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もふもふ祭りだーーー!!
近寄ってきてくれた、相変わらず笑顔のデルタちゃんを撫でまわし。
その後、日向ぼっこ中のアルファちゃんを見つけて、撫でまわし。
その他の子たちを、マーヴィン様が紹介してくれる。
今、マーヴィン様が撫でているのは、ソファで微睡んでいた、茶トラの老猫ちゃんと、サバトラのぽってりおデブな猫ちゃん。
「この茶色の方が、ベータ、灰色の方がガンマです。
ベータがメス、ガンマはオス。
この2匹は、ネズミを取らなくなったと、捨てられそうだったところを、貰い受けました。
ウチにいるのは、訳ありの者ばかりで……。
アルファは、母猫に置いて行かれたのか、まだ乳飲み子だった頃、1匹でいた所を保護しました。
デルタは、元は猟犬の子犬でしたが、猟犬としての資質がないとの事で我が家に。
あとは……」
バサバサバサッと音がして、説明してくれているマーヴィン様の肩に、大きな白いオウムが止まった。
オウムよね?
さっき見て、気になっていたのだ。
「この子はエプシロンです。
遥か南の国の鳥らしく、人語を操るとのことで。
旅の楽団と共に我が国を訪れたのですが、あまりの珍しさに大金で買い付けた貴族がいて。
しかし、その貴族の元では、人語を話さなかったらしく。
捨てられそうになっていたところを、アドルフが貰ってきました。」
ほほう。
やっぱりオウムなのかしら。
白い羽に、頭に黄色の冠羽がある。
前世はペットショップとかで見ることがあったが、今世は初めましてである。
「長旅をしてきた子なんですねぇ。
お話しできるんですか?」
「2年ほど一緒におりますが、挨拶くらいは返してくれますね。
南の方の言葉なら、もう少し話すのかもしれませんが。」
そう言いながら、エプシロンの羽を優しく撫でるマーヴィン様。
エプシロンも目を細めて気持ちよさそうだ。
「こんにちは。エプシロン。
私はルシア・オードニー。よろしくね。」
挨拶をすると、首を傾げてから、「エプシロン!こんにちは!」と返された。
「ちゃんとお返事できるのね!
なんて良い子なの〜!」
褒めると、また首を傾げてから、マーヴィン様の手首に乗り直して、私の近くに来てくれる。
マーヴィン様も慣れているのか、手首を固定して乗せてあげている。
「いい子いい子!」
と私が言うと、「いーこ?」と返される。
ひぇぇ!可愛い!!
「賢くて可愛いですね〜」
そっと指を出して、エプシロンの頭を撫でる。
エプシロンは大人しく撫でさせてくれた。
マーヴィン様も嬉しそうだ。
イケメンと鳥、良いな〜。
続いて、うさぎが3羽。
白に黒斑、ピーターラビットのような茶、黒の3匹だ。
元食堂っぽい部屋にいたようだが、マーヴィン様を見つけたのか、テトテト寄ってきた。
「ゼータ、イータ、シータです。
……えぇと、ポータルをご存知ですか?」
「もちろんです!
ポータルが再度使用できるようになって、王都でも、新鮮な魚や野菜が、沢山食べられるようになりました。
私、とても嬉しかったのです!
婚約したので、マーヴィン様の論文も読みました。
もっと早く読んでおけばよかったと、後悔いたしました。
本当に素晴らしい功績ですわ。」
論文を読んだと伝えると、マーヴィン様は驚いたように目を見開き、その後目元を赤らめて、それほどの事では…と言った。
いやいや、それほどの事ですよ。
皆に褒められなきゃおかしいレベルの功績ですから。
「ポータルの利用ができるようになってから、各地から特産品などが送られてくるのです。
このうさぎ達も、おそらく良い毛皮と肉、というつもりで送られて来たのだと思うのですが。」
「ポータルは生き物は輸送できないのでは?」
私が聞くと、マーヴィン様は微笑んだ。
「よくご存知ですね。
何かあった時に保証出来ないので、基本的には禁止しています。
ですが、この子達はまぁ、食肉用なので……
届かなかったり、亡くなってしまってもいいかと思って、向こうは送ってきたのだと思います。
無事にこちらに届いて。
ポータル復帰後、生きてポータルを通った初めての事例なので…
寿命まできちんと、健康に生きられるのかの、経過観察中といいますか。」
貴重な成功例として、マーヴィン様に可愛がられているらしい。
ラッキーなうさぎちゃん達だ。
「それから、あちらにいるのは、魔法鷹のイオタ。
隣国では、魔法使いは、使い魔と呼ばれる動物を持つのが慣例なのですが、そういった使い魔用の鷹です。」
隣国との友好の記念に贈られたらしい。
止まり木のところで、大人しくしているイオタさん。かっこいいわ。
「アルファを飼い始めた後、陛下や、宰相閣下や、アドルフが動物を引き取って来たりして、気づけばこんな大所帯に……
まぁ、人と交流の少ない、私の事を心配してだとは思うのですが……」
マーヴィン様は、優しい顔でそんな事を仰った。
この見た目でこの中身なら、前世だったらモテモテだろうに。
むしろ悪い所が見当たらない。
マーヴィン様、最高。
「あぁ、あそこで寝ているのが、テノールです。」
サンルームのようになっている、大きな窓のところで寝ていたのは、大きくて黒い、もっふもふの犬だった。
この子もかわいい〜!…けど、なんか違和感。
大きさは大型犬くらいなのに、手足がぽてぽて丸く、何だか子犬みたいな?
