第三幕の三
「ふふふっ」
私たちをみて笑う鈴さんに、朔先輩が首をかしげた。
「どうしたの? おかしなこと言ったかなー」
「いえ。かわいいなと思って」
「鈴ちゃんもかわいいよ」
「ありがとうございます」
これ二回目では……。
「鈴さんはどうなの? ここに一緒に来たこととかあるの?」
ここは鈴さんの学校近くだし、一緒に帰ってるということだったし。
「鈴ちゃんの話も聞きたい」
朔先輩、楽しそう。
私も朔先輩も話したのだから、鈴さんの話も聞きたい。
「ここは一緒には来たことはないです。部活後だとどうしても時間が遅いですし、休日は練習がありますから。どこかへ行くというのはほとんどありません」
「ああ。わかる。練習に、試合にって。案外予定入ってるよね」
「そうなんです。……だからでしょうね。一緒に帰るということだけでもしないといけないと思っているのかもしれません」
鈴さんの言い方に、ひっかかった。
「いけないって……。義務みたいに感じているの?」
「どうなんでしょう。あの人あまり自分の想っていること言わないので」
笑顔なのになんだか寂しそうに見える。
「言わなそう。これも勝手なイメージなんだけど。こう。色恋沙汰とは縁遠い人だと思ってた。だからその手の類も周りに言われてーとか」
朔先輩の感想に、私もうなづいた。
「実際縁遠いと思います。部活が中心の人ですから」
鈴さんの彼氏さんは、強化選手に選ばれるぐらいの実力者。
ここがすごいんだって解説してくれたなぁ。
「私としては、朔さんや絢さんのように、一緒に帰らない日があってもいいのかなと思っています。今日も、自主練しているはずなのですが、私が待っていたら、そこそこに切り上げることもあるみたいで。そういうのはしなくていいと言っているのですが」
「鈴ちゃんは一緒に帰るとかそういうの嫌なの?」
「嫌ではないです。学年が違うので、自然と一緒にいる時間がそこのタイミングになるので、それはなくなってほしくないです。ただ」
視線がおちた。
「私に合わせてばかりな気がして」
……ああ。そういうことか。
恋愛に疎い彼が、『下校は彼女と』という考えに固まって。タスクのようになっているのではと。
でも彼の真意はわからないと。
「彼女に合わせるのがいいっていう人もいると思うけど。んー。鈴ちゃんは合わせなくていいって?」
「はい。私はあの人のわがままだったり、好きなことを優先してほしいんです。でも。きっとそういうとすでにそうしているといいそうで」
ああ……わかる。
「私は、自分の想っていることや、感じていること。彼に伝えるんです。彼は一生懸命聞いてくれて。……いつだって話しているのは私で。おしゃべりではないところが彼の良さだと思いますし、惹かれたところでもあるのですが……。ただ彼はいつも。私のしたいようにしたらいいと」
「束縛はしんどいけれど、放任もしんどいよな。まあ。それだけ信じてるってことだし。それだけ好きってことなんだろうけど」
「真面目で、鈴さんにしっかり向き合っているのかなと私は思うよ」
「まあでも。義務って感じちゃったら嫌だよね。面倒とか思われてるのかなってなる。たっだら別にそうしなくてもよくない? ってなっちゃう」
朔先輩らしい。
「義務って難しいですよね」
私も思ったままを言おう。
「朔先輩のおっしゃるように、悪い感情がある状態で、そうしてもうれしくないと思う。でも。たとえ義務だとしても、本当に嫌だったら、適当に理由をつけてしないという選択もとれるんじゃないかな。真面目な彼なら尚の事。きっと鈴さんに不誠実なことはしないと思う」
私のイメージだ。
きっと嘘がつけないタイプだろう。
「案外負い目だったり?」
朔先輩がひらめいたようすで。
「ほら。休日も部活で、どこか行くっていうのないんでしょう? だから。彼氏君としては、すでにそういう点で合わせてもらってるから。尚の事、可能な時間は一緒にいる時間にしたいとか。じゃないと彼女である鈴ちゃんに申し訳ないとか?」
「だとしたら。尚の事、私は嫌です」
きっぱりと言い切った。
「朔さんが言われてたように、わがままも遠慮もいらないんです。好き勝手いっていいと思うんです。申し訳ないからという理由で一緒にいてほしくないです」
厳しい声色からとても優しくて、穏やかな声色に変わって。
「私は、周りに流されなくて、自分が確立していて、好きなことになったらそれ以外見えないぐらい真っすぐで。前を見てる彼を見ていたいんです」
……。
「……かわいい」
「……ああ。いいなぁ。こんな彼女になりたいし、ほしい」
「あれ?」
「うらやましいわ」
「そうですね」
朔先輩と顔を合わせてうなづきあった。
「鈴ちゃんの彼の思い。いいね」
「ありがとうございます」
少し戸惑った様子があるけれど、いつものかわいい笑顔に戻った。
「さて。総括すると、三人とももっと話したほうがいいって感じかな?」
朔先輩がぽんと手をたたいて。
「まあ。今日は否応なしに話さないといけないことがあると思うけどー」
朔先輩の視線が私たちを通り過ぎて、後ろの方に。
「そうですね」
「はい。話します」