17
はろー、ルシアです。
驚きの婚約命令の翌日。
私は自室で、満面の笑みでぴょんぴょん跳ねていた。
マーヴィン様から、お手紙が来た為だ。
私の手紙と、傷薬の御礼をあらためて述べられて、良かったら、1週間後に会う時は、魔法使いの塔に来ないかとのお誘いを頂いた。
ハッピー全開で、即、返事をしたためた。
いきなりアルファちゃん達に会いたいと言ってしまって、はしたなかったかなと後悔していたので、このお誘いはとても嬉しいです!
もちろん行きます!
絶対行きます!
這ってでも行きます!!
今からとても楽しみです!!
をお嬢様言葉で書いて、届けてもらった。
もちろん、字は出来る限り丁寧に書いた。
ふんふふん♪
それから、婚約者への手土産は何が良いのか、お母様に聞いた。
お菓子等は好き嫌いもあるから、ひとまず刺繍したハンカチでもプレゼントしたらどうかしら?
とのアドバイスを頂き、今回はそうすることに。
そのうち手作りお菓子とか渡してみたいけれど、貴族令嬢的にはNGかな?
お父様、やっていいか聞くと、必ず「良いよ」としか返事してくれないから、貴族的に本当にOKなのか、たまに不安なんだよね……
刺繍は何がいいかな〜
アルファちゃんとかデルタちゃん?
成人男性が使うには可愛すぎるかな?
それに、せっかくなら私の事を思い出してほしいよね〜
私らしいって…なんだろう?
白玉??
うーんうーんと悩みつつ、肩慣らしにアルファちゃんを刺繍すると、びっくりするほど可愛く出来た。
たまにこういう事あるよね…
ノートの端にささっと描いた落書きが、普段の何倍もよく描けちゃう、みたいな。
出来が良すぎて、試作にするには勿体無いので、マーヴィン様のイニシャルと、デルタちゃんも刺繍して、今回はこれでいこう。
アルファちゃんとデルタちゃんが、イニシャルに擦り寄っている構図に決める。
イニシャルは、僭越ながら、私の瞳の色である若草色と、マーヴィン様の瞳の美しい紫色。
気に入って頂けたら良いなー。
刺繍をさす以外だと、マーヴィン様について調べたりもした。
こういうとストーカーみたいだけど。
マーヴィン様は魔法使いとして研究などを行っているので、論文や成果の報告書などがあるのだ。
それを集めて読んでみた。
すると、なんとマーヴィン様、ロストテクノロジーだった、各地にある物の転送装置を復活させたお人らしい。
その装置のおかげで、現在では王都でも、新鮮なお魚や、日持ちしない果物などが食べられているのだ。
ええぇ……それ、復活した時、私すごいすごいって歓びまくった思い出があるんだけど……マーヴィン様のおかげだったのか。
本当に優秀な方なのね。
見た目も中身も素晴らしいじゃないですか。
しかし、当時の新聞などを改めて読んでも、マーヴィン様の名前は何処にもない。
誰の功績かは、私のように、論文などを調べないとわからないらしい。
えぇーー……
こんなにすごいことを成し遂げているのに。
マーヴィン様の事を皆で褒め称えようよ…。
国中に感謝されるべきでは……??
新しい論文から昔の方へ向かって読んでいるが、マーヴィン様の研究はすごい。
先程の、物の転送装置。
今はまだ、一度に運べる量も少なく、また、新しい転送装置も、現代の技術では作れないと、問題が多くあるらしいのだが。
これを何とかしようと、熱心に研究されている。
マーヴィン様の研究により、今年から運べる量が増えたそうだ。
それだけではない。
災害が起きた時や戦時に、物や人員をどう効率よく転移させるか、とか。
虫の大量発生で農作物が打撃を受けることがあるので、その時に虫だけを転移させる方法、とか。(ちなみに、虫の予定転移先は焼却炉内だった)
行っているのは魔法の研究だが、農業や政治、経済等への造詣も深く、そして何より、国民生活に寄り添って、考えてくださっているのがわかる。
国の為に出来る事を、直向きにやってくださっているのが伝わってきて、本気で尊敬する。
優秀な上に、心までイケメンじゃないですか!!!
最高かよ!!!!
やっぱり、皆で感謝を伝えるべきでは!?!?
ここまでして下さっているのに、表に一切名前が出てきていない事にモヤついて、夕食の席でお父様に聞いてみた。
すると、大変困った顔をされた後、
「ロイス伯爵自身が、ご自分の名前を前面に出されることを、嫌がっていらっしゃるんだ。
彼はほら……見た目が、その、まぁ、アレだろう?
忌避感や嫌悪感を持たれる事が多いから、前面に出されても困ると。
研究結果まで悪感情を持たれてしまう、などと言うことになりかねないと、恐れていらっしゃるんだ。」
とおっしゃった。
えぇ……なにそれ。
そりゃ、見た目が女神様に似てない事はわかるけど。
だからって、努力して成し遂げた事にまで、ケチがつくの?
国の為に、こんなにも貢献しているのに。
それすら認められないの?
聞いたら、モヤつきがムカつきに変わったわ…………
むすっと黙り込んだ私を見て、慌ててお父様が、きちんと貴族家の当主たちには誰の成果なのか理解されているし、陛下から褒賞も出ているからと言われるが。
そんなの、あ た り ま え ですから!!!!
マーヴィン様を、もっと褒めて、認めてあげてよ!
なんで、私、今まで知ろうとしなかったんだろう。
勉強不足を痛感して、今後は、マーヴィン様の婚約者として、もっとしっかり知識を付けていこう、と決意を新たにする。
というか、女神様に似てる見た目が一番美しいって何よ。
皆同じ顔してたら怖いでしょーが!
女神様だって、自分のコピーばっかりじゃ嫌でしょ!?
似てる人に加護を与えるって、そんな訳ないでしょ!
どんだけ自分好きなのよ!!
私からしたら、マーヴィン様の見た目は国宝級に美しいっつーの!
見た目も中身も最高だっつーの!!!!
なんでマーヴィン様の扱いが、こんなに酷いの!?
……だいぶ怒りのボルテージが上がってしまった。
落ち着かなくては。
でも。
この日、私は心に決めた。
マーヴィン様は、絶対幸せになるべき。
だから、私はマーヴィン様が幸せになれるよう、全力でサポートしよう!!、と。




