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ぼくらの夏休み

期末も無事に終わりいよいよ夏休みがやってくる。

夏休みは好きだけど好きじゃない。まこちゃんに会えないし、つまらない。そんな事を考えていたら後ろからツンツンとされた。

「有紀ちゃん、夏休みどこか行くの?」

「キャンプには毎年行ってるからキャンプかなー。まこちゃんは?」

「俺はどこにも行かない。姉ちゃんに海に連れていってもらおうかな」

「いいね!」

「有紀ちゃんもいこうよ」

「緊張するからいい」

「そか。ゆきちゃんの家に電話するから電話番号教えてよ」

「いいよー。夏休み会えなくなるの寂しいね」

電話番号を書きながらうっかり口に出していた。

「あ、いや。深い意味はないんだよ」

「俺も寂しいよ。電話するね!」

「そうだ。まこちゃん、夏休みの過ごし方をレクチャーするね。海に入るときは浮き輪をつけましょう。あと、まこちゃんは可愛いので悪い大人に連れて行かれないようにしましょう。交友関係は清く美しく。それは青春とは言いません。黒歴史となるでしょう。あと夏休みだからといって金髪にするのはダメです」

「あはは、なにそれ」

「まこちゃん。日本人はのっぺりした顔だから金髪が似合わないんだよ」

「有紀ちゃん生徒指導だね」

「そうだよ。先生に頼まれたんだから」

「え?マジで?」

「はい。マジです」

まこちゃんは私が差し出した先生オリジナル生徒指導の用紙を見て引いていた。

「おい、ブス!」

本当にこいつは人の至福の時間に水をさす。

「(ちっ)なに?」

「赤ペンかせ」

「あ、もう勝手に触らないでよ」

「あったあった」

「使い終わったら入れておいてよ」

話し終えて振り返るとまたあの顔をした真がいた。真との関係はとても曖昧だ。付き合ってないのが不思議とだ思うくらいだが、これがもし男女じゃなく女同士だったら親友とも呼べるだろう。今は親友として真に接しよう。

