01 (忘れられた都市-アーコロジー-)
2250年…。
核を使った絶滅戦争から150年が過ぎ、敗北した旧人類が 自我を獲得した機械人『エレクトロン』に 管理された生活に疑いを持たなくなった世界。
南極エクスマキナ都市。
「それではエルダー行ってきます~」
「いってらっしゃい、気を付けて下さいね」
エルダー・コンパチ・ビリティが私達に言い、アデル・カウフマンと喋る黒猫ロボット、カッツェを乗せたティルトウィング輸送機、エアトラが目的の都市に向かって飛び出した。
「ねぇカッツェ…今のシャクルトン都市の住民って本当に生きているのかしら…。
向こうは通信が途切れて孤立した状態で150年もいる事になるんだけど…」
私が副操縦席でシートベルトに拘束されている黒のメス猫カッツェに聞く。
「死んでいたら そのまま施設を使うだけよ…。
元々、拠点として必要なだけで、人が生きているかは 関係無いんだから…」
「なんか…コミックで見た暴力が支配している世界?になってるかも…。
そんな事に なったたら私 如何しよう~」
私は少しワクワクしながら言う。
「あの閉鎖空間で?それこそ、殺し合いで無人になっちゃうんじゃない?」
「そうなのかな~」
「少なくとも 人がいるなら何かしらの秩序がある はずよ…殺し合いをしない方法でのね」
「ロックオン警報!?アデル!!」
シャクルトン都市から上に向かって コイルガンの自動砲台から大量の金属弾が放たれ、私は慌ててエアトラを回避させる。
「うわっ…やっぱり、暴力が支配しているのよ…じゃなきゃ撃って来ないって…」
「自動迎撃システムのスイッチ切っていない だけかも 知れないでしょ…。
アデル、降下して!匍匐飛行ならレーダーにも特定されない…かも知れない。」
「え~かも なの~カッツェ~」
エアトラは急降下し、地面まで30mの位置を維持し、暗闇の中を高速で飛んで行き、大質量物質が衝突して出来た 地上に空いた 大きなクレーターを次々と通り過ぎていく。
「ちょっと…全然 弾幕が止まないんですけど~」
「いいから回避しなさい…私は操縦桿を握れないんだから…」
シートベルトで拘束されている カッツェは手足をバタバタさせながら言う。
「無茶言わないでよ~こっちは 戦闘機じゃないんだからぁ」
エアトラは 操縦席が2席に後ろにトイレと給湯室、その後ろが30人位乗れる荷台とそれなりに大きい。
しかも、これは安定性を優先する輸送機だ…戦闘機の機動は取れない。
今も何とか回避しているけど、長くは持たない…。
「メーデーメーデーメーデー、シャクルトン都市 管制、私達は敵じゃないよ~撃たないで~お願いしま~す」
「う~ん、施設だけ残して完璧に死んでる…無人よ、ここは撤退して対策を立て直さないとダメね」
ドーン…。
「あっ…ごめ~ん、カッツェ…翼を撃たれちゃった…あはは。
燃料流出…止めるよ~残りの燃料から行って これは帰還不可能ね…修理するなり、無線で助けを呼ばないと…」
「おバカぁあ!!
なら…今 シャクルトン都市の隔壁をハッキングしているわ…開いたのと同時に中に突っ込みなさい…」
「さすが…カッツェ…やる~」
「後ろに人がいないなら楽勝よ…機械って素直で良いわね~」
「素直じゃないカッツェが それを行ってもねぇ」
予測回避…未来を予測して 次々と鉄の弾の雨を かいくぐり、ランディングギアを出して 開き始めた隔壁の隙間ギリギリにエアトラを反転させて滑り込ませる。
「逆噴射!!」
隔壁の中は エアトラが数機入る位の広さがあるが エアトラの進行方向には また隔壁、止まれなければ確実な死。
「止まれ~」
ドスッ…後部ハッチが接触した感触はあるが、荷台側は無事…。
「はぁ…生き残れた~」
正面の隔壁が下がって行き、外観との遮断を始め、閉まると周辺からガスが噴き出し、人の生存 環境に整えられる。
「内側の隔壁…開くわよ…」
ガリガリガリと後部ハッチを擦る音がしながら 隔壁が上がり、エアトラは旋回して翼の向きを前にして プロペラが生み出す推力を使った前に進む。
「いや~プロペラは 推進剤を使わず 電気で進んでくれるから良いよね~」
「良いから行くわよ…エレベーターの類は無し、前方に大きな縦穴が見えるでしょう…あそこから下に降りなさい…」
エアトラの翼の向きを縦にしてヘリコプターモードで ゆっくりと垂直降下をして行く。
縦穴のサイズは エアトラが入れる位には 結構大きいけど、少しでも操縦をミスれば、プロペラが壁を擦って飛んでってしまうだろう。
「ねぇなんかプロペラの推力が低くない?落ちる速度が速過ぎるんですけど」
「そりゃあ 大気成分が違うから当然ね…0.3気圧の酸素100%の純酸素…」
「一応、人が生きられる環境なのでしょうけど、何でそんな事をしているのよ…」
「窒素の問題でしょうね…」
「あ~そう言う事…そろそろ半分に来た?」
「ええ…このまま下がりなさい」
『セットリング』『セットリング』『セットリング』
「え~警報?」
セットリング・ウィズ・パワー…プロペラが下に放った空気がプロペラの上から吸い込まれ、リング状になる事で推力が低下して失速してしまう現象だ。
「なんで~まだ余裕があるはずぅ」
「壁があるからよ…空気が壁に跳ね返って上に 上がってしまうの」
「あ~如何しよう…リングになった空気を散らすには機体を傾けないと行けないけど、それじゃあ壁に衝突するし…もしかして これ?詰んだ?」
「いいえ…まだよ、この下には 大きな地下空洞があるはず…そこで前進して風を散らせば十分に助かるわ…」
「とっ言っても 地面まで120mそこらでしょ~復帰出来るかなぁ」
「やらなきゃ死ぬだけよ。
私は黒猫だから 今 死んでも後8回は復活 出来るらしいわよ…。」
カッツェは笑顔で言う。
「そんな迷信…抜けた…間に合え!!」
翼の角度を90°から60°に変更して横に進む…翼で揚力を稼げば まだ助かる事が出来る。
「あっ揚力は上がってるけど、エンジンの推力が上がらない…どこか不時着できる場所…えっ何これ?」
私は着陸ポイントを探すために ランディングギアに設置されているカメラから送られてくる映像を足元のモニタで見る…。
縦穴を抜けた先は 人工の雲が浮かんでおり、下からレーザーで反射させる事により、青空の映像を映し出している…空中プロジェクター?