そう思っていると、マーヴィン様が外を指した。
「テノールは外にいるバスとアルトの子供です。」
外にいたのは。
まさにテノールの大人版、黒い犬と、色違いの白色の犬だった。
いや、犬かな…?
見た目は犬なんだけど、大きさがおかしい。
体高も体長もサラブレッドくらいある。
お、おおきい…………
あまりの大きさに、ポカンと見つめてしまう。
「怖いですか?」
少し心配した様子のマーヴィン様に聞かれて、首を振る。
「マーヴィン様が紹介してくださるのですから、怖い子のはずはありませんわ。
大きくて驚きましたけれど。」
私の返事に、マーヴィン様は穏やかに微笑んで、窓のそばまで寄り、窓を開けてくれる。
「この3匹は魔獣という生き物です。
魔力を食べる生物で、今では数が減っているので、とても珍しいですが、頭の良い、温厚で優しい動物ですよ。
身体が大きいので、怖がる人も多いですが。」
乗れそうですね。と私が言うと、乗れますよ。と、当たり前のようにマーヴィン様は仰った。
乗れるの!?!?
ファ、ファンタジー!!!!
というか、いくらでも払うから乗ってみたい。
あと、乗っているマーヴィン様を拝みたい。
大きな犬に乗るマーヴィン様!最高!!
妄想に目を輝かせつつ、そっと2匹の側まで寄っていく。
バスは濃紺の優しげな瞳をしている。
毛は、黒と言ったが、烏の濡れ羽色とでも表現すれば良いのか。
美しい黒に、七色の光沢のある、不思議な色をしている。
アルトは雪のように真っ白な体毛をしており、キラキラと表面に氷が光っているような輝きがある。
瞳はアイスブルーで、まつ毛が長い美犬さんだ。
「この子達だけ、名付けが違うのですね?」
「バスとアルトは、私が生まれる前から王宮にいますので。」
なるほど。
名付け親が違うのね。
「バスは80年ほど前から、王宮にあらわれていた記録があります。
おそらく、魔力を持つ人が減り、魔力が溢れる場所も減ったことから、我々のような王宮魔法使い目当てにやってきたのでしょう。
自由に出入りできるのですが、基本的には王宮に住んでいます。
テノールは去年生まれました。
魔獣の生態はわかっていない事が多いので、彼らの観察と記録も仕事のひとつです。
食べ物は魔力ですが、魔法で出した物体も好きなので、ルシア嬢が魔法で出す水も、好きだと思いますよ。」
ほほー!
飲んでもらえるかな?とワクワクしながら、バスの鼻先に水を出してみる。
バスは、クンクン匂いを嗅いで、その水をそっと鼻で下へ押した。
水は、ぷかり、と不思議な形になりつつ、緩やかに降りていく。
その先には、目を輝かせたテノールがいた。
パクッゴクン!
あっという間の早業で、水がなくなる。
美味しかったようで、キラキラと輝く瞳でこちらを見ながら、テノールは口の周りをペロンと舐めた。
大変お気に召したらしく、無言のおかわりコール(この場合はおかわり目力?)を受ける。
うーん、可愛い!
いくらでもあげたくなってしまう。
でも、あんまり出せないのよね。
1日3回か4回くらい出すと、疲れてしまうのだ。
でもでも!
そんな顔されたら、あげたくなっちゃうし!!
あわあわしていると、
「無理してあげなくて、大丈夫ですよ。」
とマーヴィン様がおっしゃった。
「魔獣は食べない日もあるくらいです。
他の子達は、私が食べ物の管理をしていますが、この3匹は飼っているわけではないので、欲しがらなければ与えません。
アドルフやイーノックに貰っていることもありますし。
バスは外で食べてくることもあるようですから。」
魔獣さん達は結構自由なのね。
出産したアルトと、子供のテノールはまだ王宮の外には外出していないらしいが。
皆を紹介してもらえた私は、順番に撫でて、楽しく挨拶させてもらったのだった。




