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翌日。


普段はマーサに起こされる私だが、珍しく、ひとりでに目が覚めた。

気分が良いので、このまま起きてしまおう。

まだマーサが来ていないので、伸びをすると、ベッドを出て、自分で窓のカーテンを開けて回る。


朝の日差しが差し込んで、部屋が明るくなっていく様は、気持ちが良いものだ。



晴れやかな、良い天気。

昨日も心地よかったけれど、今日も外で過ごすのに良さそうだなぁ。




正直言って、昨日は最高な1日だった。


マーヴィン様は、相変わらず神がかり的に格好良かったし。

それに、気配り上手で優しいこと。

好奇心旺盛で、聞き上手であること。

マーヴィン様の良いところが、沢山発見できた。


他の魔法使いであるアドルフ・スタイナー様とイーノック・オッグ様も大変見目麗しく、3人が並んだ状況は、眼福でしかなかった。

さらに、可愛いもふもふで溢れていた。

優しい眼差しで動物達を見つめるマーヴィン様は、絵画として後世に残したい素晴らしさだった。



あんな素敵な光景、他にないわ。



しかもしかも。

来週も、また行く約束をすることができた。

お菓子はお好きかと聞いたら、クッキーも、焼き菓子も、ケーキ類も、なんでも食べますとの事だったので、来週は手作りのお菓子を持参してみるつもりだ。

ハンカチの刺繍も喜んで頂けたので、このまま動物達を一巡しようと思っている。


次は誰にしよう。


ベータとガンマが並んでお昼寝しているのも最高に可愛かったし。

エプシロンも良いわよね。カラフルな花と一緒に刺繍しても映えそう。

ゼータ、イータ、シータも可愛い。

うさぎが3匹で顔を寄せ合っているのも良いし、思い思いに草を喰んでいるのも良い。

イオタは格好いいから、男性らしい、公式の場でも使える刺繍ができるかも。

魔法鷹というところも、マーヴィン様にピッタリでは?チーフなどで活躍してくれそうだ。

バスとアルトとテノール親子も大変良い。

でも、刺繍にしたら、ただの犬の家族に見えちゃいそう。

絶対可愛いけどね!

特にテノール!

子供の時期は短いもの。


今のあの、頭と足の大きい、丸々とした愛らしい姿を留めておきたい!!

成長記録として、段々大きくなる過程を刺繍で残すのも良いなぁ…



そんな風に悩みつつ、バルコニーへ出る為の窓のカーテンを開くと。






そこには、まさに今、想像していた、丸々とした愛らしいもふもふ………つまり、テノールが、ブンブンと尻尾を振りながら待機していたのである。



いやここ、3階のバルコニーなんですけど??

どうやって来たの??


そんな疑問が頭をよぎるが、まずは確保だと、慌てて、窓を開ける。

すると、テノールはご機嫌に尻尾を振りつつ、自ら部屋へ入って、私にじゃれついて来た。


周囲を見渡すが、他の動物や人はいないみたい。

「テノール?ひとりで来たの?」

私の言葉に、わふ!っと元気の良い返事。


元気が良いのは、大変素晴らしいけれども。

君、ひとりで出歩いていいの?

マーヴィン様や、バスとアルトが心配しているのでは?



すぐにマーサを呼んで、マーヴィン様宛に言伝を頼む。

テノールが、朝起きたら部屋のバルコニーにいたので保護したこと。

本日、テノールを送っても、問題がない時間を教えて欲しいことを伝えてと言うと、できる侍女・マーサは即座に部屋を出て行った。


マーヴィン様のいる場所は王宮なので、約束も無しに行く事は出来ない。

ひとまず返事を待たないと。




近くで座っているテノールの様子を見る。

テノールは、ぺろぺろと口のまわりを舐めながら、私の方を熱い視線で見上げてきた。


ん?

なんか…おねだりされてる?



昨日、魔法でお水をあげたが、結局その後はあげずに、「また次に会った時ね」と言ったことを思い出す。


もしかして、お水欲しさに会いに来ちゃった、とか……?



