5.メイド長side
「はぁ……」
わたくしのお仕えする王妃殿下は、美しい王妃ランキング第一位、優しい王妃ランキング第一位、国民思いの王妃ランキング第一位、外国とのやりとりが上手い王妃ランキング第一位の素晴らしいお方ですわ。そんな麗しき王妃殿下に何か悩み事が……。
「王妃殿下。なにかお悩みでもございますか? わたくしめでよろしければ、お話を聞くことくらいなら可能でございます。王妃殿下のお負担を少しでも減らすことができるのでしたら、わたくしめをお使いくださいませ」
そう言いながら、見えないように指示を出して人払いを済ませます。高貴なお方のお悩みなど聞かせる人間は選びませんと。
「メリー。あなたにはいつも助けられているわ。そうね、あなたに相談してもよろしいかしら? わたくしの、友人夫婦のお話なのですが……」
あら、また、王妃殿下の友人夫婦のお話……辺境伯夫妻に隣国王太子夫妻、隣国国王夫妻といった我が国の根幹に関わるお方のお悩みでございますか……。一介のメイド長なわたくしめには重たいお話かもしれませんが、敬愛する王妃殿下のお悩み、解決してみせましょう!
「わたくしめでよろしければお聞かせくださいませ」
「ええ、友人夫婦は結婚三年目なのですが、子がまだいないのです」
尊き身分のお方で子がまだいないとなると横槍の入りそうなお話です。……ところで、結婚三年目のご夫婦? 一番年数の近い隣国王太子夫妻は新婚ですし……。まるで我が国の国王陛下ご夫婦のようなお話ですね。続きを聞かせていただきましょうか。
「それはそれは」
「わたくしとしては、子を早くなしたいと思っているのですが、陛下はまだ良いとおっしゃるのです」
また、このパターンでございますね。今回は理由は明白でしょう。国王陛下は王妃殿下を溺愛なさっている。子に愛情を奪われたくないという嫉妬とまだ国政の状況的に子がいなくとも平穏に過ごせるから、でしょう。
「国王陛下は、王妃殿下を独占したいのではないでしょうか?」
「えぇ、でも、王妃として子をなすのは責務でしょう? わたくし、責務も務められない妃と噂されているみたいで……。そんな妃では、側妃を娶らなければならなくなる、と」
まぁ! 誰がそんな言葉を! 全く根も葉もない噂でございますのに。王妃殿下のお耳を汚したのはどこのどいつでしょうか!
「わたくしはそんなお話、聞いたことはございませんが、王妃殿下はいったいどなたに……」
「わたくしの実家から、お手紙が届きますの」
一介のメイド長が王妃殿下の私信を改めることなどできません。あの実家。王妃殿下にストレスを与えるのならば、武力行使も辞さないですわ!
「国王陛下としっかりお話し合いをなさった方がよろしいかと思います。わたくしも、夫に事情を聞いておきますから」