「まこちゃん、顔こわくなってるよ」

「え?そう?」

「私がブスなのは分かってるから気にしないで。あ、けど、私を可愛いと言ってくれる人は今のところ2人だけいる。当ててみて」

「ママとパパ?」

「おしい。ママは正解。もう一人は」

「俺だな」

ずっしりした重みが頭上にきた。

「孝義か。ビックリした」

「今日一緒に帰るぞ」

「いえ。私は先約がありまして。祐里子と帰るんですが」

「その祐里子から言づてだ。今日健二と帰るから一緒に帰れない」

「えー」

「だから一緒に帰るぞ」

「じゃぁ、玄関で待ってて。すぐ行く」

「おいブス、赤ペン返す」

「あんたねぇ、いい加減にその呼び方やめて」

「まこちゃんも楽しい夏休みを!」

「幼馴染み君も熱中症に気をつけて。付き合ってるって勘違いされたら有紀ちゃんに迷惑かかるから行動は慎重にしたほうがいいと僕思うよ」

「アドバイスありがとう。おい、環」

「なんだよ」

「有紀が可愛いからってそんな事言ってると嫌われるぞ」

「もう嫌いだわ。すぐ行くから先に行ってて。暑苦しいよ」

爽やかに笑って孝義は教室から出て行った。

「気を取り直してまこちゃん生徒指導はこれで終わります。私からは、バイクは危ないから乗らないでほしい。怪我したら心配するから。伊藤君からは何かありますか?」

「全同意です」

「だそです」

まこちゃんは返事はせず敬礼のポーズをした。

「じゃぁ、また2学期ね!」

「有紀ちゃん、連絡するから」

軽く手を振って玄関へ向かう。連絡するだって。恋人同士みたいじゃん。嬉しい気持ちを抑えきれず、肩をすくめた。

「おっ、来たか。ん?なんかいいことでもあったのか?」

「別になにもないよ。夏休みが楽しみだなって思って」

「それはそうだな。焼きそば食って帰ろうぜ。今日母ちゃんいないんだよ」

「ママがお昼ご飯作って仕事行ってたから行けないや」

私はあまり母の料理が好きではない。量も多く味も濃い。食べずにごまかせないものかと少し考える。食べないと拗ねる母の姿を想像し少しうんざりした。

「じゃぁ、有紀の家でめし食おう」

「今日はカレーだよ」

「カレー好き」

救世主にしか見えない幼馴染みの言葉に目をキラキラさせてしまった。

「大盛りにしてあげるね!」

夏休みが始まる。


ワクワクしていた夏休みも、中3ともなれば特にキラキラするわけでもなく。

「そもそも、私キラキラ女子じゃないもんな」

未来の私からのノートには行く高校が指定されていたが、勉強しろとも書いていた。未来の自分がなぜ過去に戻りたかったのか、勉強していたら自分で稼ぎ子供達に何も我慢させずちょっとした贅沢もできたのではないか。だから勉強してほしい。これからどんどん時代が変わる。どんな職業があるのかを調べるのもいいけど、自分の性格を分析するのも夏休みのひとつの過ごし方。と書いてあった。自分が将来何をしたいかはまだ分からないけれど、未来の自分からの日記はいいアドバイスだった。

友達とプールへ行きたまにバスケをして遊んだり、それ以外は勉強してダラダラして過ごした。自分の性格ねぇ。とアイスの棒を口にくわえソファーに転がっていると祖母がやってきた。

「ゆき、そんなだらしなく過ごすもんじゃない」

「おばあちゃん、暑いね」

「漬物とおかず持ってきたから昼ご飯食べなさい」

「ありがとう」

共働きの家なので、母は朝の8時にはいなくなる。近所に祖母が住んでいるのでお昼と夕食は大体祖母の家で食べるか祖母が持ってきてくれるのだ。母は恵まれていると思う。ご飯を食べ終わり、祖母は畑仕事があるからと帰宅した。

「さぁ、私も勉強するかー」

部屋に戻ろうとしたとき電話が鳴った。

「はい」

「あ、ゆきちゃん?おれ、真」

久しぶりに聞く真の声に心臓がバクバクした。

「久しぶりだね!元気にしてる?」

「おう、元気元気。ゆきちゃんどうしてるかなって思って電話しちゃった」

キュンキュンが止まらない。

「毎日勉強してるよ。あ、けど昨日はプールに行ってきた」

「えー俺も行きたかった」

「まこちゃん、家遠いから難しいでしょ」

「誰と行ったの?」

「祐里子たちと行ってきたよ。リレー勝負してきた」

「それは遊びじゃないな」

「スポーツですね。まこちゃんは何してたの?」

「なんもしてないな」

「宿題やってる?」

「やってないな」

「どうするの?」

「伊藤君が明日来るから写生する」

「物は言い様だね」

しばらく話していたらチャイムがなった。

「あ。誰か来た。電話切るね!また2学期だね」

「また電話するよ」

数分の電話だったが、私の気持ちを十分に満たしてくれた。2学期が待ち遠しくて仕方がなかった。

るんるんした気持ちで玄関を開けると、孝義がいた。

「あれ、どうした?」

「来週から夏祭りだろ。一緒に行こうぜ」

「二人で行くとからかわれるからイヤなんだけど」

「健二と祐里子も誘っていこう」

「だったらいいか。祐里子に聞いておくわ」

「聞かなくても行くだろ」

「それもそう」

「午後何すんの?」

「勉強。一応受験生だからね」

「じゃぁ、俺も一緒にやろう」

この幼馴染みは我が家になれすぎている。3歳から一緒にいるから、幼馴染みというより親戚のような感覚も確かにある。

「英語やってるの?」

「うん。英語好き。」

「ゆきは将来何になりたいの?」

「小さい子好きだから保育士がいいなって思ってたんだけど、ママが絶対反対っていうからまだ分からん。保育士だけはダメってあんな必死に言うから負けたわ」

「向いてそうだけどね」

「親戚の子の世話をして満足してなさい。だって」

二人で笑う。

「とりあえず、将来の仕事はわからないけどアメリカには行ってみたい」

「意外」

「それは絶対なんだ。孝義はプロ野球選手?」

「うん。それ以外考えられないな」

「頑張ってるもんね。高校はどこに行くの?」

「大阪の高校受験する」

初めて聞くことに驚きを隠せなかった。私はなんとなく、高校生になったら仲いい子と離れ離れになるとは思っていたが、いつでも気軽に会える距離にみんながいるとばかり思っていた。

