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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

美醜逆転の世界でご主人様に執着されてまんざらでもない私の話

作者: すじこ

ただ私の性癖を書きなぐった話です。

どこかに同類がいると信じて。


 コンコン

「お食事をお持ちいたしました」

「はーい」


 ご主人様と一緒に宿泊している宿の部屋でゆっくりしていると頼んでおいた食事が運ばれてきた。

 普通は食堂でご飯を食べるものなのだが、()()()により追加料金を払ってルームサービス形式にしてもらっている。


「ありがとうございます」


 食事を運んできてくれた女の子にお礼を言う。

 汚れたボロボロの服に痩せた体、まだ若いだろうに髪の毛も肌も乾燥しているように見える。

 そんな身なりの彼女の首には鉄の首輪がつけられている。


 怯えた目をしながら、対応している私以外には誰の姿も見えないことを確認するとほっとした様子を見せる。


「ここでお渡しして大丈夫でしょうか?」


 部屋の中には入りたくないのだろう。


「大丈夫です。もらっちゃいますね」


 トレーに乗せられた2人分のご飯を受け取り、再度お礼を言って女の子を見送る。

 扉を閉めて振り返ると抜き身の短剣を胸に抱えたご主人様が部屋のドアからは死角になっている壁際に立っていた。

 下唇を噛み締めているご主人様は鼻息を荒くして目を血走らせている。


「晩御飯持ってきてくれましたよ」


 よくあることなのでそんな異様なご主人様のことは気にせず食事の準備を進める。


「サヤ! 今日も俺から逃げないでくれてありがとう! サヤがドアを開ける度に君がするりとドアを抜けていなくなってしまうのではないかと心配なんだ。お願いだから俺が部屋にいない時はドアを開けないでくれ!」


 持っていた短剣をカラァンと言わせながら床に投げ捨てたご主人様は床に跪いて私の下半身に抱き着く。


 今回の失敗要因はご主人様がトイレに行ってる間にドアを開けてしまったことらしい。


「申し訳ありませんでした」

「良いんだ。サヤが俺から逃げないでいてくれるなら何でも良いんだ」


 そう言って目尻に涙を浮かばせながら私に抱き着いたままでいるご主人様は顔だけ上げて満面の笑みを私に向けてくれた。

 

 薄い金髪に明るいブルーの瞳、白い肌。

 全てのパーツが芸術品のように美しいご主人様は体までもが逞しく美しい。


 そんなご主人様が抱き着く私は特別美人でもなければ特別不細工でもない、平平凡凡の日本人である。

 永戸沙耶(ながとさや)

 それが私の名前だ。




 私がこのおかしな世界に最初に来たのはそう昔のことでもない。

 2ヵ月も経っていないのではないだろうか?

 実は途中であまりにも嫌なことがあったらしく、記憶が飛んでいるので正確には分からないのだ。


 気づいた時には変な匂いのする人たちと変な匂いがする牢屋みたいなところで共同生活をしていた。


 正直、最初の1週間は地獄だった。

 それもそうだろう。

 令和の日本で普通に新卒社会人として暮らしていたのが、気づいたら牢屋生活だ。

 食事もまともじゃないし、トイレはその辺でしろと言われるし、文句を言えば鞭で叩かれるのだ。

 本当に訳が分からなかった。


 とにかく鞭で叩かれるのがあまりにも痛くて、仕置きをされないように静かに牢屋の中で生活していた。

 

 今でも私が壊れずにいられるのはそんな生活から早々に抜け出せたからだ。

 そしてそれは私を買ってくれたご主人様のおかげである。



 

 ご主人様と初対面となる日、次々と牢屋にいた人たちが連れ出されては戻ってきて、というのを繰り返していた。

 この作業がある時にはいつも、その流れが止まる前、最後に牢屋から出ていった人は帰ってこない。

 