「お水が欲しいの?」

と聞くと、わふ!っとまた元気の良い返事。



いやいやいやいや。

ものすごく、期待の眼差しを向けられているが。

マーヴィン様の許可なく、あげるのはちょっと。


「あとで、マーヴィン様にあげても良いか聞いてみましょう。良いと言われたらあげるわ。

でも、1人で勝手に来るのはダメよ。」

わかる?と言うと、テノールはしゅん…と項垂れた。

こちらの言葉がよくわかる子だ。

魔獣って賢いのね。



私はテノールの頭を撫でた。







マーヴィン様からのお返事は、すぐに届いた。


まずは、テノールを保護したことへの御礼。

そして、迷惑をかけてしまったとの謝罪。

王宮の大門が開いている10〜17時の間であれば、いつでもテノールを連れてきてもらって構わない旨。

もしくは、都合の良い時間を教えてもらえれば、そちらまで伺います、とも書かれていた。



ふむ。


多分、マーヴィン様は当家の使用人が、テノールを連れて行くと思っているんだろうなぁ。

もしくは、この時間に迎えに来てくださいって、手紙が来ると思っているか。



だがしかし!


マーヴィン様にチラリとでもお会いできるチャンスを、私が逃す筈はない。

私が行く以外の選択肢はないのである。



そんな訳で。


昨日に続いて、今日も会えるなんてラッキー!と、私はご機嫌でマーヴィン様の塔へと向かったのだった。






10時を少し過ぎた頃。

テノールとマーサと共に、私は王宮へとやってきた。


マーヴィン様の塔が近づいて来た時。

人の気配、というか、声が聞こえた。




不思議に思いつつ、塔の玄関を見ると。


そこにはー……

たじろいで、背が扉に当たるほど身を引いているマーヴィン様と。

マーヴィン様を扉に追い詰め、さらに身を寄せて、至近距離でマーヴィン様を見上げている女性の姿があったのだ。





えっ



どちら様ですか?




と言うのが、最初に浮かんだ疑問。



マーヴィン様を見上げるその女性は、明らかに貴族の服を着ている。

年齢は、私よりは上に見えるが、マーヴィン様とは同じくらい…??


そして真っ直ぐにマーヴィン様のお顔を見ている。

顔を見られてもすぐに目を逸らされてしまうと、そうおっしゃっていたマーヴィン様を、至近距離で真っ直ぐに。


しかも、扉の方へマーヴィン様を追い詰めている。

待って待って、どういう状況??


混乱する頭の中で、寸劇が始まる。

『マーヴィン様!私というものがありながら、婚約とはどういう事ですの!?』

そう言って詰め寄るご令嬢。

『王命で逆らえなかったんだ!わかってくれ!』

そう許しを希う(こいねが)マーヴィン様。


ダメだこれ。

ポッと出で、無理やり王命で婚約した私は、完全に当て馬役じゃない………


いやでも!

恋人はいらっしゃらないって言われたし!


ということは?


『貴方が婚約して。

…私、気づいてしまいましたの。

ずっとずっと、貴方に恋していたのだと…』

うるうるとマーヴィン様を見つめるご令嬢。

『そんな……君は私に興味がないとばかり。

だから婚約を受けたんだ。

実は、本当は、私も……』

と答えるマーヴィン様。

『今更、こんな事を言っても貴方を困らせるだけかもしれない。

でもお願い!私を選んで欲しいの!!』


見つめ合う2人。




自分の想像に、真っ青になり、動けない私。


そんな私の横を、わふっわふっと、全く空気の読めないテノールが楽しそうに走っていく。

リードを持っていたはずが、手に力が入らなくなっていて、そのままテノールはマーヴィン様たちの方へと走っていってしまう。




いやぁぁぁぁぁぁ!!

待って待って!!心の準備が!!!!


そう思うが、マーヴィン様がテノールに、そして、立ち尽くす私に気づいてしまった。


驚いた顔をしているマーヴィン様の口が、小さく開く。




しかし。

マーヴィン様が何か言うよりも早く、女性が口を開いた。


「とにかく!!

今すぐに私をキノスラへ転送してくださいませっ!!」




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