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「妻になるリアーナ姫の生国、オレファ聖国に最大限の支援をする事を約束しよう」

「ありがとうございます」

「しかし我が国に来ていただくにしても色々口さがない者も多数出ると思うが……。リアーナ姫ならば大丈夫だとは思うが煩わしくなるかもしれない」


 そりゃあ支援目的、金目当てで嫁いで来たとまあ、口撃されるだろう事は確実だろう。

 ふむ……とリアーナ様は視線を斜め上に上げ、そして手を頬に当て俯いた。


「実は私は護衛騎士からヘンドリック様の様子をお聞きして以前から密かにずっとお慕いしていたのです」


 楚々として恥ずかしそうにリアーナ様が言い出した。


「ふむ……。私も実は我が国に留学してきたオレファの王太子と追従して留学してきた騎士と交流した際に話題に出たオレファの聡明で美しい王女に恋焦がれていたのだ。父上の元に嫁ぐ事になった姫に私はどうしようもない焦燥に見舞われていたのだ」


 白々しい二人の言い分にセイファードはぐふっと笑いを堪えきれずに変な声を漏らしている。


「…………まるで吟遊詩人が語る物語の様な運命ですね」

「よい設定でしょう?」

「素晴らしい!」


 私が呆れた様に言えば嬉々としてリアーナ様が顔を輝かせ、ヘンドリックがうんうんと頷いている。

 ……平気で流れるように嘘つく王族って怖い。


「しかしそれだとヘンドリック様に不名誉な事態にもなりかねないと思われますが……?」


 ヘンドリックがリアーナ姫欲しさに先王を……となるだろう。


「問題ない。普通に考えてもリアーナ姫を父上が娶ろうとした事はあり得ないし、むしろ私の意に反するような事をすると……と恐怖すればいい。リアーナ姫は私が守る」

「心強いお言葉です」


 にこりとリアーナ姫とヘンドリックが微笑み合う。

 似た者同士だ。怖すぎる。


「どうしよう……リアーナ様とヘンドリックはお似合いだと私は思ってはいたのだが、最強で最悪の夫婦になるかもしれない…………」


 セイファードがついに笑い声をたてた。


「だめだ、もう我慢できん!」

 

 あはははと簡易テーブルをバンバン叩いている。


「セイファード、笑っているがこの二人を御するのがお前の仕事になるんじゃないのか?」

「…………はっ…………」


 セイファードが私の言葉に笑いを止めるとざっと顔色を変えた。

 セイファードは剣の腕がいい為に今は護衛としているが実際の所は側近でありヘンドリックの懐刀だ。


「え……ヘンドリック様だけでも大変なのに……」

「リアーナ様は基本は大人しく出来ますけどね。ヘンドリックと同じく腰が軽いですよ……黙って姿を消して市井に遊びに行ったり」

「やめて! それヘンドリック様と一緒じゃないか!」

「……多分二人でこっそり抜け出したりする様になるかもね……」

「王と王妃が揃って城を抜け出すって!?」

「あら、いいですわね! 是非!」

「いいとも」


 リアーナ姫とヘンドリックがいい笑顔だ。


「アーヴィン! リアーナ姫に付いてきてくれ!」

「無理」

「アーヴィンも我が国に来るべきだと思う」

「私も付いて来て欲しいとは思いますが残念ながらアーヴィンはお兄様付きになる事が決定しているのですよね」


 無理。行きたくない。リアーナ様に付いていったら絶対二人に振り回される未来が見える。

 私は聡明で真面目な我が国の王太子付き護衛がいいです。便利屋扱いするリアーナ様もヘンドリックも結構です。


 それにしても……ほっとした。どうやらリアーナ様は強運の持ち主らしい。まさか土壇場でヘンドリックが王になるとは思ってもみなかった。


「ところで先程セイファード様が王妃、と口にしてましたが?」


「勿論、リアーナ姫は私の正妃でイーデンス王妃になる。オレファ聖国の王女なのですから当然でしょう。大国といっても我が国など新興国。創生の時代から続くオレファの姫を正妃に迎える事が出来るなんて思ってもみなかった。私の即位と同時に婚姻もしたいと思っているのだが……今は混乱しているしリアーナ姫はどうしたらいいか……一度国に戻っても構わないが? 私は父の後宮も一掃させ、綺麗にしてからリアーナ姫を迎えた方がいいと思っているのだが……」


「私のお手伝いはいりますか?」

「後宮に関しては出来れば手伝っていただけると助かります」

「……ちっ!」


 にこやかなリアーナ様とヘンドリックの会話の最後にリアーナ様が微笑みを浮かべたまま行儀悪く小さく舌打ちした。


「リアーナ様!」

「だってー側妃だったら大人しくして猫被って侍女ごっこしたりとか、知らんぷりして抜け出して遊びに行ったりとかしようと思ってたのにー。王妃なんて疲れるだけじゃないの」

「がんばって下さい。リアーナ様なら表向きは完璧に王妃ができますとも!」

「アーヴィン、無責任」


 だってリアーナ様が我が国を出たら私はもう関係ありませんからね!

 しかしヘンドリックの言い方だと本当に急な出来事だったらしいな。リアーナ様にとっては本当によかったが。


「仲がいいな……アーヴィン、リアーナ様と本当に恋仲ではないのか?」

「ないですね」

「ないですわ。アーヴィンは小舅です」


 ぶはっとヘンドリックとセイファードがまた吹き出す。


「ではリアーナ姫、取り決め通りにこのまま我が国、我が城へお連れします。連れていきたい侍女や侍従は? 姫一人で輿入れなど本当はない事だ」

「……よろしくお願いしますわ。侍女や侍従は大丈夫です。ヘンドリック様はイーデンスの信用できる者を見繕ってくれますでしょう?」


 ヘンドリックが立ち上がりリアーナ様に手を差し出すとリアーナ様もヘンドリックの手を取って立ち上がった。


「アーヴィン、リアーナ姫は私が大切にする。後で正式な書状は出すがオレファ国王と王太子殿下には安心してくれと伝えてくれ」

「……御意」

「アーヴィン、お父様、お母様、お兄様をよろしくね」


「勿論です。リアーナ様もお元気で。……いいですか? 一人で勝手に行動してはいけません。侍女に迷惑をかけないように。ヘンドリックには……まぁ似た者同士なので多少迷惑かけても構いませんが我儘を言いすぎてはいけません。あなたの我儘は普通じゃないんですから。城を走り回ったりもしないように。それから……」


 くっくっとヘンドリックとセイファードが笑い、リアーナ様はぷくりと頬を膨らませた。


「もう! だからアーヴィンは小舅だというんです!」

「言われるような事をして来たリアーナ様が悪いんでしょう。ヘンドリック、セイファード、リアーナ様をよろしく頼む」

「勿論だ。大切にする」

「お任せ下さい」


 深く頭を下げるとセイファードがポンと肩を叩いてきた。


 まさかこんなに早くリアーナ様と離れる事になるとは思ってもいなかったが、ヘンドリックの妃であるなら文句などない。

 行きの道中の重苦しかった気持ちがすっきりとし、安堵した。

 帰ったら陛下にも殿下にもいい報告が出来そうでよかった。


「リアーナ様……お幸せに……。全員敬礼!」

 

 リアーナ様の乗られた馬車を見えなくなるまで皆で見送った。長い一本の道を長い行列がゆっくりと進んでいった。

 いや、離れていったと言った方がいいのだろうか? 

 どうかリアーナ様の歩く道が明るく照らされていますように。

 

 


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