表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/26

11

「婚約を解消してください!今すぐに!」




開いた扉の向こうで、相変わらず見目麗しいロイス伯爵が、陛下の執務机に両手をつき、身を乗り出して、大きな声で言っているのが聞こえ。

お父様からの話に、大いに膨らんでいた私の期待は、しゅるしゅると音を立てて萎んでいった。





昨日、私とロイス伯爵は婚約した。


急な話に大変驚いたが、どうやら薔薇園での一件にかなり大きめの尾鰭がついて、国王陛下に伝わったらしく。

ロイス伯爵の婚姻に悩んでいた陛下は、その噂に飛びついたとの事。


至近距離で恋人同士のように見つめあっていたとか、手を取り合っていたという噂が出たそうだ。

やだぁ、そんな風に見えてたの〜!?

恥ずかしい〜♡

と内心照れまくっていた私だが、同時に期待が膨らんでいた。


これはワンチャンあるのでは!?と。


色々やらかしてしまった訳だが、お父様とお母様は大丈夫だと仰ってくださったし。

昨日お詫びのお手紙も、出せたわけだし。

私、一応、絶世の美女(白玉だけどね)だし。

昨日付で、こ、婚約者になったわけだし?


これだけ外堀が埋まってしまえば、ロイス伯爵も流されて、私のことをちょっと意識して下さったりとか、あるのでは!?


そういう期待である。


そうして、朝からルンルンとご機嫌だった私。

目一杯可愛くしてね!と侍女達にお願いして、一生懸命オシャレをした。

普段は衣装選びなど、侍女に任せてしまうのだが、今日は自らドレスを選んだ。

本日は淡いピンク色のドレスである。

本当はロイス伯爵の瞳と同じ薄紫!と思ったけれど、あの瞳のような美しいドレスは持っていなかった。

あと、ちょっと恥ずかしくて、思い切れなかったのもある。

でも、アクセサリーは薄紫にした。

そうして、意気揚々と、お父様と登城したのだが。



そこで待っていたのが冒頭のひとコマである。






うわぁぁぁぁぁぁぁ!!



私のやらかしは健在であった。




まぁ、それはそうよね……

一瞬の夢だったわ……


私にとっては、ロイス伯爵は、二次元から飛び出してきたような、まさに芸術品というべき美貌をもつ男性。

転んでいたところを助けてくださり、しかも傷まで治してくださった恩人であり、常に紳士的な対応をしてくれた、好感度しかない相手だけど。


ロイス伯爵にとって私は、出会い頭に後ろへひっくり返り、お尻から生垣にはまっていた女であり。

助け起こした上に傷を引き取ったのに、怒って説教くさい事を言って、最後は名前も告げずにいなくなったやばい令嬢なのだ。



そりゃ、即刻、文句を言いにくるよね。


陛下相手にあの剣幕。


よほど嫌なのだろう。



あぁ〜……

マジで初対面やり直したい。

あの日の私を殴りに行きたい。



内心で猛省している間に、陛下が嬉々として私たちを部屋へ招き入れた。


陛下の執務室は、扉を入ると正面に大きな執務机があり、その前に、大人3人が余裕を持って座れるサイズの、モスグリーンのソファが、対面で2脚置かれている。

ソファの間にはテーブルもあって、陛下から見て右手側が広くなっており、補佐をする人の為の机と、壁一面の本棚がある、実務的なつくりだった。


宰相閣下が陛下の右後ろに立っており、ロイス伯爵は反対側から陛下を問い詰めていらっしゃるところだ。

陛下がにこにこ笑顔で私たちを招いている間に、ロイス伯爵も執務机に置いていた手を離し、姿勢良く立たれる。


父が簡単に挨拶をして私を紹介したので、淑女の微笑みを浮かべてご挨拶。


「オードニー侯爵家が長女、ルシアでございます。」

渾身のカテーシーを披露する。


私は!

今この瞬間のために!

淑女教育を受けたのだっ!!


そんな気持ちを込めたカテーシーだ。


いや、どんなだよ。

というツッコミはやめて頂きたい。

これ以上、ロイス伯爵からの好感度を下げるわけにはいかない。

私は必死なのだ。


顔を上げたら、陛下を見てにっこり。

宰相閣下を見てにっこり。

そして、ロイス伯爵を見てにっこり。


サラリとゆれる、艶のあるブラウンの髪。

マリアライトのような淡い紫色の、宝石のような瞳。

相変わらず芸術的な麗しさである。

しかし。

形の良い眉は、本日はきゅっと寄せられて、眉間に皺が寄っている。


……不機嫌そうだなぁ。


そう思っていると、ロイス伯爵は眉間の皺を伸ばし、貴族的な微笑で紳士の礼を返してくださる。

「王宮魔法使い、マーヴィン・ロイスと申します。伯爵位を賜っております。」

はい。

顔も大層よろしいが、落ち着いて、艶のある響きの声も大変良い。

挨拶だけで、うっとりである。


何故、こんな素敵なイケメンから嫌われていなければいけないのか。

つくづく自分が嫌になる。


引き続き、自らのやらかしを猛省していると、陛下が「座って座って!」と嬉しそうにソファをすすめてくださった。


社交界デビューの時にご挨拶させて頂いただけで、非公開の場で会うのは初めてだけど、陛下ってこんなに気さくなんだなぁ。

第一王子殿下がそのまま成長した感じの、大変人の良さそうなお顔に、懐っこい笑顔を浮かべて手招きしてくださっている。


そんな風に思いつつ、お父様と並んでソファーに腰を下ろすと、反対側のソファーに、ロイス伯爵が座られた。


と、思ったら。

ロイス伯爵は、即、立ち上がって、腰を90度近く折った、深い礼をする。


「この度は、誠に申し訳ございません!」


いきなりの謝罪に驚くが、隣のお父様は驚く事なく、穏やかに、

「謝罪は不要です。おかけください。」

と言葉を返した。


ロイス伯爵は「ですが…」と困ったようにこちらを見た。

しかし、笑顔のお父様と、状況について行けていない私の顔を見て、一旦座ることにしたようだった。



えっ

なんの謝罪?


まさか、貴女と婚約なんて絶対嫌です、ごめんなさいの、謝罪???


そうだったらどうしよう……


衝撃で固まる私を残し、国王陛下とロイス伯爵が話し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