 いつもはだいたい10人もその作業を繰り返せば終わるのだが、その日は中々終わらなかった。

 しかも帰ってきた人たちの顔は皆、青ざめていたのだ。

 中には牢屋に戻って吐いている人もいた。


 異様な光景を見ていると、普段は新入りだからか呼ばれない私も呼ばれた。


 気づいた時には牢屋みたいなところにいたので牢屋の外にどんな世界が広がっているのか私は知らなかったのだ。

 牢屋から出ると階段を上った。

 階段から出た先には火の灯った明るい廊下があった。

 廊下から見える窓の外は暗く、空に星が輝いていた。

 

 地下にいたことすら知らなかった。

 地下の変な匂いがしない、新鮮な空気に思わず涙がこみ上げてきた。


 もうあそこには戻りたくない。


 どんな人が()()を買いに来てるのかはわからないが、よっぽどじゃない限りは私を買ってもらおう。

 私はその時そう決意した。


 いつも私たちに鞭を振るっている男の後について行くと木でできた扉の前に着いた。

 男はドアをノックすると私にドアを開けさせ、背中を押して部屋に入らせると自分は部屋に入らずにドアを閉めた。


 足を縺れさせながらなんとか踏みとどまり、部屋の中を見ると、でっぷりと太ったアニメで見たオークのような醜い男が偉そうにソファに座っていた。

 肌の色とかろうじて顔のパーツから人間であることを認識した。


 あ、これは無理だ。


 数秒前にした決意を潔く捨てることに戸惑いはなかった。


 

「お客様、これが最後の奴隷です。まだここに入ったばかりなので躾もされていないような商品でして、本来は出荷できる状態じゃないんですが、全ての商品を、ということなので特別にお見せすんですよ」


 そう言ったのはオークだった。

 どうやら客はオークの向かいに座っている人だったらしい。


 部屋の入り口近くにいる私からはその人の容貌は全く見えなかった。

 頭まですっぽりとフードを被っており、背を向けていた。

 辛うじて肩幅の広さから男性だろう、と予想できる程度の情報量しかなかった。


 勝手に動くと後で仕置きをされるだろうと思い、指示があるまで動かずに立っていた私にオークは少し驚いた様子を見せた。


 何に驚いているのか分からず、私は首を傾げた。


「おい、近づけるならこっちに来い」


 オークに言われたのでソファに座る二人に近づいた。

 私が近づくにつれ何故かやっぱりオークは驚きの表情を深くしていった。


 二人が挟んでいるローテブルの横まで来るとそこで土下座した。

 これは牢屋にいる時に教え込まれた動きだ。


「顔を上げろ」


 オークじゃない方から声が聞こえたのでそちらに向かって顔を上げた。


 

 …………なんということだろう。

 絶世の美男子がいる。

 何にも例えることのできない、圧倒的な()がそこに座っていた。


 目を合わせた私は魂が抜かれたようにぼーっとしていたと思う。

 なんなら口も半開きだったかもしれない。

 

 初めて会ったご主人様はそれほどまでに衝撃だったのだ。

 

 目を合わせたまま魂が抜かれていた私に何を思ったのか、ご主人様はそのまま私の購入手続きを済ませ、宿屋に連れて行ってくれた。



 宿に連れ帰られた後、意識を取り戻した私はご主人様に、私がこの世界と異なる場所から来たこと、なのでこの世界の常識が欠片もないことを説明した。


 この世界の常識で何か命令をされた時にそれに応えられない可能性があることを考慮して先に説明したのだ。


 それを聞いたご主人様は「だからか」納得した上でこの世界のことを説明してくれた。

 


 なんとなくそうかな、と思ってはいたのだがやはり私がいた牢屋みたいな所は人間を奴隷として売るための店だったらしい。


 その商品の一つとして私はご主人様に買われた()だったのだ。

 だから、ご主人様が「いらない」と言うまでずっと、私はご主人様から離れてはいけないのだ。

 離れたらまた奴隷商に捕まってあの場所に戻されてしまうよ、と説明された。

 

