プロローグ
メルゼス国の首都・アウラにある、商業地区の大通りから一本それた通りには、小さなパティスリーが建っている。
店内は瀟洒な可愛らしい飾り付けがされ、店頭に並ぶ焼き菓子や生菓子もまた、ここでしか見られないカラフルで乙女心くすぐるものばかりだ。
店内の一角にはイートインスペースが設けられていて、他の客からは見えないように間仕切りが設置され、半個室となっている。
閉店時間よりも少し前、扉に付けているドアベルがチリンチリンと音を立てた。
入ってきたのは程よく筋肉が付いた細身の青年で、その容貌は恐ろしいほど整っている。ふわふわとした白金色の髪に紺青色の瞳は切れ長で、目鼻立ちの整った華やかな容姿は見る人を引きつけるものがあった。
ドアベルの音を聞きつけた私は奥の厨房から姿を現した。
「お待ちしてました。本日もお仕事お疲れ様です」
フリルのついたエプロンをつけた私が手に持つお盆の上には、準備が整ったティーセットとナパージュされたつやつやのフルーツケーキが二人分置かれている。
青年は私を目に留めて破顔すると半個室となっているイートインスペースへ移動して腰を下ろす。花柄の円いポットから淹れたてのお茶をカップに注いで出せば、早速一口飲んでくれる。
青年は喉の渇きを潤すとフォークとナイフを手に取り、宝石のように輝くフルーツケーキを一口大にカットして口へと運んだ。
口に含んだその瞬間、青年はこれ以上の幸せなどこの世にないというように頬を紅潮させ、恍惚とした表情を浮かべる。
私は向かいの席に腰を下ろすと、テーブルに両肘をついてその上に顎を乗せる。
そして、いつものように彼の様子を眺めて目を細めるのだった。