「遠いよ」

「野球をやりたいならそこに挑戦しなきゃだめだ」

「いなくなったら寂しくなるね。けど、頑張って!」

「おう。あっさりしすぎてちょっとビックリ」

「え?」

「いや、なんでもない」

夏祭り当日楽しく過ごしていたら、奥のほうがザワザワしていた。

「なんだろうね」

佑里子と顔を見合わせて奥に向かっていくと、誰かが喧嘩をしていた。

「うわ、喧嘩してるよ。」

「酔っ払い?」

「いや、あれは一哉だな」

身長の高い健二が言う。真は一哉とつるんでいたから、もしかしたら彼もそこにいるかもしれない。心配で近づこうとしたら孝義に腕をつかまれた。

「有紀。行くぞ。健二と佑里子も行くぞ」

「俺たちはもうちょっと見ていく」

「悪趣味なやつ。たこ焼きでも買ってるからお前らも早く来いよ」

健二と佑里子はオッケサインを出し喧嘩を見ていた。

「私も見たい」

「ダメだ」

珍しく真剣に話す孝義に半ば強制的にたこ焼きの屋台に連れていかれたこ焼きを食べていたら、警察がやってきた。しばらくして、佑里子たちが戻ってきた。健二に限っては興奮していた。

「すごかったな!」

「めっちゃ殴ってたね」

「警察にも向かって行っちゃったもんな」

「ありゃヤバかった。それにしても、一哉はどんどん手が付けられなくなってるね。クラス一緒になったことないから知らないけど、小学生の時は割と普通だったよね」

「そうだなー。きっと色々あるんだろうな」

「そういえば、有紀と仲良かった奴もいたな」

「え?」

「健二!」

「お、あぁ。まぁ気のせいかもな。佑里子、綿あめ買おうぜ」

健二は気まずそうに佑里子のところに行った。

「孝義、気づいてたの?」

「何の話?」

「真があの場にいたこと知ってたの?」

「知ってたらなんだよ」

「なんだよって。別に、私を連れ出さなくてもよくない?」

「巻き込まれると思ったんだよ」

「そんなに馬鹿じゃないし」

「知ってるけど、お前、あいつのこと好きじゃん」

「だからなによ。孝義に全く関係ないじゃん」

「いや、ある。幼馴染としてお前を守る義務がある」

「そんなもん、ないから」

「俺は、ある。有紀が好きだから」

突然の告白にきょとんとしてしまう。好きって何?3歳からずっと一緒にいて今更好きってなんなんだ。と私は混乱する。

「あれ?伝わってない?俺、有紀が好きだよ!」

「知ってるわ。だからなによ」

「ん?有紀、俺の彼女になって?」

「それはないでしょ」

「なんで」

「彼女になって私は何をするの?」

「毎日一緒に帰る」

「時間帯が違うから無理だね。たまに一緒に帰ってるし」

「休みの日は遊ぶ」

「今も遊んでるね」

「手をつなぐ」

「今も掴まれてるね」

「じゃぁ、キスをする」

「私、中学生のうちは清く正しく生きるから、誰であろうともキスはしない」

「俺はどうしたらいんだ!」

「うるさい、知るか。余計なことしないで、腹が立つ」

「彼女になってって言わないから、あいつとは付き合わないで」

「付き合うも何もなんでもないし」

「だったらいいけど。アイツは危ないでしょ」

そんなの私だってわかってる。そう思いながら警察に連れていかれた方向に目を向けた。

「おーい、花火やろうぜ!」

遠くから健二が呼ぶ

「おー。有紀行こう」

「うん」

苦々しい気持ちを抱えながら花火をした。

2学期になったら真に色々聞いてみよう。

花火をしながら決心した。



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