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アドルフ視点

誤字報告、ありがとうございます!

ひらがなが間違っていて、お恥ずかしい限りでした……

読んでくださるだけで嬉しいのに、本当に助かります。

ありがとうございます。

「ねぇ、アドルフ。なんか僕、目が変かも。

令嬢が、マーヴィンに見惚れているように見える。」


そう言って、イーノックは自身の目が魔法にかかっているか確認するように、魔力探知をし始めた。


私にもそうとしか見えないよ、そう声を出そうとしたのだが。

目の前で起こっている事があまりに想定外で、結局何も言えずに、私も、魔力探知をしてみる。

信じられない状況に遭遇した時、魔法を疑ってしまうのは魔法使いのサガなのか。


自分…は何の魔法も使われていないなぁ。

令嬢の方にも行ってみるが、やはり魔法が使われた形跡はない。


イーノックも同じ結論だったらしく、結局、私とイーノックは、魔法を使われた痕跡が何一つ残っていない事に、首を傾げるばかりだった。





マーヴィンの婚約者がやってくるという当日。

私たちは、王宮の警護を行っている騎士団協力の元、マーヴィンを尾行していた。


勝手に尾行などを行うと、怪しすぎて捕まりかねないので、事前に宰相閣下に相談し、騎士団の協力を仰いだのだ。

騎士が王宮内を警戒するのは当たり前なので、彼らはどこにいても目立たない。

協力者としては頼もしい存在だった。


1人騎士に同行を願い、3人で後をつける。

マーヴィンが馬車用のエントランスに到着すると、騎士だけが見える位置に立ち、私とイーノックは木の影に隠れた。


「マーヴィンをこんな所に出向かせるなんて」

イーノックが憤っている。


イーノックはマーヴィンの事を慕っているので、彼が苦手としている、貴族の多い場所に来なければいけないのが気に食わないらしい。


でもねぇ。

婚約者なのだから、1度目の訪問の時は、出迎えくらいするのが常識的だろうし。

マーヴィンは自主的に来ていると思うんだけど。


まぁまぁ、と宥めていると、オードニー家の馬車がやってきた。



正直に言って、私はオードニー侯爵令嬢のウワサをあまり真に受けてはいなかった。

絶世の美女だと聞いてはいたが、こう言ってはいけないが、毎シーズン、社交界の花だの、精霊だの、姫だの、そう言った話題は聞くものだ。


マーヴィンも言葉を尽くして褒め称えていたが、あれはあれで、女性に微笑まれた経験すら乏しい男だ。

少しでも微笑まれたら、それはもう、美女フィルターがかかってしまっても仕方ないだろう。


そう思っていた。





果たして。


馬車から降りてきたのは、この世のものとは思えないほどの美しさの女性であった。



まさに女神の如き、完璧な形と垂れ具合の眉。

黄金に輝くブロンドの髪。

長いまつ毛が縁取る瞳は、若葉のような発色、朝露のような煌き、吸い込まれそうな透明感をもっている。

目は丸く愛らしい形で、目尻は緩やかに下がり、鼻も丸く小さく、顔の中央に神がかり的なバランスで置かれている。

真っ白で滑らかな肌は、ぽってりと丸く、光り輝くよう。

桜色の唇もみずみずしく、年頃の女性の烟るような色気を醸し出していた。



彼女が現れた瞬間。

その場にいて、彼女に見とれなかった人間など、1人も存在しないだろう。


そう確信できる、美しさと存在感のある女性だった。



思わずポカンと半開きになってしまった口を、慌てて隠す。

隣のイーノックを見ると、目を見開き、口も開けたまま固まっていた。


そうだよね。そうなるよね。




そんな女性は、紳士として手を貸そうとしているマーヴィンに、それはそれは嬉しそうな、幸せそうな微笑みを向けた。


嫌がるそぶりどころか、マーヴィンがそこに居てくれて、嬉しくて嬉しくて仕方がないかのような微笑みに、目を疑う。


そんな顔を、マーヴィン(とびきりの醜男)に向けるのか。




その笑顔の直撃を受けたマーヴィンは、硬直した後、太陽を直視してしまったかのような顔をしていた。


そうだよね。そうなるよね。




何だかもう、訳がわからなくなるほど眩しそうだ。



その後、マーヴィンがエスコートを自粛しようとする一幕があったが、オードニー侯爵令嬢が心底不思議そうに、エスコート待ちの姿勢をとったので、結局、2人は並んで歩き出した。




周囲からの視線が痛そうだ。


マーヴィンの顔色が悪くなって、イーノックが隣で心配そうである。

あれでは注目の的だろうからねぇ。


どうしたものかと思っていると、令嬢がマーヴィンの耳元に口を寄せた。

何かを囁かれて、マーヴィンの顔が真紅に染まる。

もはや周囲の様子など、一切気にかけられない様子で、ギギギ、と油の切れた機械並にぎこちない動きになっている。




その様子をみて、令嬢は満足げに微笑んだ。



ちょっと待って。

マーヴィン、何言われたの。






そこから、少し先回りをして、2人が通過するであろう、人があまり居ない場所に隠れる。


人目があるかないかで、態度が変わる人間はいるものだ。

オードニー嬢は果たしてどうなのだろうか。


そうして2人が来るのを待っていたが、近づいてきた2人の会話に、イーノックが怪訝な顔をする。


うふふふ、と、心底楽しそうな笑い声のもと。

オードニー嬢は、こちらが恥ずかしくなるほど、マーヴィンを褒め讃えていた。

「薄紫の瞳が本当に綺麗です。初めて拝見した時、マリアライトのようだと思いましたの。」

そう言って微笑む令嬢に、マーヴィンは、顔を真っ赤にしながら、なんとか、

「あ……えぇ、と、ありがとうございます…」

と返す。


いや、もう少し気の利いた返事をしなさい!

