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それから数日。
ついに、マーヴィン様の塔へ行く日がやってきた。
この日、私は朝からお風呂に入り、侍女たちに身体を磨き上げてもらった。
本日はアルファちゃん達に会える予定なので、ドレスではなく、白いブラウスと、ライトブラウンのワンピース姿だ。
出来るだけ、マーヴィン様の髪と同じ色を探してみました!
ブラウスの襟とワンピースの裾には大きめのレースが付いており、胸元にはピンクのリボン。
スカートはチェック柄である。
うん、服だけ見てると本当に可愛い。
自分が着ると、スタイルのぽちゃさが際立って嫌だけど。
マジで痩せたい…
でも、痩せたら親に泣かれるんだよねぇ……
というか、これ可愛い?
白玉おばけじゃない??
不安になって、マーサに確認したが、
「お嬢様は何を着ても、本当によくお似合いです!女神が舞い降りたかのようですわ!」
と言われた。
両親もだいぶ酷いけど、マーサもちょっと、身内贔屓が入っていそうよね。
もうちょっと客観的な……一般的な視点がほしい今日この頃である。
まぁ、仕方ない。
私は美人、私は美人、私は美人。
この世界的には美女らしいのだから、全く実感はないけれど、この武器(?)を利用して、少しでも気に入って頂けるようにがんばるぞ!!
支度ができたので、プレゼントの刺繍入りのハンカチを持って、いざ、王宮へ。
*
王宮に着くと、馬車用のエントランスに、マーヴィン様の姿があった。
出迎えに来てくれたらしい。
侯爵家の馬車を見つけると、寄ってきて手を差し出してくださる。
日光に照らされたライトブラウンの髪。
淡い紫色の瞳は本日も大変美しく、私が満面の笑顔でマーヴィン様の手を取ると、眉尻を少し下げ、ほんのりと頬を赤く染められて、困ったように微笑まれた。
ひええええええぇぇ
麗しいぃぃ〜〜……
キラッキラに輝くマーヴィン様に、灰と化しそうな私である。
これ無理でしょ。
この芸術的イケメンの前では、私は白玉でしかない。
間違いないわ。
心の中では降参の白旗をブンブン振りつつ、なんとか挨拶をする。
「ご機嫌よう、マーヴィン様。
お出迎えに来て頂けるなんて!とても嬉しいです!」
私の言葉に、マーヴィン様は困り笑顔のまま視線をそらされた。
「……魔法使いの塔は、少し奥まった場所にありますので。ご案内いたします。」
先程、馬車から降りる時に貸してくださった手をナチュラルに離されて、マーヴィン様は、私の斜め前、護衛がとるような位置に移動した。
うん?
なんでその位置??
エスコートする気はない感じかな?
前回、2人きりで庭園を歩いた時は、きちんとエスコートしてくださったのだが。
ここは王宮のエントランスなので、そこそこ人目がある。
今も、チラチラと視線を感じるので、おそらく、これ以上目立たないよう、エスコートを避けようとしているのだろう。
しかし。
私たちは、間違いなく婚約者同士なわけだし。
ここでエスコートがないというのは、不仲を疑われる理由になる。
私としては、むしろ仲を見せつけてやりたいわけで。
私は、全く何も分かりません、という無垢な顔を貼り付けて、エスコートして貰うべく、手を差し出した。
渾身のきょとん顔を向ける。
私、箱入り娘なので、エスコート無しで歩くなんて、できませんわ。
とか言い出しそうである。
実際は独り歩き余裕ですけども。
そんな私を前に、マーヴィン様は何か眩しいものでも見てしまったかのように顔を顰め、ほんの少しの逡巡の後、私の隣までやってきてくださった。
そっと手を差し出されたので、笑顔で手のひらを重ねる。
「ありがとうございます。」
笑顔でお礼を言って、一緒に歩き出す。
マーヴィン様って姿勢がとても良いのよね〜。
背筋がピンと伸びていて、どの角度から見ても素敵。
でも、できればこうやって真横から見ていたいな。
この位置にいられるのは特別だから。
そう思いつつ歩いていく。
が。
率直に言おう、周囲からの視線がすごい。
今世においては、普段から視線を集めがちな私だが、これは酷い。
まず、私を見てうっとりされる。
これはまぁ、いつも通り。
その後、エスコートしているマーヴィン様を見て驚愕、慌てて私をもう一度見て、またマーヴィン様を見て、私を見て……って何回見る気!?
みたいな事が繰り返されている。
マーヴィン様をチラリと見ると、顔色が悪い。
注目されて辛いのだろう。
そのうち皆慣れるだろうけど、それまではこんな感じなのかなー。
でも、なんかアレよね。
周囲の視線にばかり、マーヴィン様の意識を向けられているのは、ちょっと面白くない。
「マーヴィン様」
私の言葉に、マーヴィン様は私の方を見てくださった。
うん。
近くで見ると、本当にかっこいいな。
男らしく形のいい眉、切れ長の目、高くしっかりとした鼻や顎に、男の色気がつまった唇。
本日も濃紺の魔法使いのローブを羽織られた姿だが、中の洋服はかっちりと着込まれており、マーヴィン様の真面目さが感じられる。
そんな固さと、女性慣れしていないせいか、ほんのり色づいた頬の甘い雰囲気とのギャップよ。
世界は美しい!!
「………?」
日光を受けてキラキラ光るライトブラウンの髪も素敵。
前髪はサラサラで長めだが、襟足は短めに切り揃えられていて、清潔感がありますねー。
おっと。
ついうっとり見惚れてしまい、意識がトリップしていた。
マーヴィン様の形の良い耳に顔を寄せる。
「周囲の視線より、私の方を見てくださいませ。」
私がニッコリ笑うと、顔が真っ赤に染まったマーヴィン様の口がポカンと開く。
そんなお顔も最高に美しいです。
「ルシア嬢は……こうして私と歩くのはお嫌ではありませんか?」
「嫌なはずありませんわ。」
「本当に……無理をしていませんか?」
マーヴィン様の瞳が、頼りなく揺らめく。
期待と不安、困惑、恐怖。
あぁ、この人が今まで感じてきたであろう孤独が、彼を怯えさせている。
私なんかが想像もできないくらい、何度も傷つけられてきたのだろう。
でも。
「無理なんてしていないです。」
私にはマーヴィン様の辛さを想像する事しかできない。
でも、多くの人から醜いと疎まれるのは、遠ざけられるのはひどい孤独だ。
認められない。
必要とされない。
それを仕方ないと諦めて、マーヴィン様は裏方にまわっている。
でも、その場所は、貴方に相応しくないと、私は思うから。
貴方の隣を歩きたいと思う人がいることを、知って欲しい。
貴方の魅力を、知って欲しい。
自分自身を、もっと大事に出来るようになってほしい。
だから。
私は満面の笑みで彼を見る。
「マーヴィン様の隣が歩けて、本当に嬉しいです。
婚約者になってくださって、ありがとうございます。」
そうなるまで、貴方の隣で。
貴方の魅力を、伝え続けていこう。




