友美の食卓
帰宅すると軽くシャワーを浴びひとごこち着く。母がパートから帰宅すると、うどんを茹でてくれた。
「おいしい?」母が友美に聞いた。
「うん」ただそれだけの友美。
「よかった…」母が嬉しそうに答える。
「ごちそうさま」
さっさと食べると2階の自室へと戻って行った。自室に戻るとゴンゾウが話しかける。
「もう少し、お母様にお声をかけてもよろしいのでは?」
「だって話すことないんだもん」
「では、今度こうした機会があった時、私がテキストを表示しますので、その通りお話ください」
「え!なにそれ?」
「それなら簡単でしょう?」
「まあ、ね…」
父が帰宅し夕食の支度が整うと1階から母の呼ぶ声が聞こえる。
「もうこんな時間か…」
動画やWebに熱中しまくりの友美の時間は速い。こんな調子でバイトのない日はあっという間に過ぎて行った。
とりあえずゴンゾウを連れ、下に降りテーブルに着く。いつも通り父は黙っている。
ゴンゾウをテーブルに置き箸を手に取ると。
画面に、いただきます。と表示された。
「えっ!」
「い…いただきます…」小声だがふり絞るように言葉を発した。
父と母は驚いて大きく目を開けている。
―いつ頃からだろう いただきますも言わなくなった頃って…
続いて画面に、おいしい と表示された。
―いや確かにおいしいけどさ…なんかいまさらと言うか。
「おいしい…」
母と父が大きく目と口を開き見つめ合っている。かなり驚いているようだ。
「友美、あなた大丈夫?」いつもと違う 娘に心配して母が気遣う。
画面に、えっ! だいじょうぶだよなんで? と表示された。
「だいじょうぶだよ、なんで?」友美がそう答えると両親はなぜかそわそわしながら「あっ」とか「うっ」とか言い出した。
「なにかあったのか?」父が聞いてきた。父に話かけられたのなんてどれぐらいぶりだ?
画面に、え!? なにもないよだいじょうぶ。と表示された。
「なにもないよ、大丈夫だよ」友美が言う。
「そ、そうか…」父はなんとか取り繕い 気持ちを整えてるようだった。
画面に、お父さんも毎日ご苦労さまです。ありがとねと表示された。
ーげっ!こっ、これは無理だあ!
画面が点滅しながらTEXTが表示される。
「……」口ごもる友美。
しばらくするとゴンゾウはあきらめたのかTEXTは消去された。
タイミングを見計らい画面にごちそうさまと表示された。
「ごちそうさま…」友美は席を立ち2階の自室に戻ろうとした。画面に、自分の食器を流し台に運んでくださいと表示された。
「自分の食器を…」あっ!これはセリフではなく自分への指示だと気づき途中で黙る。自分が使った食器をまとめ流し台へと運ぶ。
父と母はその様子を信じられないと言った表情で見つめていた。
2階の自室に戻るとゴンゾウがクレームを入れた。
「ちゃんとセリフ通りお願いします」
「セリフ通りだったじゃん」
「え!?が抜けてましたよ、あと2回目のだいじょうぶがだいじょうぶだよになってました」
「そんな細かいこと言われてもさ」
「まあ そうですね。 今日のところはこの辺で」