第六幕の二
「……怒ってる?」
「怒ってはないよ。だけどとても驚いたし、戸惑った」
僕の方を見ない絢に恐る恐る聞くと、一向に見てくれない。
「……ねえ」
気まずい。
一緒に帰ってるのにこんな事初めてで。
「ごめん。……どう話していいかわからなくて。あのね。聞きたいことがあるんだけれど、どう聞いたらいいかわからなくて。その質問をされたとき、どう答えていいかもわからなくて……」
歯切れがわるい。
珍しいことだ。
僕が質問することを絢は明確に答えてくれる。
「考えてまとまるまで待ってくれない?」
「それはいいけれど……」
「ありがとう」
……。
僕にそう笑ってくれたけれど。
結局、帰り道はなにもなく、絢を家まで送って終わった。
……。
僕も考えがまとまっていない。
どう聞いていいかわからない。
どう答えていいかもわからない。
そういわれて、僕も考えてしまっている。
僕たちは聞かれたことはお互い答えてきた。
……それがいつのまにか、答えられる質問しかしなくなっていたんだ。
絢のあの言葉にそう思った。
……確かにそうだと思い当たる点がでてきた。
「これをどう説明したらいいんだろう……」
教科書やノートをひらいて、机にむかったのはいいものの。
まったくもって進まない。
「はぁ……」
横目に見るけど、連絡は来てない。
……。
「気分が悪いけどしかたない」
せかしても意味がないことだ。
絢が待ってほしいといったんだ。待つのができることだし、しなくちゃいけないことだ。
「きりかえないと」
……とはいったものの……。
それでも気になってしまう。
……絢……。
かたしとく。……か。
先輩に言われたけれど。どうしたらいいんだろうか。
ティロン
ん!
「はい。もしもし」
『絢です。今大丈夫? 勉強中?」
「いいよ。大丈夫だよ。絢こそこんな時間にどうしたの?」
『うん……。今日の事。考えがまとまりそうになくて。このままだとずっとそうなりそうで。それって気分がよくないから』
「うん」
『とりとめもなくて、ぐちゃぐちゃで申し訳ないんだけどいいかな?』
「うん」
『ありがとう。……あのね。今日のこと、とても驚いたよ。わかったって言ってたのに、どうして私のいるところにいるの?って。そのうえ先輩の彼氏さんと一緒だったし。あとから合流した彼の事も。どこで知り合ったんだろうって思ったけれど、私たち三人よりもあなたたち三人の方がよっぽどつながりがあるなって。それに友人関係をどうこう言うのは違うと思っているの。……聞いてもいいかな?」
「うんいいよ」
『どうして三人でいたの? あの場では、先輩の方に二人がつきあったっていう形みたいだったけど』
「うん。そうだね。僕が先輩に呼ばれて、先輩の彼女の後を追う形であのお店にいったんだ。僕も絢がいるとは思ってなくて。だから安心したよ。君の予定がこうだったんだなって」
『何度かお茶をしたことはあったの』
「そうなんだ」
『うん』
「……」
『……』
「……僕も聞いてもいい?」
『うん。なあに?』
「絢がだれかと連絡を取ってることも、ときどきあってることも気づいていたよ」
『……うん』
「その時の絢。すごく楽しそうだなって。他の子と遊びに行くときと空気が違うんだ。軽やかだし、なんだか跳ねてるんだよね。そう感じるんだ」
『そんなに私違って見えたの?』
「うん。……だからかな。聞けなかったんだ。その予定がなんなのか」
そうだ。
それを感じていたから、怖くて聞けなかったんだ。
いつもと違う様子に、絢がごまかすことなんてしないだろうけれど、答えを聞いて僕が安心できるのかは僕自身の問題で。
僕だって、先輩とのことを全部包み隠さず話していたわけじゃないから尚の事。
絢に隠し事しているみたいで。嘘をついているみたいで。
『……。それは私もだよ』
絢の声が震えている。
「絢?」
『文くんが聞かないことをいいことに私なにも言わなかったから。文くんが誰かと会っていても、それを問いただすことなんてできないって思ってた。私も言ってなかったから。結果として隠してた』
「それは僕もだよ」
『文くんはどう答えてくれる?』
その質問にどうしても即答できなかった。
先輩は友達だと言ってくれたけれど。
「うん、そうだね……。僕もどういっていいかわからないんだ。先輩は友達だといってくれたけれど。僕は友達が少ないからどうしていいかわからない。でも今日呼び出されたことは嫌じゃなかった。二人と遊んだ?といっていいかわからないけど、楽しかったし」
『文くんが二人の連絡先を聞いたの?』
「聞かれた側だよ。……ああだからか。僕からじゃないから距離感がわからなくて」
『文くん、楽しそうだったよ?』
「うん。楽しかったよ。自主連も何度か一緒にさせてもらったりしたのも」
『いい人と繋がれたんだね』
「そうだね。絢にとってもあの二人はそういう感じなのかな? 知り合えてよかったって」
『うん。お二人とも良くしてくれる。お話しやすいし、一緒にいるのが楽しくて』
「それはよかった。絢にとって良いことなら僕は嬉しいよ」
『ありがとう』
「ねえ絢」
『なあに?』
「あの二人に会う日は今までみたいにただ予定とだけ言ってくれたらいいよ」
うん。そうしよう。
絢のあの時の表情は僕に向けられるものじゃない。
あの二人とだからのものだ。
絢にとって良いものなのだから。
『え、でも』
「その代わりといってはなんだけれど。僕もあの二人と会うときは予定というよ」
『……そっか。わかった。そうだよね。なんでもかんでもお互いのこと全部しるなんてできないもんね』
「うん。でも予定だとだけなら僕はあの二人だなって思う。女子会っていうの? 今日の絢、すっごく楽しそうだったから。そういう日まで僕が口出しするのは違うと思うから」
『ふふふ、ありがとう』
笑ってくれた。
よかった。
『なら隠してたのも隠すのもお互い様、ってことだね』
「うん、お互い様だよ」
答えなくてもいい。話さなくてもいい。
そういうことがあってもいい。
隠し事がいいことかどうかはわからないけれど。それでも。
僕が知らない君がいたとしても、僕が君を嫌いになることはない。
それで僕が勝手に不安になったとしても、きっとそれは伝えたら君は答えてくれるだろうから。




