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禍福は糾える縄の如し

 うちの会社には、仏木ほとぎりさんというちょっと変わった女の人がいる。まるで幽霊のような鬼気迫る風貌をしていて、趣味は占い。ただ、本当は占いどころか呪術を趣味にしているという噂もある。まぁ、見た目でそういう印象を持たれているだけだとは思うのだけど。

 彼女は恐らくはオリジナルだろう変な占い理論(?)も提唱していた。と言っても、そんなに複雑なものではない。禍福は糾える縄の如し。良い事があったら悪い事があって、悪い事があったら良い事がある。そのようにこの世の中はなっていて、良い事があった人の運気は下がるのだと常日頃から主張しているのだ。ありがちと言えばありがちかもしれない。

 僕はそーいうのは信用しない性質だから、あまり信じてはいなかった。

 お金持ちに生まれた人は大体は恵まれた一生を送るし、貧乏な家に生まれた人はよっぽどの事が起きない限りその立場からは逃れられない。理不尽に思えてもそれがこの世の中の現実で、良い事があっても悪い事が起こったりはしない。麻薬を売った金で一生贅沢に暮らす人だっている。

 もう少し仏木さんはシビアに物事を捉えるべきだと思う。この世の中は平等ではないんだから。まぁ、僕は新人だから、先輩の彼女にはそんな偉そうなことは言えないのだけど。

 そんなある日、仏木さんがこのような事を言っている声が耳に入ったのだった。

 

 「柏さんが結婚したわよね? きっと、転勤が決まるわよ」

 

 例の占い理論だと僕は思った。結婚という良い事があった柏さんには、何か悪い事が起こると予想したのだろう。それで転勤になると考えたのだ。

 “そんな馬鹿馬鹿しいことがあって、堪るもんか”

 そう僕は思っていた。

 ところがだ。なんと、それから本当に柏さんの転勤が決まってしまったのだ。可哀そうに。柏さんは新婚ほやほやなのに、遠くに飛ばされてしまった。これでは夫婦一緒には暮らせないだろう。

 ただ僕はその程度では仏木さんの占い理論が正しいとは思わなかった。偶然に決まっている。一憶分の一の偶然が起こる事だって世の中にはあるんだ。宝くじに二度当たった人だっている。これくらいの偶然なら、充分に起こり得る。

 ところで、柏さんが移動したので、代わりに他の人がうちの部署にやって来た。木戸さんという。その人も結婚していて単身赴任らしい。不幸と言えば不幸だけど、別に新婚って訳ではなかった。仏木さんの占い理論が正しい事の証明にはならないだろう。

 が、

 「……木戸さんは、きっと家を買って飛ばされたとかそんなところね」

 などと仏木さんは言うのだった。

 まさかと思いつつ尋ねてみると、なんと彼女の言う通りだった。彼は家を買って早々にこの部署に飛ばされて来たらしい。

 それで僕はちょっと怖くなった。

 

 ――もしかしたら、本当に仏木さんの占い理論は正しいのだろうか?

 

 だから、「どうして仏木さんは、柏さんの転勤や、木戸さんが家を買った事なんかが分かったのですか?」とそう尋ねてみたのだ。

 すると彼女は、目の下にクマがあって頬がこけた顔を不気味に歪ませて笑った。「簡単よ」と言う。僕は思わず息を呑んだ。何か神秘的な事を言うに違いない。

 ところがどっこい、彼女はそれからこう続けたのだった。

 

 「うちの会社の人事部、結婚とか家を買ったとか、何かそういう“良い事”があるとその社員を転勤させちゃうのよ。きっと嫌がらせね」

 

 は?

 

 もちろん、僕はそれを聞いて一気に気が抜けた。“なんだ、そんな事か”と。ただそれから直ぐに怖くなった。いや、ちょっとおかしいのじゃないかと思ったのだ、この会社を。転職も考えた方が良いかもしれない。

因みに、本当にこういう人事をやる会社があります……

何を考えているのでしょうかね?

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