無いのになぁ、そう思いながら僕は部屋の扉を開ける。
「――――っ、とと」
瞬間、ぐらりと足元がふらついた。
何故だろう、身体の操作が覚束ない。平常なら直結している脳と身体が、今日は切り離されているかのように感じられる。
……恐らくは、「これ」もそのせいだったのだろう。
家に満ちる、強烈な臭いに気付くことができなかったのも。
「おは――ぇ」
居間の扉を開け、愕然とした。
ぴちゃ、と素足を濡らす冷えた液体。
声を発さない、恐らくは両親であったもの。
……死んでいた。何の誇張も捻りもなく、悪戯や仮装を疑う余地すら全く無いほど当然に。
「ぅ、え」
不意に込み上げてきた吐き気――それはまた不意に、ある感覚に止められる。
手が、覚えていた。鳥や豚のそれと類似した、人の肉の感触を。肌が、覚えていた。吹き出した直後の、風呂の湯より少し冷えた血液の熱を。
殺したのは――自分だった。脳は全く覚えていないが、身体にはその確信があった。
「……ご」
何が起きたかも分からず混乱していると、口が突然意識しない音を発し始めた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
その言葉は、口ではなく顔が記憶していた。いつ口にしたかと言うことも、どんな表情で口にしたかと言うことも。
昨夜――僕は眠ったまま、この言葉を口にしていた。
ピエロのような、歪んだ笑みで。
「あ――あぁああぁぁああぁああア?ァあ?あ、ア!」
訳も分からず、僕は発狂した。
その慟哭を子守唄に、僕の身体は眠りにつく。
その顔は、幼子のように安らかで――「それ」は最後に眠ったまま、一つの寝言を口にする。
「――――まだ、僕は殺せるよ――――」