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引き続き、オードニー侯爵視点

次の日は、貴族院会議と言って、各派閥のトップと陛下による会議が召集されていた。

私は派閥のトップではないが、貴族院が終わると今度は派閥ごとに会議があり、それに参加するために登城していた。


城に私専用の執務室があるので、そこで仕事をしていると。


書記として貴族院会議に出ていた、ジョン・コリンズ伯爵が、慌てた様子でやってきた。

「ハロルド!まずい事になっているぞ!!」

ゼーゼーと息を切らせてやってきた、古くからの友人に驚く。

こんなに慌てている彼をみるのは、随分と久しぶりだ。


「オードニー嬢とロイス伯爵の王命婚姻が決まりそうだ!」





………?





「はぁ!?!!?

どうしたってそんな事に!!??」





あまりの衝撃に脳が一時停止し、その後、人生で最も大きいのではないかと思う声が口から出た。


私はこんなに大きな声が出せるのだな、と遠いところに行ってしまった理性が思っている。

身体は、狼狽すぎて汗が吹き出し、せっかく伝えに来てくれたジョンを前後に揺さぶっていた。


「お、落ち着け!

昨日、王宮の、薔薇園で、2人が、手を取り合って、微笑み、あっていた、という、報告が、あって!

落ち着けって!!

ちょっと、揺さぶる、のを止め、てくれ!」


ジョンに言われて、ハッと手を離す。

我を忘れて、紳士にあるまじき行為をしてしまった。

「す、すまない…あまりの衝撃に我を忘れていた」


「いや、いい。

溺愛する娘がそんな事になれば、当たり前だ。

続きを話すが、2人は恋人同士のように、至近距離で見つめ合っていたと、そんな目撃情報が複数あり、今、薔薇園を警備していた騎士を呼び出して、様子を細かく聞こうという段になっている。」

「誤解だ!!ルシアは転んでしまって!

助け起こしてもらい、手の傷を治してもらったと言っていた!!」

私の叫びに、ジョンは頷いた。

「ルシア嬢があまりに美人過ぎて、焦った同じ年頃の令嬢を持つ親たちが、結束して陛下を唆している感がある。


だが、それだと至近距離で微笑みあっていたのは、本当なのか?


ルシア嬢すごいな。」


「あの子は見た目なんかで人を判断しない天使なだけだ!!」


頭を抱えた私に、ジョンが言った。

「騎士からも至近距離で微笑みあっていたと報告されてしまえば、ロイス伯爵の婚姻問題で悩んでいた陛下が、飛びついてしまう可能性はある。

その後はハロルドが呼ばれて、本決定に話が進んでしまうかもな…」


「本人達不在の王命婚姻など!!

せめて本人の意思を確認してからにしてくれ!!」


「確認したら、ロイス伯爵は、相手が誰だろうと拒否するだろうから、確認はないだろうな………」


確かに。


ロイス伯爵は、自分の見た目が他者に与える影響を正しく把握されている。

巻き込むことはしたくないと、今まで婚約者も作らなかった方だ。

結婚など、本人に聞けば絶対に頷かないだろう。


そこまで考えて、ハッとする。

ルシアに手紙を出す許可を出してしまった!!


この状況でルシアからロイス伯爵への手紙など届いてみろ、状況が悪化する予感しかしない。


「ジョン!

私は所用を思い出したので、一旦家に帰る!!

教えてくれて感謝する!!」


そう叫ぶと、私は一目散に駆け出したのだった。



王宮の門番のところで、我が家から王宮へ手紙が来ていないかを確認する。

本日は特にありませんね、と言われて、馬車に乗り込む。

家へ!と御者に声をかけて、道すがら、我が家の使用人が歩いていないか探してみるが、王都のメイン通りだ。

今日も人が多く、使用人を見つける事は出来なかった。


家に着いて、出迎えにきた家令にルシアの居場所を聞くと、私のただならない雰囲気に驚きつつも、

「庭のガセボに、奥様とご一緒にいらっしゃいますが…」

と返事をした。

食後のティータイムか、騒がせてしまって悪いが、今はそんな事は言っていられない。


慌てて駆け込んで、手紙を出してないか聞くと、30分ほど前に使用人が届けに出てしまったという。


ちょうどすれ違ってしまったか!


30分前だと、今から戻っても間に合わないだろう。

そう思っていたところ、ルシアの顔色が悪いことに気づく。

アデルも不安げだ。


怖がらせてしまったな。

私はルシア達は何一つ悪くないことだけ伝えると、詳細は夜にと伝えて、そのまま王宮に戻った。

まだ詳細は決まっていないし、ひとづての情報しかない。

2人に話すのはもう少し決まってからでなければ。





王宮に戻ると、馬車を止めるところにジョンの姿を見つけた。

あちらも私を待っていたのだろう。

こちらに駆け寄ってくる。


「ハロルド、陛下がお呼びだ。」

端的に伝えられて、頷く。

すぐに陛下の待つ部屋へ向かう。

道すがら、ジョンから、見張りの騎士からの話で、やはりロイス伯爵とルシアが2人で話をしていたとの報告はあったこと。

しかし、手を取り合って見つめあっていた、というより、ご令嬢がふらついたか、転んだかしたところを助けていたようだったという話だったとの事を聞く。

さすが、王宮騎士!

報告が正しくて助かる。


だが、ジョンからは陛下がそれはそれは乗り気だとも伝えられて、内心頭を抱える。


ロイス伯爵は今年25歳だったはず。

我が国の貴族は、令嬢であれば16〜18歳が結婚適齢期で、令息でも初婚は23歳頃までにする事が多い中、25歳は適齢期を過ぎかけている。

陛下も焦っておいでなのだろうが……


重いため息をつきかけたが、そのまま何度か深呼吸して切り替える。

頭を働かせろ。

娘の未来がかかっているんだ!


己を鼓舞して、陛下のもとへと歩を進めた。



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