4.宰相side
「はぁ……」
我が国の国王陛下が大きなため息をついた。色気と共に。イケメン王子ランキング第一位、優しい国王ランキング第一位、政治評論家に聞く優秀な国王ランキング第一位の素晴らしき国王に仕えることのできる幸運を噛み締めながら、国王陛下の悩みを晴らす一助となれるかと思い、声をかける。
「先ほどからため息をついておいでですが、何かございましたか?」
「あぁ……。僕の友人夫婦の話なのだが、聞いてくれるか?」
先日どこかで聞いたような……と思いながら、考える。国王陛下の友人夫婦といえば、我が国の国防を担う辺境伯夫妻、隣国の王太子夫婦、帝国の皇帝陛下夫婦と、我が国に多大な影響を与える面々だ。そんな面々の夫婦問題……それはこの国の宰相たるこの私ごときが聞いてもいいものなのだろうか。いや、我が国のためにも聞かねばならぬ。そう意を決して、問いかけた。
「国王陛下の友人夫婦のお話ですか……私ごときが何かお役に立てばお聞かせ願いましょう」
「宰相は、夫婦子育てを終え、夫婦仲良く過ごしていると聞く。きっと助けになってくれるだろう……。僕の友人は結婚三年目なのだが、子がまだいないのだ」
「それはそれは……」
国王陛下の友人で結婚三年目の方なんていたか? 一番近い年数の隣国王太子夫妻は、新婚だ。結婚三年目で子供がいないだなんて、まるで我が国のようだな……ん? そういうことか? まさかそういうことなのか?
「僕……ではなかった、僕の友人は、まだ子供がいない、その、二人きりの夫婦生活を楽しみたいと思っているのだが、それを妻に伝えたところ、怒ってしまってだな……」
「責任のあるお立場ですから、難しい問題ですな。二人きりでの夫婦生活を楽しみたいという言葉にお怒りになられるなんて……奥方様も周囲にいろいろ言われてでもいらっしゃるのでしょうか?」
「やはりそうか! だから、妻は苦しんでいるのだろうか……」
二人きりの夫婦生活のくだりでは、照れたような表情を浮かべておいでだった国王陛下は、私の一言で顔色を変え、焦った様子になられた。
「いや、しかし、奥方様も、愛する夫に夫婦生活を楽しみたいと言われて、そこまで怒らなくてもいいとは思いますがな」
髭を触りながらそう答えると、国王陛下は悩んだ様子で考え込んでおいでだった。
「……国王陛下。我が妻は王妃殿下付きのメイド長です。よろしければ、女性の意見を聞いてまいりましょうか?」
「本当か!?」
そう言って表情を明るくした国王陛下は、私の腕をぶんぶん振って職務に戻った。
こんなにも妻を想い、憂う国王陛下をここまで悩ませるとは……全く。妻には王妃殿下にガツンと言ってもらわねば。