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推理少女は死を追った  作者: ReMiRiA
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 9話 探偵の気配り、行く末の覚悟

「起きたようだな」

目を覚ますと部屋の中に居た。知らない部屋だ。

自分の身体を見渡して治療された後に気が付いた。敵意はないと言う訳だ。

「何者、なんですか」

念の為に警戒しながら質問すると男の人は乾いた声で答えた。

「俺は工藤刃。お前、あんな死に場所で何をしていた?」

「…事件の依頼を受けて…向かって…最終的に探偵が…死んだ」

「じゃあ、お前は助手と言う訳だな、合ってるか?」

そう俺に真意を尋ねると刃さんは煙草に火を点け…軽く息を吐いた。

「…辛かったな。その様子、返り血的に目の前で死んだんだろ?」

「…あの場所は、どうなったんですか?」

「ー封鎖された。危険区域としてな。敵も殆どは殲滅したが…逃げられた」

軽く吐き捨てて色々と説明をしてくれた。

俺が綾目の死を見た後に空爆を受けて離れたところで倒れていたらしい。

それを刃さんやその仲間たちで介抱した状況だった。

「探偵の名前は何なんだ?」

「…影野綾目です。俺の師匠で…俺を救ってくれた命の恩人でした」

隣を見ても彼女は居ない。どれだけ叫んでも彼女は現れない。

どれだけ彼女を探しても…どれだけ…ても…彼女は…居ない。

人が死ぬと言うことはそういうことなのだ。

「…泣きたきゃ泣け。男の涙に価値はないが誰かを想うことに価値がある」

「そう、ですね」

考えたくなくても溢れてしまった。

止めどなく流れる涙を俺は堪えることが出来なかった。

何で俺だけが生き残ったんだと。何で師匠が死ななければならなかったんだと。

思い返しても…もう変えられない事実となってしまった。


「運命なんて…クソ喰らえだ」


そう目の前で泣く少年を横目に俺は連絡を入れた。

傍から見てもその様子からして相当なショックだったのだと見て取れた。

「(その若さでその体験をするとは…。少年も残酷な人生を歩んだものだ_)」

その年で興味本位に覗いた深淵は深く…闇そのもので…大きな代償を伴った。

『少年は無事な様子だと判断して良いんだな?』

相手の確認に俺は少し悩んだ末に返信する。彼の外観だけで判断するのは癪だ。

最も、それはあくまで中身を伴ってない場合だけであって彼も人間だ。

唯でさえ、辛辣な現実に心が無傷で済むはずない。俺はそう思った。

「なぁ、少年_名前は…瑛都、なんて言ったな。少し話せるか?」

「…続けてください」

「お前は家族と住んでるのか?」

「上京して単独です」

「そうか。お前次第だが…俺の事務所に住まないか?」

黙ってしまった。そりゃそうだよな。と自嘲する。

大切な人を失って唯でさえ現実逃避したくなるのに俺は引っ張り出した。

だが、残酷なことに何時までも幻想に浸っては要られないのだ。

「お前からすれば嫌なことだろうが考えてみてくれ」

俺はお前を何時でも待ってる。だから、まずは気持ちを整理しろと残して。

そうして俺は住所を書き留めたメモを渡し少年と別れた。


「そう、だったんですね」

先輩の表情は余り変わらなかった。

「別に気にすることじゃない。でも…弘乙。覚えてて欲しいんだ」

今を大事にしろ、そして…どんな窮地でも人を頼れ。

その言葉は先輩だからこその重みを感じるモノだった。

「それで、先輩は刃さんと出会ったんだね」

どうやら推理もその情報は知らなかったらしい。

「(それもそうか。誰辛辣な過去を話したがる奴は居ないよな)」

不思議に思った自分を殴りたくなったが此処は思い止まった。

何しろ、此処は墓場だ。墓場で自分を殴るなんて不謹慎にも程がある。

「刃さんは…俺にとって…人生を変えてくれた1人なんだ」

「…だから、先輩は否定的になるんですね」

「言い訳にもならないが…俺にとって其処だけは譲れない1つなんだ」

「それで私は正しいと思ってますよ」

また俺の枠外で話を進める辺り少し疎外感を感じたが触れないでおこう。

そうすることしか俺には出来ることがなかったと言うべきなんだろうがな。


「放課後なのに随分と賑わってるんだね」

用事があると言った先輩と別れ俺と推理は映画館へ来ていた。

理由は単純で推理が放課後映画をしてみたいと言い出した為である。

「ほら、もうすぐ上映されるよ」

「あぁ。それにしても…お前が恋愛映画を観るなんてな」

「私も立派な乙女だからね。恋愛を楽しむのも醍醐味だと思うよ?」

そう嘯きながらも上映室へと入って行った。

「助手として特別に食べさせてあげるよ」

