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03 (尋問)

 シャクルトン都市 中心部、警察署。

 警察署の屋上のヘリポートに着地したアデル()達は、そのまま警察署の中に連れられ、牢屋に入れられた。

 部屋はそれなりの大きさがあり、ソファーとテーブル、白い綺麗なシーツが掛けられた大きなベッドがある。

 後ろを見るとドアノブが無く、外側からしか開けられない様だ。

 私達は部屋を探検する。

 小型の冷蔵庫がある給湯室、トイレの個室には 便器だけでは無く、上にはシャワー、横には 鏡付きの洗面台と液体石鹸のボトルが置かれている。

 天井には監視カメラが設置されていて、トイレやシャワー室ですらプライバシーが無い。

 まぁネットが繋がらないと言う不便があるが、容疑者が入れられる部屋としては快適な部屋だ。

「良い部屋ね…罪人って言うのも悪くないかも~」

 私は ふかふかのベットに座わり、膝の上に乗って来たカッツェに言う。

「ネットが使えないのは不便よね~あれ…『ちょっとアデル…監視カメラに割り込めるかも…。』」

 カッツェが途中で盗聴不可能な量子通信に切り替えて私に話す。

『おおっ良いかも~ネットが使えれば情報も抜けるし~カッツェ、よろしくね』

『言われなくても…うん、監視カメラの後ろは無人ね。

 AIが常に私達を監視していて、問題行動を見つけたら その部分の動画を切り抜いて警備室に送るシステム…AIには 違反なしと判断する様に送るわ。

 後、AIが認識 出来る言語は、エスペラント語、英語、日本語ね…ドイツ語なら普通に喋っていても大丈夫よ』

「サンキューカッツェ…あ~これで ちゃんと話せる~」

「ドイツ語も良いけど、エスペラント語も ちゃんと勉強してよね…。

 はい、エスペラント語の言語データを送ったわよ…これで日常会話なら普通に出来るはず」

「本当にカッツェを持って来て良かった~」

 私が目の前に私だけが知覚できるARディスプレイを表示して内容を確認して行く。

「私も ガイガーカウンターの代わりをするのに飽きてたからね。

 さっ、頑張って明日までにエスペラント語を覚えましょう」

「了解~」

 私は エスペラント語の言語データをカッツェから受け取る。

 これでエスペラント語での会話が出来る様になるけど、私の口がエスペラント語の発音に対応していない。

 そこから一晩、ひらすら流暢に喋れる様に口を動かし続けるのだった。


 翌日、朝。

「こんにちは エクスマキナ都市からやって来た旅人、私は ユスティコ・グヴィダント、このシャクルトン都市の都市長をしています。

 お2人の事情はクラージョから聞きました…如何(どう)やら不時着したようですね…」

 ユスティコがソファーに座る。

「ええ…緊急の事とは言え、湖の水上滑走路だけでは足りず、公園の一部の設備を破壊して しまいました。

 この件に関しては 大変申し訳なく思っております。」

 外交用の外面で私がユスティコに謝り、向かいのソファーに座り、カッツェはテーブルの上に飛び乗る。

「詳しい事情を教えて貰えますか?」

「ええ…私達の任務は、シャクルトン都市の施設と住民の生存確認です。

 失礼ながら貴国は大戦以降、一切の音信が不通…私達としては とっくに滅びたと判断して いました。」

「仕方ないでしょう…我々は長距離通信は使えず、また衛星による中継も出来ません。

 私達も何度か 救援を呼びに エアトラを向かわせたのですが、辿り着けず…」

「分かります…こちらの都市は 完全に孤立していますからね…。

 それで復興時の拠点に こちらが利用出来るのか 確認しに来た所で、大戦時の自動迎撃システムに(つか)まりまして…」

「あ~シャクルトン都市の周辺に設置されている あの砲台ですね…。

 大戦前のデータは既に消失してますし、アレがどんな仕組みで動いているか我々にも分からないのです。」

敵味方識別装置(IFF)は?」

「こちらも敵扱いです…なので、大半の機体は防衛網から抜ける事も出来ずに落とされています。」

「あ~アレを突破するのは 人間じゃキツイだろうしね~。

 それで、私達は こちらが 都市として機能している事を確認出来たので、あなた方が 私達の都市と国交の再開するべきなのか、見極める必要が あります。」

「なるほど…つまり あなた方は 外交官と言う事ですか…。

 確かに大戦後の我が都市は ボロボロでしたから…」

「具体的に 教えて頂いても?」

 そもそも あんな状況で何で生き残っていたの?

