第六幕の一
「なあ……。悪かったって。頼む答えてくれ。…‥‥黙んないでくれ。俺のこと見てくれよ」
道中ずっと声かけてくるからガン無視。
「ほんとごめんって。なぁ……」
どんどんシュンと小さくなってくる。
はあ。
「もう少しだけまって。そしたら聞くから」
見ないで言うと、うんとだけ小さく答えた。
もう。
私が悪いみたいじゃん。
話をしたいというのはある。
まあ。どうせ、私の様子がいつもと違うから変に不安がって、後をつけてきたってところだろうけれど。
そっと目だけど向けた。
まさか同行者がいたとは。それも絢ちゃんの彼氏とか。
どこでつながった?
「はい。いいよ」
お互いの家の最寄り駅まで帰ってきて、途中の公園のベンチに座った。
よくここで話をする。
「まず。ごめんなさい。朔が普段と違うデートな気がして、俺怖くなって……」
当たってたか。
「ほんとダメなことしてるって思った。その上、他のやつ巻き込んで。俺何してんだろって。何言っても言い訳になるし。怖いとか勝手な言い分で」
「私が満足に説明しなかったからそんな風に思わせたんだよね。ごめん。そんな風に思わせて。でも時間なくて。早く行きたくて」
「俺よりも二人との時間がいいってことか?」
あ。
間違えた。
「ごめんそうじゃない」
「いやいい。そうだよな。俺よりもあの二人といる方が楽しいよな。朔。めっちゃ楽しそうだったもん。足取りも軽かったし。今だって。お前自分が悪いって。そういうところが俺にはなくて」
あーだめだ。
普段ならもう少し取り繕うのに。それができてないってことはそれぐらい今回のは……。
だとしたら。もっと怒っていいし。好き勝手言えばいいのに。
「やめて。なんでそうやって自分のことさげるの? なんで引き下がるの?」
両手で顔を挟んで、私の方に向かせた。
「後をつけてきたことはもう怒ってない。だから私に謝る必要はない。でも。付き合ってくれた二人にはちゃんとお礼も謝罪もしてね」
「うぅ」
「うん。……私のこと気になってしたんだよね。私がどうして早く行きたいってなったかっていうと。あの二人とは前からやり取りしてたの。会ったこともある。それ全部が楽しかったの。二人ともいい子で。クラスの子とか後輩とかとは違う感じの二人が新鮮で。海とは違う特別な二人だから」
「とくべつ?」
「そう。特別。海との時間も特別。親友と彼氏は違う種類の特別なのと同じで。あの二人と海は別の特別なの。……二人のこと、そう呼んでいいのかわからないけれど。でも仲良くしたいって思ってる」
黙ってまっすぐ私を見てくれるようになったから、手をどけた。
「あのね。私。今回のこと怒ってるのと同時に、うれしかったの」
あの時表情が変になったのは、自分でもごちゃまぜになったから。
「絢ちゃんの彼氏君と一緒だったこと。ついてきたこと。私の事が気になったからだなって。海は私がすること全部認めてくれるから。その中で、今回のは他と違うって気づいてくれて。私のこと見てくれてて。好きにさせてくれる。何も言わない」
三人で話すとき、自然とお互いの彼氏の話になる。
練習ばっかり。
大会に向けて練習試合が多く入ってる。
朝練でバタバタ教室に入ってくる。
いつだって部活中心の彼氏たち。
嬉しかった。
共感できることが多いし、学校が違うからこそ話せた。
相手の事をお互いフラットに見えるから。
「私のこと好きなんだなって思った」
「俺は。お前が思っている以上に好きだ」
「私も好きだよ」
「でも、お前は俺じゃなくてもいいだろ?」
なんでそう不安そうになるの?
「それは私がかっこいいから? 負けたくないとか対抗心?」
絢ちゃんが言ってたこと。
「……。うん。朔はほんとかっこいいし、余裕がある。俺はそれがなくて。だから。朔の好きにしてほしいって。行動の制限とかしたくない。朔の彼氏だから。もっと堂々としてたい。でも。朔自身に俺は負けてると思って」
珍しく話してくれている。
……。
「俺。あいつには俺が捨てられるかもって言ったけど。言葉に出した途端、まじでそう思えてきて。だから、一緒にいたのがあの二人ですげー安心したんだ。一人は知ってるやつの彼女だったし。安心したけど、俺より二人とのほうが楽しいのかなってなった。友達との時間を制限するのはダメだってわかってる。だから好きにしてほしいけど。でも。わがままだし。言えないってなって」
……。ほんと。
そういうところなんだよ。
「ごめん。何言ってんだろうな俺……」
「海。わがまま言ってよ」
今いうのがいいだろうな。
「海は部活でめっちゃいうじゃん。なのにどうして私にはいわないの? 制限とかわがままがかっこ悪いの? 私は私に遠慮してるのかなって。そっちの方が嫌だ。部員には言えて、私には言えないの? って。ねえ。海。私は海の彼女で。海は私の彼氏なんでしょ? だったらちゃんと言ってよ。で話そ? 海が私の好きにしていいっていうように、私も海の好きにしていいんだよって思うの」
「俺はもう十分」
「してないよ。遠慮してるよ。海にとって部活が大事なのはわかってる。それ込みで私は海が好きなの」
「……。いいのか? 俺は部活があるから一緒にいる時間とか少ないって思ってる。でもお前がそれに対して不満とか言わないのいいことに、それに甘えてる」
「いいよ。甘えてよ」
それが海の甘えだっていうのなら、彼女として彼氏を甘やかしたい。
「……ほんとかっこいいよ」
「かっこいい私は嫌?」
「……ううん。だから好きなんだよ」