君が令嬢を褒める場面じゃないの!?


とツッコミたくなるが、それでも彼女はにこにこ笑顔のまま。

まるで、絶世の美男子に向けるような視線をマーヴィンに向けている。


「本当はマーヴィン様のお色に染まりたくて、薄紫の服を探したのですが、あまりにもお綺麗なので、そんなに素敵な色の服が手持ちになくて…

今度、生地を取り寄せて、探すつもりです。

そんなわけで、今日はマーヴィン様の髪色からとって、ライトブラウンのワンピースにしました!」


嬉しそうにスカートを広げて、そんなことを言うオードニー嬢は、さながら天使のようだ。


相手の髪色や瞳の色を纏うのは、好意を伝える行動のはず。

それも、熱烈な部類の。



最早返答が出来ないのか、口をぱくぱくさせるだけのマーヴィン。


そんな様子すら、オードニー嬢は満面の笑顔で。

本気でマーヴィンを好いているようにしか見えない状況に、私とイーノックは思わず魔法探知をして、首を傾げたのだった。






そこからさらに移動して、マーヴィンの塔の入り口へやってきた。

普段なら勝手に入ってしまうのだが、今日はここで待つのが良いだろう。

さっきまで我々と一緒にいてくれた騎士には、おかえり願った。

彼は最後まで、信じがたいものを見たような顔をして、首を捻っていて、皆同じ心境なんだなぁと思ってしまった。


絶世の美女が、醜男をうっとり見上げる様は、はたから見ていると異様な光景だ。

というか、あれはマーヴィンの事が本気で好きか、もしくは何か事情があり、マーヴィンを落としにかかっているとしか思えない。

それでも、演技であれば、限度はあるはず。


醜男3人に囲まれて、果たして彼女はどんな反応をするのか。



こちらに歩いてくる2人を眺めていると、気がついたマーヴィンが睨んできた。

眼力だけで、早く立ち去れという気持ちが伝わってくる。

まぁ、無視するけれど。


マーヴィンの視線を辿って、オードニー嬢も私たちに気が付いた。

彼女はキョトン、と目を丸くして。


そして、誰もが見惚れる美しい笑顔を浮かべたのだった。

彼女の若草色の瞳は、幸福、歓喜、そういった感情で輝いている。

少しの悪感情もない。


この世のものとは思えないほど美しい、満面の笑み。

私とイーノック相手に、である。



うん。


これは。





マーヴィンが骨抜きになるのは、もう決定事項だな。

そう、私は思ったのだった。




婚約者同士の時間を邪魔するのは野暮というものだが、オードニー嬢の思惑がわからないのだから、今回はお邪魔させてもらおう。

そんな訳で、私は嫌がるマーヴィンに、そんな事言わないで。せっかくだから皆でお茶でも。と押し通し、強引に部屋の中へ入り込んだ。


ちなみに、イーノックはオードニー嬢の笑顔を浴びて思考停止中だ。

先ほどから一言も発せなくなっている。


無理もないけれど。



オードニー嬢の手前、強く出られないマーヴィンを押し込んで、なんとか4人でのティータイムを勝ち取る。

侯爵家使用人の淹れた紅茶は、香り高く美味しかった。

「さすが侯爵家ですね。いつもと比べものにならないくらい美味しいですよ。」

そう褒めると、

「ありがとうございます。マーサが入れてくれる紅茶は、いつも本当に美味しいのです。」

と、オードニー嬢は自然に返してきた。

侯爵家の素晴らしさか、茶葉の高価さを語られるかと思ったのに。

返ってきたのはマーサさん(使用人)への賛辞。

彼女はマーサさんに自然と御礼を言う。

マーサさんも、それを自然と受け取っているので、おそらく日頃からそうなのだろう。


16歳にして、ここまで使用人にも心を配れ、醜男相手でも笑顔を絶やさず、しかも誰もが見惚れる美人。


こんな人が、世の中に存在するのだろうか。

人間が出来すぎてやしないか?



半信半疑で、ちらりとイーノックとマーヴィンを伺う。

笑顔ひとつで思考停止しているイーノックと、おそらく絆されつつあるマーヴィン。

この2人を守らなきゃいけない。

自分だけなら、例え騙されていたって、良いのだけれど。


もし、私の大切な人達を騙すような者が、近づいてきているのであれば。


それは許容できない。



気を引き締め直しているあいだに、マーヴィンが彼女から刺繍入りのハンカチをもらっていた。

「アルファとデルタのこと、よく覚えておいでですね。そっくりだ。」


そう言って、愛猫と愛犬の刺繍を嬉しそうに見つめるマーヴィン。

オードニー嬢を確認すると、彼女は、マーヴィンの笑顔に、顔を真っ赤にして俯いていた。



それは、マーヴィンに恋をしているのだろうと思える表情だった。


間違いなくマーヴィンに見惚れているし、

マーヴィンが喜んでくれたことを、彼女も喜んでいる。


そうとしか思えない。

これが演技だとしたら、勝てる気がしない。



というか、ものすごく甘酸っぱくて初々しい、気恥ずかしい空気が2人の間に流れているのだが。



どうしよう。

とりあえず、静かになってしまった2人に言葉をかける。


私の言葉に、オードニー嬢は、私のハンカチを見せて欲しいと言ってきた。



ふむ。


ちょうど良いかもしれない。

もう一度、オードニー嬢を試してみよう。



そう思い、ハンカチを渡す。


マーヴィンとイーノックも、身を乗り出してきた。

私は普段、妻の話はほとんどしないし、こういうものも見せないから、興味があるのだろう。


オードニー嬢が、丁寧にハンカチを広げると。

王都では珍しい、幾何学模様の刺繍が現れた。


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