2.メイド長 side
「はぁ……」
わたくしのお仕えする王妃殿下は、美しい王妃ランキング第一位、優しい王妃ランキング第一位の素晴らしいお方ですわ。メイド一人ひとりにも気遣いの言葉をかけてくださり、メイドの全員が王妃付きメイドを希望しているという噂もございます。そんな麗しき王妃殿下に何か悩み事が……。思いつくのは、夜会やお茶会で王妃殿下にうざ絡みしているあの親子のことでしょう! あぁ、わたくしとしたことが、言葉が荒れてしまいました。
「王妃殿下。なにかお悩みでもございますか? わたくしめでよろしければ、お話を聞くことくらいなら可能でございます。王妃殿下のお負担を少しでも減らすことができるのでしたら、わたくしめをお使いくださいませ」
そう言いながら、見えないように指示を出して人払いを済ませます。高貴なお方のお悩みなど聞かせる人間は選びませんと。
「メリー。あなたにはいつも助けられているわ。そうね、あなたに相談してもよろしいかしら? わたくしの、友人夫婦のお話なのですが……」
王妃殿下の友人夫婦のお話……辺境伯夫妻に隣国国王夫妻といった我が国に関わるお方のお悩みでございますか……。一介のメイド長なわたくしめには重たいお話かもしれませんが、敬愛する王妃殿下のお悩み、解決してみせましょう!
「わたくしめでよろしければお聞かせくださいませ」
「ええ、友人夫婦は結婚二年目なのですが、政略結婚といえども関係は良好だそうです」
……結婚二年目のご夫婦? まるで我が国の国王陛下ご夫婦のようなお話ですね。続きを聞かせていただきましょうか。
「夫婦仲が良好なことはよいことですね」
「え、えぇ。わたくしもそう思うわ。ただ、よくお会いするお方に”陛下……いえ、旦那様が愛しているのはうちの娘だ。所詮政略結婚の身で寵愛をうけようとお思いになるなんて”といったことを言われるようで……」
……。”わたくしもそう思うわ”とおっしゃったときのはにかんだ表情、陛下と言い間違えられたそのお言葉、そしてあのクソ親子のことをおっしゃっている……つまり、ご友人ではなく王妃殿下のお悩みでございますね。そして、やはりあのクソ親子はさっさとやっておくべきでしたわ。なにを、とは、わたくしの口からはとても申し上げられません。夫に言って、暗殺部隊を動かすほかないみたいですね。
「しかし、その旦那様のご寵愛を求める羽虫……いえ、部外者の言葉、ということで解釈できるかと思いますが……」
「えぇ、わたくしも陛下が愛をささやいてくださっていることを信じ、そう思っていたのですが……」
そういい募る王妃殿下の表情は憂いを帯びていて、わたくしめは憂いを晴らすためならなんでもしようと決意いたしました。
「何かございましたか?」
「その、陛下との夜のご様子を詳細に語っていらして……わたくしへの愛の言葉は偽りで、心では彼女のことを愛していらっしゃると。……その、わたくしの存じ上げている陛下のご様子と一致するものですから……。そのお方を側妃にするには身分が高すぎますわ。子のいない今、愛し合うお二人のために身を引くべきなのか、いえ、あくまで政略結婚の身として……」
まさかとは思いますが、国王陛下は王妃殿下以外の女性と閨を共にしている、と……。王妃付きのメイドから漏れる以外は、国王陛下の火遊びしか想像できません。あぁ、あの害虫女を国王陛下が愛しているなどありえないことは明白です。前王の姪という身分のせいであやふやになっていましたが、早急に駆除しなければ……。
「王妃殿下。我が夫は宰相でございます。国王陛下のあれこれ……ではございませんでした、男性からの視線というものも参考にするべきかもしれません。少々、話し合ってきてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、ありがとう。いつも助かるわ、マリー」
ついでに王妃殿下の周りに飛び交っている害虫がいないかしっかりと調査し、駆除しなければなりませんね。