 そんなのは絶対に嫌なので私はご主人様が私のことを捨てるその日までしぶとくしがみつかせてもらおうと思う。



 奴隷制度が普通に成り立っていることもだいぶ驚きだったのだが、更に驚いたことがあった。


 どうやらこの世界では、私の目には絶世の美男子であるご主人様が世にも憚られるレベルの、見るもおぞましい、なんなら同じ部屋にいるのを認識するだけで吐き気を催すレベルで不愉快な存在らしいのだ。


 全くもって理解できない。


 芸術品のように美しい顔に彫刻のように美しい身体。

 存在自体が神秘的すぎて私はいまだに毎日拝みまくっているというのに。


 しかし、私のような存在はご主人様にとって産まれて初めてだったのだ。

  

 

 そしてご主人様はこの世界で自分がどのような存在であるかを説明してくれた。


 実の母親ですら吐瀉物を撒き散らしながら育てていたこと。

 それでも今生きていられるのは彼女のおかげなので感謝していること。

 自分で立って歩けるようになってからは小屋に1人で閉じ込められていたこと。

 火事で家とともに小屋が焼けた日、田舎を飛び出したこと。

 顔を隠しながら冒険者としてなんとか生計を立てていたこと。

 顔が見えなくても存在そのものが嫌悪されてしまうため、依頼人との橋渡し役として自分の存在に耐えれる人材を探してたどり着いたのがあの奴隷商だったこと。


「俺と一緒にいても大丈夫なんだろう? 君の存在は俺にとって奇跡なんだ」


 そう言って泣き始めたご主人様の顔をやっぱり現実味のない美しい造形物のようだと思いながら私は静かに見つめていた。


 その後泣き止んだご主人様は「俺が寝るまで手を握っていてはくれないだろうか?」という可愛らしい命令をして眠りについてしまった。

 寝るまで、との命令ではあったが私の手を抱き締めたまま離す様子が無かったのでベッドサイドでご主人様の美しい顔を眺めながら一晩を過ごしたのは今では良い思い出だ。




「サヤ、美味しいか?」

「はい、とても美味しいです。いつもありがとうございます」


 私の足に抱きついていたご主人様はあの後落ち着きを取り戻し、今は二人で一緒に晩御飯を食べている。


 ご主人様にとっては誰かと一緒に食べる食事が、私にとってはあの牢屋で出されていた、人の食べる物とは思えない食事でないことが、幸せなのだ。


「サヤ、次の依頼が終わったら町を移動しようと思う。暫く野宿生活になるが大丈夫だろうか?」

「はい、ご主人様が連れて行ってくれるのならどこでも大丈夫です」

「俺がサヤを置いていくわけがないだろう」

「そう言ってもらえて嬉しいです」


 本心からの言葉だ。

 どうやってこの世界に来たのか、いつ来たのか、何も覚えていない私にとってご主人様だけが心の拠り所なのだ。


「サヤ、ずっと俺と一緒に旅をしような。いろんな所で美味しい物を一緒に食べるんだ」

「はい、楽しみです」




 ご主人様は自分の存在を唯一受け入れてくれる存在だと私のことを言うが、きっと探せばこの世界にも私と同じ美的感覚の人はいると思う。

 お願いだからそんな人はご主人様と私の前には現れないでくれ、と願いながら私は自分の首につけられた鉄の首輪を撫でた。


記憶を失った時に主人公、かなり嫌な目に合ってます。

自分ではまともだと思ってるけど、その時に実はどこかが壊れてしまい、感情の起伏が異常に少ない設定。


じゃないと令和で生きていた人間が異世界で、奴隷として順応なんてできないですよね。


そしてオーク男、奴隷商の旦那は実はかなりのやり手イケメン(異世界基準で)。

ヒーローと同じ部屋で接客していても問題ない風にちゃんと装える精神力と忍耐力はとてつもない。はず。



お読みいただきありがとうございました。


面白かったよーや性癖に刺さりましたー、他の話も読んでみたいーなど思っていただけましたらブックマークや評価で教えてくださいますと喜びます。

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