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戦闘訓練〜観察〜


 スマホを見る。時刻は2時半を指していた。鋼座の試合のときとは打って変わって、観覧席には人が溢れている。

 それもそのはず、『氷傑』こと破魔乃氷見。高校生にして数々の難関ダンジョンを攻略した、史上最年少のA級冒険者。故に様々な人が参考にしようと試合を見に来ているのだ。


 臨機応変に対応し、確実に勝利を掴むその姿は、まさに「美しい」という言葉を体現したようだという。ここに鋼座の試合を見に来る人がいない理由がある。

 鋼座は良くも悪くも荒々しい闘い方。あいつの試合を見るのならば、こっちの相手に対して冷静に闘い方を変える、氷見の試合を見たほうがタメになる、というのがほとんどの人の共通意見。


 そういうところが、()()()には気に食わないんだろうな。


 話し声が落ち着き始め、目線を下ろせば4人の女性が入場口から出てきたところだ。氷見が先頭に立ち、その後ろから傘のように開いた形でそれぞれが武器を持って戦術機甲に向かって歩く。


 茶髪のメガネを掛けている子は魔導杖を、黒いテンガロンハットを被っている子は腰に銃を、大の大人と変わらない身長を持つ子はハルバードを、氷見は刀を腰に下げている。

……そういえば氷見の班の子の名前全員知らないな。


 しばらく歩いてからヒビキが止まる。続いて、その両隣にチームメンバーが1列に並ぶ。戦術機甲との距離は大体10〜14メートルといったところだろうか。

 その間に、スラッとした体系の180センチはあるであろう男の人が位置している。


 さて、上から目線で申し訳ないが


「魅せてもらおうじゃないの」


 一人、誰にも聞かれること無く、呟く。


〜破魔乃氷見〜


 一つ、息を吐く。深く、深く。まるで地面に落ちるように。

 はっきり言おう、緊張している。だって、きっと、私にとって大切な人が見ているんだもの。情けない姿なんて見せることができないから。


「両者、構え」


 先生の合図が言われる。私は刀を抜いて、中段に構える。左端にいる如月(きさらぎ)未来(みく)は魔導杖を、その隣の神楽咲(かぐらざき)(まい)は双銃を、私の右にいる如月(きさらぎ)優香(ゆうか)はハルバードを、それぞれ構える。

 対して戦術機甲は腰を落とし、一部の隙もない構えを取っている。


「意外と行けそうじゃないか?」


 優香はそう言ってくる。


「ううん、全然。今のままじゃ、返り討ちにされるだけ。ちゃんと作戦通りにいきましょう」


「氷見がそう言うなら、わかった」


 予想していた通り。かなり、『目』が肥えていないとあの構えは「不十分」に見える。

 改めて言葉にすると恐ろしいな。強力な魔法、強力な体術、隙のない構え。それに加え、()()にしかわからないこともあるから。


「戦闘、始め!」


 先生の合図とともに戦術機甲の纏う魔力が一層と強くなる。最初はお互いに動きを見ている。こちらからしたら今攻撃するメリットは薄い。後手の対応になるが、先に相手の動きを見るのが懸命だろう。


 という考えは甘かった。


空打(そらくだき)


 機械音声の詠唱破棄とともに魔力が爆発し、空中に正拳突きが放たれる。

 その威力の強大さは、その場にいる者の全てを絶句させた。


騎士の加護(ナイト・シールド)


 こちらも詠唱破棄。咄嗟に未来が前に出て魔法で私達を守ってくれた。

 だが、魔力防壁は破壊される。相手の技とともに。


「危なかった。今の攻撃、職業(ジョブ)の補正がなければ貫通してた」


 冷静に相手の技を分析しているが、頬には冷や汗が垂れていて、先程の攻撃の威力の凄さがよく分かる。


「あと、何回なら受けれる?」


「この程度なら、さっきの魔法を打てる程度の魔力があれば何回でも」


 今のは観察したときに見た中でも、一番に技の出が早くて威力もなかなかにあるスキル。それを魔力がある限り何回でも受けれるのは助かる話だ。

 ならばこちらも一撃お見舞いしてやるか。


「攻めるよ。とりあえず、いつものヤツで」


「オッケー」


 舞が一番に走り出して戦術機甲に魔弾を放つ。確実に急所を捉えたその魔弾は一蹴され、粉々になった、が。

 今の速度ではギリギリ弾けているだけ。もう少し魔力を込めれば当たるのはわかった。

 舞とアイコンタクトをする。右の親指を立てて来た。合図だ。


 続けて優香が戦術機甲を相手にインファイトを仕掛ける。ハルバードの金属と戦術機甲の腕の金属がぶつかり合う音があたりに響く。その背後から、舞の援護射撃が襲いかかる。

 皆が気を引いている間に、私もこの場を整えるとしよう。


『広がれ、古代の氷河よ

 包まれろ永久の凍土に全は凍り、不滅の竜すら絶滅を果たす

 輪廻に還らず、ただひたすらに寒い寒いと呟いて

 生にも死にも縛られず

 ただの氷に囚われる』


 川の流れのように、詠唱が紡がれる。今から放たれるのは範囲一帯を氷で包む結界魔法の一種。

 魔法の極意、その一つ。


永久(エターナル)なる()凍土(フローズン)


