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推理少女は死を追った  作者: ReMiRiA
2/18

 2話 探偵と助手、そしてメイド

「何で来たんだ?」

翌日の昼休み。俺が昼食を取ろうとしたら推理が寄って来た。

「よいしょっと。あ、そんなに欲しそうに見てもあげないよ?」

俺の質問を無しながら彼女はそう答えた。

「要らないし見てない。そもそも何で此処で食べるんだ?」

「探偵と助手はセットなんだよ。御飯と味噌汁のようにね」

「…下手な比喩表現は止めるべきだと助手から助言しておく」

そう突っ込みながら俺は弁当を取り出した。時間を割くほど暇じゃないのだ。

「はぁ…、。本当に君は冷たいね。もっと優しくするべきだと思うよ」

そういうと彼女は前の席を借りると俺の方に向けると座り直した。

途端に騒然とする教室。彼女は探偵なのに状況が見えてないのだろうか?

「…此処で食べるなんて言い出さないよな」

「食べるに決まってるでしょ?それくらいの状況は把握しなきゃ」

訂正。状況は把握していたようだ。最も、空気を読めないだけだったらしい。

どう、私の弁当は?と俺の要望を無視して彼女は弁当を取り出す。

「彩りを考えてる辺り…推理も料理は出来るんだな」

「出来ないよ。『召使』に任せてるんだ。召使と書いてメイドと読む」

「…召使なんて居るのか?だったら、召使に助手を任せるべきだろ」

領主と召使。探偵と助手。関係は違えど立場は同じだ。そう思ったが…

「君は分かってないね。召使と助手を持つのが探偵の筋なんだよ」

「俺の経験上、聞いたこともない話だな」

助手と召使を掛け持ちする探偵なんてそれこそ前代未聞だ。

「前にも後にも居ない。正に現代に名を轟貸せる探偵だね」

思わず呆れたがそれで彼女は満足しているらしいし放っておくことにした。

因みに…あの後の周囲について言及しなかったが…何も言わずに察して欲しい。

何故かって?男子の嫉妬の視線で殺されるから。口に出さなくても分かるだろ?

