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マーヴィン視点

翌朝。



ガッシャーンッ!!


突然の音に、慌てて飛び起きた。

防御魔法を突破して、扉を無理やり開けられた。


そんな芸当ができる心当たりは1人しかいないが、そいつではなかった場合は、敵襲の可能性が高い。

いつでも魔法を展開できる準備をして、剣だけ持って下へ降りる。



玄関を覗くと、楽しげな笑みを浮かべた、黒の魔法使い、アドルフが立っていた。


やはりコイツか………




「…せめてこちらが起きてから来い。」


不機嫌に言うと、アドルフは小首を傾げる。

「婚約のお祝いに来たのに、酷いじゃないか。

ルシア・オードニー嬢と婚約したんだろう?

事前に教えてくれても良いと思うんだけどね。

まさか、君の婚約を人伝に聞くことになるなんて。」

笑顔の奥に若干の不機嫌さを滲ませて、言われる。





………?



起き抜けのせいもあり、全く頭が追いつかない。

何だって?


婚約?


…………オードニー嬢と言ったか?




「オードニー嬢が婚約したのか?誰と??」


私の問いかけに、アドルフは心底、不思議そうな顔をした。

そして、にやりと笑う。

「起きてないのかい?……それとも、陛下に、してやられたのかな。」


そして、つかつかとこちらに歩み寄り、完全に寝起き姿の私をマジマジと見た。


「マーヴィン・ロイス伯爵とルシア・オードニー侯爵令嬢が婚約したって。

昨晩の社交の場は大騒ぎだったんだよ?

何も知らないでフラッと顔を出してしまったせいで、人に囲まれて、今の今まで解放されずに困ってしまったから、苦情を言いに来たのだけれど。

……本気で知らないようだね?」


みるみる蒼白になっていく私の顔色を見ながら、アドルフは、はぁとため息をついた。


「まぁ、君がよく許可を出したな、と思っていたんだけど。陛下もよくやるね。」


よっぽど君の事が心配なんだねぇ。

という呑気な言葉を聞きながら。


私は震えていた。



一昨日と昨日の、素晴らしい思い出に、泥を塗られた心地だ。

せっかく、表面上だけでも、穏やかに微笑んでくれる、優しい女性との思い出ができたのに。





まさか婚約なんて。


嫌に決まっているじゃないか。



おそらく、一昨日の様子を密告した者がいたのだろう。

手を取り合っていたとか、微笑みあっていたとか、そういう事を陛下に言ったに違いない。

それに陛下が喜んでしまわれたのだろう。



だからっていきなり婚約の命を下す、陛下も陛下だが。


それも、こちらに何の連絡も無いのだ、オードニー侯爵令嬢にだって無いに違いない。

彼女の気持ちなど、まるっきり無視をして、王命で押し切ったのだろう。



なんという事か。


泣き腫らした顔をした彼女に、大変申し訳ないのですが……と言われる自分が容易に想像できて、絶望感が襲ってくる。


だが、これは良い方の想像だ。


罵られたり、目の前で号泣されたりしたら………



許しがたい。

彼女にそんな顔をさせる、陛下も、私も。


こうしてはいられない。

早く陛下のところへ行って、爵位返上でも国外逃亡でもチラつかせて、この茶番を終わらせなければ。

あちらが折れないなら、本気で国外逃亡してもいい。

彼女を苦しめるより、その方がマシだ。



「…というか、さっきオードニー侯爵令嬢の名前に反応してたよね?

今をときめく社交界の華と、いつの間に仲良くなったんだい?」

揶揄う調子で聞いてきたアドルフの肩に、さっと手を置いて、即、転移魔法をかける。

「あ!?ちょ、マーヴィンッ」


瞬く間に、アドルフは消えた。

今頃、本人の家の前だろう。


後で文句を言われるだろうが、今はどうでもいい。

私は踵を返すと、最速で身支度を整えて、陛下の元へと向かったのだった。







そして陛下の謁見とルシア嬢との庭園散策を終えて、帰宅した私を待っていたのが、アドルフとイーノックだった。


目の前のマグカップからお茶を飲みながら、ルシア嬢との出会いから、本日までのことを2人に話す。

「……それで、結局、本日すぐに婚約を破棄するのでは、外聞が悪いという話になり、しばらくは婚約者として過ごすことになった。」

アドルフは楽しそうに、イーノックは眉間に皺を寄せて私の話を聞いていたが、話し終えるとイーノックがすぐに口を開く。


「つまり、しばらくしたら婚約を解消するけど、それまでは婚約者ごっこをするってこと?」


「……そういうことだと思う。」


私の返答に、イーノックは不機嫌な顔で、

「どうせ解消するなら早い方がいいでしょ。

マーヴィンだって忙しいんだし。

週1で会うとか、時間の無駄じゃない?」

と言った。

それをどうどう、と宥めつつ、

「いや、相性が良ければ結婚するんじゃない?

