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2、そうはいかない

続きです。

 私はなすすべなく、綺麗なドレスもビリビリに破れて埃まみれな姿で、門から放り出された。


 その上、城門前には祭りに参加するべく集まっていた大勢の一般市民が居たのだ。その中で衛兵に詐欺師呼ばわりされ、国外追放だと宣言されてしまった。

 私も多少反論したが、彼らはさっさと門の中に戻っていってしまい、取り残された私は途方に暮れるしかなかった。


「大丈夫かい?」


 座り込んだまま茫然としていると、やさしい男性の声が聞こえてきた。低すぎも高すぎもしない。良い声だ。私が声のした方、左方向を見上げると、そこにはどう見ても貴族の若い男性が私に手を差し伸べていたのだ。


「……ソコルソ殿下?」

「ああ、覚えていてくれたのか。どうしたのか、は何となくわかったし、大丈夫でもないと思うけれど、先ずは立てるかい?」

「多分」


 私はソコルソ殿下の手を借りながら立ち上がった。

 彼は浄化の旅の途中で出会った、南の隣国の王子だ。確か第3皇子だったと記憶している。第3と言っても上二人は姉で、男の子としては長子だけど、南の国では王位継承権に性別は関係ないので、お気楽な身分だと笑っていた。


 浄化の旅として聖女なる者が国中を回っていれば、隣国も興味を示す。南の国もまた瘴気だまりが多少なりともあり、現在影響は出ていないが、今後に備えて対策を立てているところだとこの王子が言っていた。私が隣国に行ければ早いかもしれないが、私は旅が終わったら元の世界に戻る予定だったから、科学や物理で何とかできないかと、一緒に行動していた時に王子一行と話し合ったことがある。


 ソコルソ王子は立ち上がった私に、従者から受け取ったマントを掛けてくれた。その際にだいぶ眉をひそめていたから、きっと私の背中はいろいろとボロボロだったのだろう。今は興奮していて痛みも感じないが、そのうちに凄いことになりそうだ。私はさっと回復魔法を唱えて体の傷を治す。

 うっすらとした光が私を包む。もうあたりが薄暗いからちょっと目立つが、私が回復魔法を使えることは誰もが知っているので、騒ぎにはならない。

 よくある転生聖女様モノでは、回復魔法が使えるとなるとみんなが寄ってきて助けて~なんてことがあるが、この国は実は医療もそこそこに発展している。どんなに小さな村でもお医者さんが居るし、薬もある。回復魔法はあくまで補助的な物であり、旅に出ている時で医者がいない、薬がない時だけ、利用するようなものなのだ。

 私は傷だけでなく病気回復魔法も使えるが、これは正確にはお医者さんの診断がなければ使ってはいけない。例えば咳が酷く出ると言ったって、ウイルス感染なのか喉の炎症なのか、はたまた内臓系の疾患なのか、私にはわからない。ヘタな魔法回復では悪化させる事もある。

 見るからに喉が真っ赤ならば炎症を鎮めれば楽になるけれど、基本的にお医者さんの診断があって、薬代わりに掛けるようなものだ。

 だからこの世界では、回復魔法は珍しい部類には入るが、重宝されたりはしない。


「綺麗な回復魔法の光だったね。もう大丈夫?」

「はい」

「さっきも言ったけど、何があったのかは何となくわかった。でも、なんでこんな事になったのか、聞いてもいいかい?」

「もちろんです。と言っても私にもよくわからないのですが」


 こんな人目のあるところでと思わなくもなかったが、私に非が無いことを周りの人にも分かってもらいたいので、私は話し始めた。多分殿下もそれを狙ってのことだろうし。


「いきなりボルデテラ殿下が、本当は私は浄化などせず、遊び呆けていたと。浄化は代わりにボルデテラ殿下と一緒に旅に出た方々が行っていたと言うんです」

「はあ?」

「それなのに自分が活躍したかのように王に報告するとは! って」

「いやそれ、すべてボルデララ殿下の事では?」

「ですよね? それで、私にこの国から出て行けと。処刑しないだけましだと思えと」

「それを国王が許したのか?」

「いえ、国王は今日は出席されないので」

「ああなるほど。なんとなくわかった気がする」

「どういうことですか?」


 ソコルソ殿下が苦笑した。


「大丈夫、君は追放なんてされないよ」

「そうでしょうか?」


 ソコルソ殿下はにこやかにうなずいた。王族という方々は、無用なまでに穏やかな笑顔を見せるが、これが安心感抜群なんだよなあ、と頭の隅で思う。


「君がちゃんと浄化を務めていたことは、この国の誰もが知っていることだよ。それに、彼らが何をしていたのかもね」

「……そうでしょうか」


 そう私が半信半疑ながら答えた時だった。


「ひまりさまああああああああああああ!!!!!!」


 と、大きな声と共に、マンガのように土ぼこりを立てながら、城の塀沿いに女性が走ってきた。あまりの勢いに周りにいた人たちが慌てて避けてくれる。

 あっという間に私のところまでたどり着いたのは、私専属のメイド長だった。


 あれだけの勢いで走ってきたのに、息一つ切らしていないし、綺麗に整えたお団子頭も一糸も乱れていない。もちろんメイド服も、一度スカートをひらりと払っただけでピシッと戻った。


「ど、どうしたの、マーサ」

「どうしたのもこうしたのもありますか! というか、なんですかそのお姿は!!!」


 メイド長マーサは私の両腕を掴んでガクガク揺さぶりながら言った。

 彼女たちが2日間かけて、旅でボロボロだった私を磨き上げ、旅の前、ここに来た当初にボルデテラ殿下が作ってくれたドレスを、痩せてしまって合わなくなった部分をすべて調整してくれて、髪もきれいに結い上げて送り出してくれたのに、今の私はドレスは破れ、埃だらけだ。髪は自分では見えないけれどひどいことになっているのはわかる。


「こんなみすぼらしい姿になって!!」

「ごめんなさい、せっかく綺麗にしてもらったのに」

「誤って済む問題ですか! こんな姿を人前にさらさせるわけにはいきません! さあ行きますよ!」

「って、どこに!?」


 言うが早いか私の手を引っ張り出したマーサに私が言うと、彼女はキッ! と私をにらんで答えた。


「あなた様の部屋に戻るに決まっているでしょう!」

「だ、だって、私……」


 追放されて、とは言いにくくてそこで言葉を切ってしまった。

今だって門から文字通り放り出されたのに。


「だってもさってもありません! さっさと帰るんです!」

「は、はい!」


 マーサの余りの迫力に思わずそう答えてしまったが、それでも戸惑う私の背を、ソコルソ殿下がそっと押してくれた。


「彼女の言う通りにしたほうが良い。さあ、行きなさい」

「……はい」


 私は頷き、マーサに手を引かれながら彼女が来た方向に戻っていくのに付いていった。


 

多分あと1回で終わりです。

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