中はドームの様な空間で、端から端まで20km…中心部には 12階位のビルも結構な数並んでおり、外周に向かうに つれて 6階建ての建物が多くなり、ドームの壁がある外周は 緑色の大きな公園や湖などの見た目が良い場所がある…湖?
「あの湖なら?」
「多分、生活用水 保管用の貯水池ね…エアトラは 水の上にも着陸出来るわ…」
「住民に ご迷惑を掛けないなら、ここしかないわね…よし、行くわよ」
外周から 回って液体水素と液体酸素の燃料を捨てつつ、高度と速度を限界まで落とし、浅い角度でゆっくりと湖に向けて降下…。
エンジン停止、ザブッザザザザ…エアトラが水しぶきを上げて湖の上を滑走して 急激に減速…だけど、間に合わない。
「いやああ、どいて どいてぇ~」
湖から公園に侵入し、遊びに来ていた ここの住民達が 私達を見ると一斉に逃げ出し、エアトラは ベンチと 自動販売機…それにゴミ箱なんかを なぎ倒して やっと止まる。
「あたたた…」
私は頭を正面のモニタに打ったが、ヘルメットを被っているので平気…。
コックピットの画面が すべてブラックアウト…電源システムが壊れた?
真っ暗な室内で手探りで懐中電灯を探し当て、スイッチを入れる。
隣のカッツェは シートベルトで、縛られているので動けない。
燃料は 墜落前に全て 投棄したから 爆発する事は 無いんだろうけど…。
「カッツェ…大丈夫?生きてる?」
「何とかね…残機を減らされなくて助かったわ」
「ははは…さて、脱出するよ…こっちの人にも謝らないとね~」
私はカッツェのシートベルトを外してあげ、後部ハッチに向かい、横の壁に付いているカバーを外し、中のハンドルを左方向の回して強制的に後部ハッチを下げて行く。
「Hej, ĉu vi estas en ordo? Kio, infano?(おい大丈夫か?えっ子供?)」
ハッチを開けると 1人の男が乗り込んでくる…身長は2m越え、四肢は長いが その割りに細い体つきをしている。
「Tio estas peza, kion vi manĝas?(くっ重いな~アンタ 喰ってるんだ?)」
男は私をお姫様だっこで抱え上げ、エアトラからの脱出を図る。
「え~と、カッツェ?この人、何語を喋ってるの?
英語でもドイツ語でも日本語でも無いみたいなんだけど…。」
抱えられている中で4本の足で走って追って来ているカッツェに言う。
「えっと…これはエスペラント語ね…えっと この人は アデルを子供だと思っていて、その割には 体重が重いなって言っているわ」
「なによ、失礼な」
「3才で身長が150cm…体重が80㎏は流石に私も重い思うわ…」
「なによ、全身義体なら この位が普通よ~」
「Ĉu? Ĉu vi ne komprenas la lingvon? De kie vi venis?(はぁ?言葉が通じないのか?どこから来たんだ?)」
「『言葉が分からないのですか?あなたの出身地は何処ですか?』だそうよ」
「南極のエクスマキナ都市よ、伝えて」
「分かったわ…Mi estas de Eks Machina Urbo en Antarkto.(私達は南極のエクスマキナ都市出身です。)」
「He, la nigra kato komprenas mian lingvon.(おっ、黒猫はオレの言葉を理解しているのか…)」
「Jes, mia nomo estas Katze.(ええ、私の名前は『カッツェ』)
Ĉi tiu estas mia fratino Adele(こちらが、妹の『アデル』)」
「pli juna fratino?(妹?)」
パタパタパタ…私は 空を見上げると翼を垂直にした エアトラが見える。
やっぱり、ここでもエアトラがあるのね…。
次の瞬間…私達の周辺にピンポイントに雨が降り出す。
多分、上空のスプリンクラーから水を散布しているのでしょうね…火災防止かしら…。
「Mi estas la polico... Mi arestos vin pro suspekto pri distribuado de venena gaso.(警察だ…毒ガスを散布した容疑で、キミ達を逮捕する)」
「ねぇアデル、逮捕するって…」
カッツェが上を見上げ 私に言う。
「まぁ仕方ないね~でも、法執行機関なら政府に話を通してくれるよね~」
「暢気ね…私達は毒ガス散布の容疑を掛けれているのよ」
「えっ?マジで?」
「うん、マジ…これは誤解を解くのに時間が掛かりそうね~」
カッツェはそう言うと 私の肩に乗り、私達は 出会った男の子と一緒に連行されるのであった。