オードニー侯爵令嬢の言葉を信じるなら、見た目は気にならないらしいし。」

とアドルフが言う。

「本気で見た目を気にしない人なんていないでしょ。」

「それはわからないよ。

それに、マーヴィンは見た目以外なら、真面目で、優秀な魔法使いなわけだから。

良い結婚相手じゃない?」

「でも、オードニー侯爵令嬢は社交界の華なんでしょ?

第一王子殿下の結婚相手だって可能性あるのに、なんでマーヴィン?

それに、外聞が悪いって言うけど、すぐに婚約破棄しても、多分あっちには大してダメージ無いんじゃない?

国一番の醜男相手じゃ、無理ないって皆言うでしょ。」

そうやって言い合う2人を見ながら、私も考える。

確かに、私のような醜い男の婚約者にされたなら、破棄しても仕方ないと思われるような。


なぜ、ルシア嬢は、婚約の継続を望んだのだろうか?


「マーヴィンはさ、婚約者として長く一緒にいたいの?

結婚したい?それとも、早めに解消したい?」

アドルフの問いかけに考える。

「結婚は、してもらえるなら、有難いが。

まぁ、無いだろう。

……どうせ解消するなら、早めがいい。」


長く一緒にいるのは()()

解消されるなら、できる限り早めが良い、そう思った。




「婚約してる理由、お金じゃない?貢がせたいとか。

魔法使いって貴重だし、お金持ちなイメージがあるから。」

イーノックが言う。

確かに、魔法使いは貴重ゆえ、そこそこ稼ぎは良いが。

しかしオードニー侯爵家と比べたら、劣るだろう。

あちらは国でも指よりの、やり手侯爵閣下だ。

ルシア嬢のことを溺愛していると聞くし、わざわざ私に貢がせなくても、欲しいものは手に入るように思う。


「陛下に物申せるから、すごい人だと思われたのでは?」

とアドルフ。

確かに、陛下に詰め寄っていたが。

そういった勘違いが生まれてしまったのだろうか。


うんうん唸る私とイーノックを見ながら、アドルフは口を開いた。

「まぁ、何はともあれ。婚約者するんでしょう?

せっかくだからマーヴィンの生活とか稼ぎとか、全部さらけ出しなよ。

稼ぎはあるけど、生活は質素倹約だし、全部見て、向こうが無理だと判断すれば、さっさと別れられるでしょう。」


それは、そうかもしれない。

さっさとガッカリしてもらい、婚約を解消するのが互いの為だ。


頷くと、じゃあ1週間後は、マーヴィンの塔に招待しなよ、アルファたちに会いたがっているみたいだし。と言われた。

そうだなと返して、息を吐く。


私の生活は、およそ貴族の()()ではない。

すぐに婚約解消となるだろう。


()()()()()()


そんな私の様子を見ながら、じゃあ、今日は解散でと2人は帰って行った。



「いや、全然、婚約解消したがってるように見えないんだけど?すでに骨抜きじゃない?

名前呼びを許可しているし、話の最中も、褒めまくってたよね?」


外に出るなり、不満げにイーノックが言う。


「まぁまぁ、普通に扱って貰えるだけで、骨抜きになる気持ちもわかるでしょう。

それに、さっきも言ったけれど、生活を見せて、オードニー嬢の反応を見るのは悪い事じゃないよ。

…どんな反応をするか、気になるよね?」


にやりと笑って言ったアドルフに、イーノックも同じ顔を返す。

「マーヴィンが骨抜きな分、僕達でオードニー嬢の事を見定めるって訳だね。」

「そういう事。1週間後、忘れないでね。」


アドルフの言葉に、イーノックは鼻息荒く帰って行った。


1人残ったアドルフは、雲の多くなってきた空を見上げ、ひとりごちる。

マーヴィンの言うように、女神のような女性なら良い。

でも、もし違うなら。


魔法使いは貴重な存在だ。

それを悪用しようとする者もいる。


「見定めないとね。……これも年長者の仕事かな。」

アドルフのつぶやきは、空へと消えていった。

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