第六幕の三
黙って二人でならんでかえった。
なにをいっていいかわからないから、黙ることにしたが。
「りん」
「なんですか?」
りんの家の近くまで来て、呼び止めた。
が結局言葉がでてこない。
「どうしたんですか?」
首をかしげる姿はいつも通りかわいいりんだ。
「楽しかったか?」
「ええ」
「俺が来たことをどう思う?」
「驚きました」
「俺も驚いている」
といったことも驚いている。
「りんのことをふみさんに……あやさんかな? 彼女の彼氏にあたる人と知り合いで。君が一緒にいると連絡を受けたんだ。誰かと会うというのは知っていた。りんが楽しそうだったから、相手が誰か気になってはいた。それがあの二人であって安心した」
りんをみた。
りんもみていた。
「りんが楽しいのが一番だ」
「どうして連絡がはいったんですか?」
「ああ。大会先で知り合って俺が連絡先を聞いたんだ。お互いの彼女がそこにいると。どうやら知り合いのようだと」
あの時連絡を受けて、すぐにきた。
「私が誰に会うのか気になって、わざわざ来たんですか?」
「ああ。だめか?」
「……いえ。それで安心したというのは?」
「あの場にいた二人とは大会先でなんどもあっているし、信用に足る人たちだと思っている。その人たちの彼女であればりんが仲良くする方としていい人たちだって思う」
「それで安心と」
「うん」
りんが他校の生徒と親しくなるのは珍しいことだから、気になっていた。
りんはクラスメイトに対しても一線を引いてるのに、あの二人に対しては違うように感じてた。
それを実際目にして、確信した。
「りんにとって、あの二人は他の人とは違うんだな」
「ええ。ちがいますね」
いつもよりも明るい笑顔のりん。
……俺といるときよりも楽しそうなのはすこし嫌だが。
「りんにとって楽しいのならそれが一番だ」
「といっているわりには、納得されてないみたいですけど」
……りんは本当によく見てくれている。そんな彼女に僕は正直になっていいのだろうか。
どれだけ見ていても。りんの考えていることを全部わかることはない。
だからせめて、可能なかぎり、りんと一緒にいてわかりたいと思っているが。
「……りん」
「はい」
「あの二人と会うのはいい。遊びに行くのもいい。りんが楽しいことが一番だ。……だが。俺とのよりも嬉しそうなのがいやだ」
そうだ。
それはいやだ。
「ロードワークを抜けてまで? 確認に?」
「ああ」
誰といるときが俺よりも楽しいのか。
りんにとってなにが楽しくて嬉しいのか。
「……」
驚いた顔を俺に向けている。
「うぬぼれてもいいですか?」
なにを突然に?
「私ってそれぐらい価値があるんですか?」
……なにを言っているのかわからないが。
「価値もなにも。りんは彼女だ。最優先する相手だ」
俺はそう思っているんだが。
「ありがとう」
俺が告白した時と同じぐらいまぶしい笑顔を向けてくれた。
「礼を言われることはしてないが。りん」
「はい」
俺は恋愛がよくわからない。
ただりんのことが好きだということはわかっている。
けれどそれだけで、恋人という認識がどこまで一般的なのかはわからない。
「俺は俺が自覚している以上にりんのことが好きだ。だかそれを行動に示して目に見える形にできるかはわからない。そんな俺だがいいか?」
りんと向き合う。
俺よりもかなり小さい背丈。
でも誰よりも凛と涼やかな空気をまとって、目線が同じ気がした。
「十分です。私が楽しいことが一番だと言ってくれるように、私もあなたが楽しいことが一番だから」




