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あぁ、この世界、前世とは美醜感が違うんだなぁ。
そう気がついたのは3歳の頃。
お母様に連れられて行った、ご婦人たちの小規模なお茶会で、絶世の美女だわ!将来楽しみね!!と、私自身が大絶賛された事がキッカケだった。
*
こんにちは。
私の名前はルシア・オードニー。
一応、この国の中ではそこそこ地位の高い、オードニー侯爵家の長女をしている。
前世は令和の日本のしがないOLで、乙女ゲームが趣味だった。
そんな私が生まれ変わったのは、魔法ありのファンタジーな中世ヨーロッパ風の世界。
転生!?
転生なの!?
まさかお気に入りの乙女ゲーム!?
それとも転生モノの小説とかかな!?
えーっ!
どうしよーーー!!
やっぱり悪役令嬢かな!?
侯爵家だもんヒロインではなさそうだしー??
…などと、最初はドキドキワクワクしていたのだが。
物心ついて鏡を見たら、悪役令嬢では無いらしかった。
艶々のブロンドに、真っ白くてすべすべの肌、までは良かった。
でも、困ったような下がり眉に、びっくりするようなタレ目で、鼻は丸っこくて低く、唇厚めの顔は、どう見ても悪役ではない。
愛嬌はあるけど美人ではない、その辺りにいるモブっぽい。
気の強さなど微塵も感じさせない顔である。
ついでに、物心つきたての幼児とはいえ、私は、ポチャ…いや、一歩間違えれば、デ…ブ………………。
こほん。
いや、幼児だし。
これからシュッとするだろうけど!
てかするけど!!
何としてもシュッとするよう頑張るけど!!
……みたいな見た目だったのだ。
悪役令嬢転生、してみたかった人生だった。
そして、件のお茶会である。
そのお茶会では、我が家以外も子連れで集まっていた。
多分、子供の社交慣れとか、顔合わせとか、そういう意味合いのお茶会だったのだろう。
我が家は侯爵家の中で、まぁ、上の方の地位らしいけど、我が家より上の公爵家のご婦人やご令嬢もいた。
そんな中で。
他の子供達を差し置いて、私はご婦人方に囲まれ。
そして、全てのご婦人に、はちゃめちゃに褒められていた。
曰く。
「まぁ!なんて愛らしいお嬢様なんでしょう!
ご覧になって、この眉の垂れ具合。
素晴らしいわ!」
「本当に!それに、太さも形も本当に美しいわね。」
「それにこの美しい瞳!縁取るまつ毛が目尻に向かって、徐々に下がっていく、この角度!!」
「私の目元もこんな角度だったなら良かったのに!」
「まさに全ての人々が憧れる目元よね!」
「鼻の形も完璧よ!丸くて小さくて、何て愛らしいの!!」
「唇だってそう!」
「顔立ちだけではないわ、この体型!!
さすが美男美女のオードニー侯爵夫婦のお嬢様ね!!」
と。
皆様、大興奮の、激褒めであった。
いやいや、あなた方がコンプレックスだと仰っている、そのシュッとした顎とか、むしろ羨ましいですけど…?
ちょっと気の強そうな吊り目も素敵では?
すっと通った鼻筋の、高い鼻の方が良くないですか?
え?
ダメ?
醜い???
ど、どこが…???
と、混乱しつつ、でも、何となく、あー、前世とは感覚が違うんだと、私は気がついたのだった。
*
結論から言うと、この世界の「美」は、信仰されている、世界創造の女神様の見た目が基準らしい。
女神様の像は教会に行けば飾られていて、教会を訪れた全ての人が、いつでも見ることができる。
ナチュラルメイクくらいの太さのたれ眉に、大きな瞳の垂れ目。
小さめの丸っ鼻に、ぷるんとしてそうな、色気を感じさせるぽってり厚めの唇。
私的には、美しいより「可愛らしいなぁ」と感じる見た目だ。
そして、前世基準で言ったら、肉付きが少々よろしい。
つまり、ぽちゃってる。
体重気にして、何回もダイエットにトライしてるのに、結局毎回失敗している女の子、みたいな。
親しみやすさを感じる見た目の女神様である。
しかし、その女神様の見た目こそが、この世界的には最大級にして最上級の美しさなのだ。
まさに神々しい、眩いばかりの美しさであるらしい。
うーーーん。
美しい…いや、可愛くはあるんだけど。
愛嬌はあるんだけど。
美しい…?
シュッとした顎は残念ポイント。
垂れてない眉も残念ポイント。
吊り目も残念ポイント。
細いモデル体型も残念ポイントで、痩せているくらいならデブの方が受けが良い。
それを、疑問に感じるのは私だけ。
違和感が無くならないが、まぁ、この世界の美醜感は、そういうものらしい。
*
そして、お茶会から13年。
デビュタントを迎えた16歳の私、ルシア・オードニーの見た目は、誠に遺憾ながら、そんな女神様の像とニアイコールに成長していた。
数多のダイエットは侍女と、メイドと、親兄弟に涙ながらに阻止されて、でもデブは嫌なので地味〜に隠れてダイエットした身体は、見事なぽっちゃり体型。
相変わらずのたれ眉、垂れ目に、丸くて小さな鼻。
年頃になってうるおい感が足された、ぷるんと厚みのある唇。
侍女達によって、日々丁寧に磨かれた、艶々でゆるふわのブロンドヘアと、白くてきめ細やかな肌。
そう。
私は、この世界基準の絶世の美女と、相成ったわけである。