 私を中心として、氷が広がっていく。戦闘場の端から端まで、全てを、悉くに。

 この結界の効果は氷属性の魔法やスキルの威力を底上げする単純なもの。でも、目的はそこじゃない。


 一歩、踏み出す。同時に靴の裏から魔力の刃を出し、スケートの要領で近づく。

 戦術機甲の魔力が、一瞬だけ消えた。スキルを撃ってくる。チャンスは、一度きり。


「防御魔法を私以外に全力で!!」


「はいはい、『騎士の要塞(ナイト・ウォーリアー)』!!」


 未来が詠唱破棄により、広範囲の防御魔法を展開した。未来を中心としてドーム状の防御結界が構築される。

 優香と舞が私と同じようにスケートの要領で移動して離脱。防御結界の中に避難した。


覇壊蹴(クラッシュインパクト)


 大きい予備動作。奔流する魔力。それに伴った、えげつない威力の回し蹴り。

 まともに食らったらただじゃ済まない。魔力で防御したとしても、腕の一本は簡単に飛ぶ。

 でも、それは「まともに」受ければの話だ。


吸収(アブソーブション)


 刀で蹴りを受け流す。半端なく重いが、結界魔法展開中にかけてもらったバフのおかげでギリギリ力を受け流すことができた。そして、魔法によってスキルの威力と魔力を吸収する!

 それらの全ては自分には還元されない。だが、()()()()()()()()()()()

 相手はスキルや魔法の前隙と後隙にのみ、攻撃が通る。つまりチャンスはこの一瞬。


「胴ががら空きだよ『月光流 三日月一閃』!!」


 靴裏の刃を解除して氷を割って踏ん張りを聞かせて一閃。

 黄色に輝く軌跡が胴を捉えた。装甲が剥がれ、赤色に輝くコアがあらわになる。

 戦術機甲が怯み、一歩二歩と後ろに下がる。


「皆、今だよ!」


 掛け声とともにそれぞれが次の行動に移る。


死神の大鎌(デス・サイズ)


岩石砲(ストーン・キャノン)


聖なる槍斧(ホーリー・インパクト)


 皆の本気の一撃がコアに叩き込まれる。パキパキと音を立てながらコアにヒビが入っていく。

 恐らく、勝った。ここからの反撃はほぼ不可能と見てもいい。僅かな隙をついた攻撃により弱点が露出し、追撃でその弱点も壊れる寸前。負け筋があるとしたら、あのスキルを撃たれるぐらいだろう。


「どうやら、ここまでか」


 声が、聞こえた。彼の声が。それとともに気配が、濃く、強くなる。


「防御魔法を、急いで!」


『我が守護神よ、無垢なる願いに答え給え 女神の祝福ブレッシングオブアテナ


 巨大な結界が皆を包む。戦術機甲の魔力が()()()()()()


死爪(デスクロウ)


 スキルの発動。圧倒的な威力の前に、パキッと情けない音を立てて結界にヒビが入る。

 一回、二回、漆黒の魔力が防御結界に当たるたびに霧散する。そのたびにヒビが大きく、深くなる。


「これ以上は、無理・・・!」


 こちらも限界のようだ。でも、相手だってそれは同じはず。


「ちょっと、何する気!?」


 舞が叫ぶ。でも、そんなのは気にしない。


 走り出す、剣を構えて。私が、この状況を、変える。相手に、とどめを刺す!


氷結付与(エンチャントフリーズ)




 届け、この思い




『月光流 ”奥義” 日食』


 渾身の袈裟斬り


 刃は掌底とぶつかり、魔力が爆ぜる。




 刃が、押される




『チャージ』




 もう一度、爆ぜる。

 煙に包まれ、視界が白に染まる。


 倒れたのは、戦術機甲だった。


〜刈谷銃兎〜


「余計なお世話だったかな」


 いや、それよりもあそこで外部からの支援をするのは反則だった気がする。

 まあ、いいか

 煙が晴れ、倒れた戦術機甲の姿が写っている。歓声の上がる、観覧席。そこに背を向け廊下を歩む。一歩進むごとに熱気が冷めていく。


「なるほど、魔法を使ったカウンターね。いいものを魅せてもらったよ」


 もう一度、振り返る。


「次は僕の番だよ」




質問

最後の『チャージ』って何ですか

回答

支援魔法で仲間の物理の威力をあげることができます

今回は主人公が氷見ちゃんにかけました


質問

そんなことしてよかったんですか?

回答

刈谷銃兎「ノーコメントで」

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