「ええ、ネットに繋がっている全部のデータが消去されて、都市の制御システムも吹っ飛んだのですよ。

 ライフラインの確保も困難だったと記録に残っています。

 機能を停止した都市システムを復活させる為、ネットから切り離されていた物理メディアのバックアップから、再インストールして復旧させました。

 復旧までの3ヵ月は本当に地獄だった様で…」

 都市システムを一回再インストールした場合、食糧の生産も空気の調整も出来なくなるはずだ…確かにそう考えれば復旧作業は地獄の苦労があったのだろう。

「それで今は?」

「気象変動システムに不具合が出ています。

 私達は 3世代に渡ってアップデートを繰り返していますが、どう調整しても、数年後には また再発する問題です。」

「あ~確か、ここの都市管理システムは バイオスフィア3のソレリタイプよね」

 私が思い出した様に言う。

「ええ…ここは可能な限り生物との共生を目指した自然循環型のアーコロジーです。」

「となると…その不具合は ソレリの中の環境データと実測の環境データの中に誤差が発生して、定期的に正しいデータを打ち込んで行かないと 生態系が崩れて 滅茶苦茶になる感じ じゃない?」

「えっ何故それを?」

「アタリみたいね…実は ソレリタイプには 大きなバグが1つあるのよ~。

 それさえ潰せば、ケインズ型に並んで優秀な都市管理システムなんだけど~」

「では治せるのですか?」

「原因を特定する事までは 出来ると思うけど、これがアタリなら データ方面だけじゃなく、物理作業も あるから少し無理…。

 でも、国交が再開されれば 技術者を連れて来る事は出来るわ」

 当時のバグを治したスタッフは とっくに死んでいるけど、エクスマキナ教会が ソレリタイプの技術継承を続けてくれている…復旧は十分に可能でしょう。

「国交の再開ですか…では まずは あなた方を国に返さないと…」

「ええ、こちらで過ごす滞在費用は如何(どう)なりますか?」

「機体の修理費、スタッフの人件費はこちら持ちで…滞在費用は 毎月生活保障金として10万ルトン。

 それ以降は 貸しで、国交成立後に あなたの都市から物資や技術で支払って貰う事になります。」

「ソレリタイプの修理費で返済ね…結構 贅沢が出来るわよカッツェ」

 私は嬉しそうにテーブルの上のカッツェに言う。

「あっいやっ」

 そして、ユスティコが少し慌てる。

「はぁ…どうせ無理なんでしょ。

 ネットの情報を見る限り、昨日の墜落は 新型エンジンを搭載したエアトラと言う事になっているわ…。

 あなた方は、私達の事を まだ公表していないのよね」

「えっ…ここは ネットに繋がっていないはず…」

「ええ、ただ監視カメラ経由でネット接続する事は出来るわ…。

 戦後の混乱の中、当時の技術を復旧して 維持し続けている事には 感心するけど、出来は良いとは言え 所詮は150年前の大戦時の技術…まだまだ甘いわね…」

「ちょ…カッツェ、それ自白してるわよ…」

「でも、監視カメラも証拠も こちらの都合の良い様に書き換えられるわ。

 私達を立件するのは不可能ね…」

 机に座るカッツェが笑顔で言う。

「ははは…確かに、技術力では あなた方の都市には敵わない。

 でも抗議をする事は出来ますね…あなた方も無傷では済まない…ある程度のリスクがあります」

「ええ…私達も こちらと戦争する つもりは ありません。

 エクスマキナ都市の仕事は 都市同士での問題を解決する事なので…。」

「とは言っても自分より力の強い相手は集団で殺すのが人類…。

 初対面で信用しろと言うのも、難しいのね…それでお金の話に戻って良い?」

 私が話を戻す。

「ええ、現状では カッツェさんの言う通り、実験機の事故として処理され、外からの外交官はいなかったと言う事になっています。

 なので、エアトラの実験工場で、あなたのエアトラを修理する事になります。」

「私達のエアトラの予算は、その存在しない実験機の修理代から捻出されるのね…それで滞在費は?」

「公に出来ない以上、あなた方の滞在の責任者である私のポケットマネーからあなたの口座に送金します。

 後で返してもらう予定ですが、あまり 使い込まないで下さいね」

 ユスティコが苦笑いをしながら、カードを渡す。

 カードには 既に私の名前が記載されていて、これは 銀行用デビットカードかな…非常に手際が良い。

「ありがとうございます…それで、私達の ここでの身分は?」

「航空科の職業訓練校の学生と言う身分を用意しました。

 アデルさんの体型からして年齢は10才で、カッツェさんは猫型の試作ロボットとして振る舞ってください。」

「10才…」

「まぁ仕方ないでしょう…ここの人達、平気で2m超えているし…。

 アデルは 私達の都市だと高校生(ハイスクール)位の見た目なんだけどね…」

 カッツェが言う。

「そこは 種族差なので如何(どう)しようもないですね。

 それでは 色々な手続きと生活必需品を揃えたら、また来ます。

 それまでは もう少し辛抱していて下さい。」

 ユスティコがそう言い、ドアを閉めて帰って行く。

「はぁ…問題無さそうね~」

「そうね…でも、本番はこれから…上手くこの都市に溶け込んで、穏便に返らないと…」

 カッツェが私に対してそう言うのだった。

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