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戦闘訓練〜始まり〜


 場所は変わって体育館・・・の隣りにある戦闘実習棟。

 僕らの眼の前にはがっしりとした体格の男性教師が立っていた。


「よーし、これから戦闘実習を開始する!再来週に控えた特別実習で生き残るためにも真面目に励むように!」


 ――戦闘実習

 僕らの学校[国立東京士官高等学院]通称「東京士学院」ここでは名の通り、次世代の冒険者を育成するための特別なカリキュラムが多数用意されている。

 その一つがこれ。

 学校が所持している戦術機甲や、生徒同士を戦わせる事による戦闘能力の向上。及び生徒同士の対立心を煽ることでさらなる成長を目指しているカリキュラムだ。


 だが、この学校において強さこそ『全て』。だからこのカリキュラムにおいて実際に育まれるのは学年のカーストのみである。


 才能あるものはカーストが高く、彼らの欲求を満たすために、下位の者―――すなわち弱者は、ただその傲慢さに怯えるのみだった。


 あえて言おう。


 はっきり言ってクソであると。


 場所が変わって観覧席。赤くて座り心地の良さそうな椅子が無数に設置され、前面がガラス張りにされてそこから見下ろすように屋内戦闘場を見下ろす設計になっている。


 今は鋼座とその取り巻き連中三人が、実技テストを受けている。内容は、戦術機甲と戦うだけの単純なもの。

 だが、たとえ4対1だとしても戦術機甲の剛腕から繰り出される体術は、戦いのために作られたとはいえただの人型ロボットということを忘れてしまいそうになるほど流麗で隙はない。

 このテストで見られているのは技や魔法の威力でなく、「いかに僅かな隙をついて体制を崩せるか」というところだろう。


 鋼座たちの場合その点ではマイナスだろう。

 主力の鋼座を突撃させた後、互いが押し合っているところを他の生徒が追撃。戦術機甲は抵抗を試みるが、鋼座のスキル『鉄鋼化(ヘビーメタル)』で自らの魔力を鋼に変化させて戦術機甲を固定させることにより追撃が入る。


 作戦としてはそれぞれの長所を生かしていてイレギュラーにも対応しやすいが、ある意味ゴリ押しにも近い。

 「隙をつく」という点ではマイナスになるだろうな。


「あー、どうしたもんかな!」


 トップバッターの鋼座の試合を観戦しながら一番最後の僕らの番になったときの戦略を立ててみるものの、なかなかに難しい。

 できるだけ実力を隠したまま、先生の求める観点をクリアして評価を上げたい。今までは簡単にできる奴らばかりだったが、今回はそう簡単にはいかなそうだ。

 そもそも()()の方にも全く進展がないからな。


「何が、『どうしよう』なの?」


 振り返った先にはひーちゃんが出入口付近にいた。


「いつからそこにいたんだ?」


「さっきから」


 相当考え込んでたみたいだな。少なくとも扉を開ける音に気付かない程度には。

 このまま悩んでも仕方ない。少し、人の意見とかを聞いてリフレッシュするのも良さそうだな。


「今日の戦略を考えてたんだよ。でも、中々に難しくてね」


「やっぱりそうだったんだ?難しいもんね今回の相手」


 そういいながら階段を降りて僕の近くに立つと鋼座へ目線を向ける。


「ひーちゃんから見て、今回の相手はどう感じる?」


「パッと見、これといった特徴がないように見える。パワーも普通、速度も普通、だからといって魔術の技術や防御力が高いわけでもない。でも、違う。」


 試合なら目を離し、こちらを見る。心を見通す用に。


「問題は、『隙のなさ』でしょう?」


「大当たり。一番厄介なパターンだよ。これまでと比べてね」


「うん、難しいね」


「因みにそっちはどう闘うつもり?」


 スッと、目が細くなる。あ、この感じ教えてくれないな。


「私ね、例え誰だとしても手加減はしないの。それは貴方が一番分かっているでしょう?」


「だな」


 ほら、やっぱり。破魔乃氷見って言う人間はこういう奴だ。でも、僕は知っている。負けず嫌いで手加減を知らないやつだけど、僕に対しては誰よりも甘くなること。


「それで、なにしに来たの?」


 待っていましたと言わんばかりにひーちゃんの顔が薄く綻ぶ。とても自然で、美麗に。


「男子は女子達の訓練開始予定の時間を知らないでしょう?だから、教えに来てあげたの」


 一歩ずつゆっくりと僕へ近づいてくる。そのときの笑みは小悪魔に似たような、魅力的で少し意地の悪そうな笑み。


 楽しんでいるんだ、彼女は。この状況に。僕へなにも教えないと言ってる割には、ヒントを小出しにしてくれる、そんなところ、本当に素直じゃないな。


 そこが、いいんだけど。


「もうちょっとしたら始まるの。後、大体40分後くらい。見ててよね私の華麗な戦闘(パフォーマンス)を」


「もちろん。てか、自分で華麗とか言っちゃうんだ」


「なんで?駄目なの?元はといえばあなたがそのくらい自身を持てって言ったのがきっかけだったと思うけど。」


「ハハ、そうだったな。うん、とってもいいと思う」


「そっか、ありがと。本当にそれだけだから、じゃあね」


「頑張ってね」


 そう言いながら、僕は拳を突き出した。

 小さい頃からの習慣みたいなもの。なにか挑戦するとき、「お互い頑張ろう」っていうとき。いろんなときに僕らは拳を合わせた。


 ひーちゃんも拳を出して、僕のに合わせる。


「そっちこそ」


 挑発的にも見えるその微笑は、間違いなく僕しか知らない特別な表情だった。






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