「君って、本当に冷静だよね」

「それは褒め言葉なんだろうな」

「私の中では助手はボケる存在だと思っていたよ」

探偵小説では探偵が冷静で助手が騒ぐ…みたいな形を言っているらしい。

「…立場が逆転して良かったな。因みに、その理論なら俺が探偵でお前は助手だ」

「…助手が探偵を超えるのは探偵小説では禁止されてることなんだよ」

「…十戒に記載してない内容だった気がするんだが?」

あくまでそれは探偵小説を演じるだけの話だよ。そう彼女は笑う。

「まぁ、少なくとも感情は表に出すべきだよ。読者はその反応が面白いんだしね」

「残念だが…此処は現実だ。演出はあくまで本の中だけであって此処にはない」

「…その卵焼き美味しそうだね」

急に話を変える辺り何も言い返せなかったのだろう。

「あ、そういえばさ。探偵なんだろ?事務所…拠点はあるのか?」

「あるよ。まぁ、余り公にはしてないんだけどね」

「…あるのかよ。というか公にしてないのかよ」

うん。私の召使が管理してるんだ。と胸を張った…張れる要素は0だが。

「…もうその召使が助手で良いと思うんだが」

「それは駄目だって言ってるでしょ?弘乙くん」

やれやれと首を振る彼女に俺は呆れたような眼差しを向けたのだった。


「じゃあ、今から助手くんを私の事務所に連れて行ってあげよう」

「…何で遠足みたいなテンションなんだよ」

「それはそうと君はどうしてそんなに疲れてるの?意外だね」

「それはお前の所為だろ」

と毒突く…正確には推理の人気の所為だが。

あの後、用事で先に帰った推理を放置していると袋叩きに遭った。

どういう関係だの、死ねだの、殺してやるだの、呪ってやるだの…散々だった。

俺は状況説明もすることなく(逃げ)帰った推理の所為で理不尽を被ったのだ。

「それは…早急に解決しないと駄目な課題だね。助手くんが不在なのは問題だ」

「どうするつもりなんだ?」

「あ、そうだ。どうせなら、交際したって噂を流すのはどう?」

「馬鹿なのか?火に石油を足してどうするんだよ」

そう呆れると『私も状況説明が大変だったんだよ』と返してくる。

推理に何の状況説明を要求するのか?そう疑問にした時だった。

「ほら、此処だよ。私の拠点は」

推理が立ち止まった場所は…

「拠点って…俺の住んでるマンションじゃん…」

目の前にある建物は何度見ても俺の住んでるマンションだった。

「ほら、早く行くよ?」

「待ってくれ。此処は俺の住んでるマンションだ。間違ってるんじゃないのか?」

「君も此処に住んでるのは知ってるよ、昨日も来たしね。そして…私も住んでる」

「…冗談だろ?」

「冗談じゃないよ?ほら、君と同じカードを持ってるでしょ」

そういうと彼女はマンションのカードキーを見せた。どうやら本当のようだが…。

「なぁ、推理。元々、此処に住んでなかったよな?」

「…住んでる、けど。…小さい頃から住んでた、よ?」

「そんな訳ないだろ。だって、お前の住んでる部屋…俺の部屋の()なんだぞ?」

「そ、そんなに気にすることじゃないでしょ…?ほら、早く入ってよ」

そういうと鍵を取り出して中に押し込まれた。そうして…

「初めまして。霧切様の召使をしております。有栖と申します」

手を三角に折り深々とお辞儀をする姿は想像の枠にある召使そのものだった。

「あ、有栖。そんなに畏まらなくて大丈夫だよ?彼は、私の助手だし…」

「助手…。つまり、将来の旦那様と…!」

違うに決まってるでしょ!と顔を赤くし憤慨しているが俺からすれば唯の冗談だ。

「えっと…有栖さんは推理の召使ってことで大丈夫なんですよね?」

「はい。私は霧切様の幼少期の頃から支えておりますね」

「そうなんだ。推理に仕えるのは大変でしょ?」

「そうですね。大変な部分もありますが普段の霧切様は可愛いのですよ?」

そう口元に手を当てて微笑む。仕草に上品さを感じる辺りちゃんと徹底している。

「有栖、変なことは言わないでよ?勘違いされるでしょ」

そういう彼女の顔は真っ赤だ…本当のことなのだろうか?

「将来の旦那様なので霧切様からお話されるのですね!」

違うって言ってるでしょ!そう推理が叫んだのだった。


「水野様。紅茶です。どうぞ」

「あ、すみません」

そう会釈してカップを手に取った。鼻の奥まで広がる風味…明らかに高級な奴だ。

「紅茶を楽しんでるところで濁すようなんだけど…本題に戻るよ」

「そういえば、探偵の仕事をするんだったな。具体的には何からするつもりだ?」

「うーん。まぁ、取り敢えずはコレを見て貰った方が早いかな」

そういうと彼女は立ち上がり棚から1冊のファイルを取り出した。

「これは私が今までで解決した事件をまとめたファイル。読んでみて」

そう手渡されたファイルを手に取り開いてみた。そして…違和感を覚えた。

「なぁ、推理。…これらの事件って内容の割に公にされてないものばかりだよな」

「まぁ、流石に気付くよね。それもそうか」

例えば9日前の夜、此処から3キロ先で爆破事件が起きていた。

勿論、爆破事件なんて報道されて当然の内容だが報道されることはなかった。

常識的に考えれば爆破事件を報道しないなんて異常だろう。

その上、3キロ圏内なら爆発音くらい聴こえてもおかしくないはずだ。

でも、そういう話を聞かなかった。ということは…。

「探偵であっても起こってない事件の捏造は流石に良くないと思うぞ」

「…だから、言ったでしょう?ちゃんと説明しないと理解することはないと」

「だよね…ごめん、有栖…。まず、弘乙ってこの世界を何処まで知ってる?」

この世界を何処まで知っているのか。それはどういう意味で質問したのだろうか?

「世界情勢って意味か?それとも経済についてか?」

「違う違う。私が聞いてるのは世界の()()についてだよ」

「世界の()()…?まさか、未解決事件は仕組まれてた。なんて言わないよな?」

「話が分かるね。私はそれらの組織に関連した《危機》を防いでいるんだ」

…何だか話が大事になって来たぞ?フザけたモノだと思っていたのに…。

「なぁ、有栖さん。推理の話は冗談なんだよな?」

「水野様。残念ですが…霧切様のおっしゃったことは全て本当のことです」

「ふふーん。どう、見直した?私の凄さを」

そう胸を張る推理に対し段々と俺は不安が募るばかりだった。

「そんなことを言われても到底…信じられることじゃないんだけどな」

でも、推理だけでなく有栖さんまで嘘を吐くとは思えない本当のことなのだろう。

じゃあ、何処までその《危機》は迫っているのか?何も知らずに生きているのに?

「推理が世界の真実を知ったのは何時のことなんだ?」

「さぁ?でも、私が産まれる前からずっと《危機》はあったのは間違いないよ」

「…例えば?」

「それこそ、第三次世界大戦の引き金を防いだりパンデミックだってあるよ」

「…もしかして、俺の想像以上にこの世界は《危機》に曝されているのか?」

「そうだね。まぁ、君も知ってしまった以上は穏便に過ごせないだろうけど…」

「君が過ごしていた日常は意味のないモノでもある意味大切なモノだったんだよ」

そう彼女は微笑んだと同時に寂しそうな顔を見せたのだった。

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