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本日、私は王宮にお呼ばれしていた。
この国では、デビュタントと同時に婚活がスタートする。
16〜20歳くらいまでの間に、様々な社交の場に出て、良い相手を見つけ、結婚するのが貴族のセオリーだ。
そして本日は王家主催の、高位貴族向けのガーデンパーティーの日なのだ。
16歳の第一王子殿下も、まだ婚約者が決まっていない為、参加するらしい。
侍女達がきゃぴきゃぴ騒いでいた。
私はというと。
そんな話に死んだ魚の目になりつつ、侍女達にドレスや装飾品を飾り付けられていた。
何故そんな目になるかというと、
まず、王家に嫁入りとか絶対面倒だし、やりたくないのが一点。
高位の貴族が揃っていると、当たり前だが格上も多いため、気も使うし、言い寄られた時に断りたくても断りづらいのが一点。
いや、何を自意識過剰なことを。と、思うかもしれないが。
残念ながら、今世の私は絶世の美女であり、モテるのである。
大変不本意ながら、傾国の美姫と言われており、誰が私の心を射止めるのかが、今年の社交界で最も注目されているらしい。
デビュタントからまだひと月経っていない中、数回社交の場に参加したが、毎回吐き気がするほどモテた。
自分では全くそう思っていないのに、チヤホヤされて容姿を褒めちぎられて、不特定多数にめちゃくちゃ言い寄られると、人は吐き気を催すのだと初めて知った。
あと、問題はもう一つ。
美醜感の違いである。
この国の美しさの基準は女神様だが、それは男女問わず、そうなのだ。
つまり男性も、たれ眉で垂れ目で小さい丸鼻で唇が厚くて肌が白くてぽっちゃりしている人こそが、美男なのである。
ついでに身長も低めがかっこいいらしい。
正直言って全くわからない。
低身長も、真っ白な肌も、デブからぽっちゃりの間の体型も。
垂れ目たれ眉はまぁ、気が弱そうだと思う程度だけれど。
小さな丸っ鼻も、厚めのぷるんとした唇も。
総合すると全く、少しも、全っっっ然好みじゃない。
だがしかし。
美女である私に言い寄ってくる男性は、ほぼ自分に自信のあるタイプであり、つまり上記のような見た目に、イケメンの仕草をプラスしたような男性ばかりなのだ。
結果、私は、吹き出しそうになったり、遠い目になったり、苦笑いになったり、現実逃避したり、やっぱり遠い目になったりしながら、彼らの猛攻になんとか耐えているのである。
つらい。
しかも。
私だけがモテモテで男性陣を侍らせてしまうと、当然というか、同性である女性達からは反感を持たれる。
皆、お嬢様でちやほや可愛がられてきたのに、年頃になってデビュタントしたら、他の女ばかりが異性から可愛がられていたら、そりゃあ、楽しくはないだろう。
しかも、これは婚活の場なのだ。
女性陣は結婚して家に入るのが一般的な上、良い男性を捕まえようと思ったら、最初の1年が勝負らしい。
勝負期間が短いのもあって、まさに戦争。
皆、自らと家のための良縁確保に必死なのだ。
と、いうわけで、全く好みでない男性からモテにモテまくり、何とか必死にその男性陣を引き離すと、今度はキレまくっているご令嬢方に囲まれて、嫌味を言われまくる。
これが、この数回私が体験した、社交の場である。
マジでつらい。
とはいえ。
あちらは、社交界デビューしたての16〜18歳。
私は前世、アラサーOL。
嫌味程度で傷つきはしないのだが。
気持ちも理解できる部分もあるし。
ただ、そろそろマジで面倒なので、この魔のルーティンから脱出したい。
脱出して、できれば私も婚活したい。
もちろん、自分の好みの男性と、である。
いや、見た目がアレでも中身さえ良ければ、とも思うけど。
でも私、美女?らしいし?
少しくらい期待したい。
私の好みの人、多分モテないからライバル少なそうだし。
その為にも。
まずは好みではない男性からの猛攻をかわさなければ。
そんな事をツラツラ考えていたら、準備が終わっていた。
侍女達が仕事の出来を確かめつつ、私にうっとりとした目を向けてくる。
「お嬢様、本日も、最高にお美しいです!」
「これでは王宮の薔薇も霞んでしまうかもしれませんね!」
なんて言葉に御礼を返しつつ、姿見を眺める。
キラキラと輝くブロンドは、ハーフアップにされて編み込まれ、所々に白い花が飾られている。
本日のドレスは自分の瞳と同じ若草色。
流行をおさえた可愛らしい、プリンセスデザインのドレスだ。
お化粧は最低限。
私の美貌に過度な化粧はいらないらしい。
鼻とか、高く見えるようにハイライト入れたいのに。
滑らかな白い肌は、本日もスベスベで言うこと無いが。
もっちりとした頬肉がなぁ………
あと二重顎がなぁ…………
白いし、丸いし、まるで白玉のような顔だ。
うん。
白玉食べたい。
おのれの下膨れ加減に現実逃避をしつつ、私はドレスや装飾品のみチェックして、侍女の仕事に満足し、部屋を出た。
さて。
いざ、戦場へ!!!!