何時、買ったんだ。そう突っ込み掛けたが此処は黙って貰うことにした。

周囲が暗くなり上映が始まったのだが…俺は余り興味を持てなかった。

恋愛小説などは嗜んでも映画まで見るかと言われると余り好まない。

勿論、そんなことを言って雰囲気を壊したくなかったので黙ってたが…。

隣を見れば推理が居た。当たり前のことでも昔では考えられないことだ。

高嶺の華で…俺とは真逆の存在で…そんな彼女と探偵業を営んでいる。

誰が想像出来たのだろうか?こんな未来を。想像出来るはずもない。

そんなことを思っていると何時の間にか上映も終わってしまっていた。

「大分良かったね。弘乙もそう思うでしょ?」

「あ、あぁ…」

推理にそう振られて黙ってしまう。何しろ、殆ど映画を鑑賞してなかった。

映画の中身を質問されたらどうしよう。そう思っていると

「本当は映画は余り興味なかったんじゃない?」

案の定、バレてしまったと濁していると推理が笑みを溢した。

「それに、映画じゃなくてずっと私の方を見てたでしょ?」

凄く視線を感じたけど。そう付け足されて何も言えなくなってしまった。

「別に見てた訳じゃなく色々と考えててそうなったんだ」

そう言い訳をしてみたものの推理に笑われてしまった…最悪だな。


映画館を出て俺と推理は少し離れた本屋へ来ていた。

「ほら、あったよ。君の買う予定だった本」

「どうも。で、どうせ俺に金を払わせてお前も読むんだろ?」

当たり前のことを言うんだね。そんな彼女にジト目を向けながら本を買った。

その後も色々と新刊情報を調べたりしてから本屋を後にした。

「君は読書することが本当に好きだよね」

「読書は心を落ち着かせるのに有効な行為だからな。当たり前だ」

「…無理に知能系キャラを演出しなくても良いんだよ」

そう呆れる推理は無視することにした。その後は近くの公園に来ていた。

放課後だからだろう。随分と子供たちで賑わっていた。

「ーなぁ、推理」

「どうしたの、弘乙?」

「考えたけど…やっぱり_囮になるのは止めるべきだと思うんだ」

俺はずっと内側に秘めていた言葉を吐き出した。

何故、今になって言ったのかなんて考えてすらなかった。

唯、言えるチャンスは今だけだと_。そう本能が訴えているように感じただけだ。

「…急に作戦を折りに来たね。君の度胸がある姿は私も好きだよ」

そう彼女がはぐらかす結果は目に見えていたからそんなことで退くはずもない。

彼女に危険が迫っていることには変わらないのだから。

「冗談だと思ってる風だが俺が言ってるのは本当のことなんだ」

「…それは作戦に対しての心配じゃなくて私に対しての心配なんでしょ?」

その切り返しに_何も言えなかった。何で彼女の…囮を危惧してるのか。

囮になるのはギャンブルだと。自分の人生を賭けるような危険なことはするなと

そう心の奥底で叫んでるのは間違いないのに具体的な理由は言い出せなかった。

俺が推理を大切に思ってるからなのか大事な存在だからなのか。はたまた_。

「図星…とは言えない顔だけど_何方にせよ理由が同じようなら私はするよ」

そう言い切ると推理は呆れたような表情で続けた。

「君の心配はとても光栄だけど…でも大丈夫だって前にも言ったでしょ?」

まぁ、心配性な助手も十分に可愛いけどと頭を撫でられてまたはぐらかされた。

そうしてどう頑張っても意思を変えることは出来ず俺の言葉は無惨に散った。

今日の空は酷く晴れていた。

それも、夕焼けが無駄に眩しいくらいには_。


公園を出て色々と用事があった推理に付き添った後、推理の部屋に訪れた。

「お久し振りですね。水野様」

そう会釈した有栖さんに俺も軽く頭を下げると腰を下ろした。

「話題に振るのも癪だけど…傑さんに色々と言われたらしいね」

「ー流石に知ってるとは思ってたけど…先輩から話を聞いたんだろ?」

少しの間を挟んで俺は諦めたような口調で答えた。

知る方法として盗聴と情報収集が有り得るが前者はない。となれば…消去法だ。

情報収集を得意とする推理なら何時かは知ると思ったが流石に早過ぎた。

「瑛都を責めないでね。私が瑛都に問い糺したことなんだから」

彼奴が口を割った訳じゃないよ?そう付け足して推理は溜息を吐いた。

そうして再び珈琲を啜りながら彼女は表情に影を落とす。

「大丈夫、何も心配することはないよ。危害は加えさせないって誓うから」

それは私が保証する。そういうと彼女はふっと笑みを浮かべた。

俺は単純に現場でも同じように行動するのだと。そんな意味だと思っていた。

それが自分の思い上がりだったことは後から思い知らされることになった。

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