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「リアーナ姫、アーヴィン、私の天幕へ」


 ヘンドリックがリアーナ様に手を差し出しエスコートを申し出るとリアーナ様はそっと白い華奢な手をヘンドリックの差し出した手に添えた。


「人払いを。リアーナ姫、アーヴィン、セイファード以外は外で待機だ」

「は!」


 きびきびと兵達はヘンドリックの命令に従って天幕から出て行くがいくら命令でもそれでいいのか? 友人だったとはいえ護衛のほとんどを人払いって。

 たった一人残された護衛のセイファードが私の肩をポンと叩いてきて気軽に声をかけてきた。


「アーヴィン、久しぶりだな」

「セイファードも相変わらずヘンドリックに振り回されてそうだな?」


 セイファードも同い年で留学中にヘンドリックと連んでいたので勿論私も顔見知りだ。


「リアーナ姫、どうぞ」


 天幕の中に簡易テーブルや椅子が置かれ、リアーナ様はヘンドリックのエスコートで椅子に腰かけた。

 私は護衛なのでリアーナ様の後ろに立つ。


「アーヴィンも座れ。あ、その前にお茶入れて」

「そうね。アーヴィンの入れるお茶はおいしいもの」


 …………何故リアーナ様の護衛なのにヘンドリックに命令され、その命令にリアーナ様が同調するのか。他国の者に茶を頼む王太子とそれに頷くリアーナ様……。

 おかしいだろ。


「アーヴィン、私の分も入れてくれると嬉しい」


 隣国の王太子付きの護衛セイファードまで便乗してきた。

 はぁ、と溜め息を吐きながら茶の用意がされている小さなテーブルで仕方なく茶を入れる。


「久しぶりにアーヴィンの茶がいただけるな!」

「そうですね。あ、リアーナ様、私はヘンドリック様の護衛でセイファードと申します。アーヴィンが我が国に留学していた時はヘンドリック様と共に仲良くさせていただいてました」

「リアーナです。…………留学の時、という事はセイファード様もアーヴィンがバラしていたという私の事を知っているという事ですね?」


 あ、やば……。

 リアーナ様の冷えた声が聞こえてきて内心焦る。


「ええ! 木登りが大好きだったとか!」

「木から落ちたのは数えきれないとかな」

「泥だらけで遊んでドレスを汚して怒られるのが毎日でじゃあドレスは着ない! と放り出したとか」

「民と一緒に収穫早取り競争をしていたとか」


「アーヴィン!!!」


 うわー……

 

「お茶が入りました」


 どうぞ、とそれぞれの前にお茶を置く。さすが大国。いい茶葉を用意していると私は遠い目をして誤魔化す。

 ヘンドリックとセイファードはニコニコと笑みを浮かべ、リアーナ様は顔を真っ赤にしていた。

………………大変申し訳ない。まさかリアーナ様とヘンドリックが本当に会ってしまうなんて思ってもみなかったもので。

 いや、リアーナ様にはヘンドリックがお似合だなーという思惑もなかったではないのだが。


「リアーナ姫、アーヴィン。イーデンス国王だった父上は病に倒られて意識不明の状態だ。医師の診断ではたとえ意識が戻っても動く事も出来ないであろうと言われている」


 なるほど……。即位はまだでも実質ヘンドリックは新陛下になったって訳だ。

 ずっと腐敗していた国政をヘンドリックは憂いていた。王太子なのに父であるはずの王から軽んじられ、優秀であるが故に疎んじられ、ヘンドリックは大きな猫を飼い、優秀さを隠しながら機を計っていたはず。王は一人、絶対的支配者の地位を独占していた。

 ……本当に病に倒れたのか? ヘンドリックの軍の掌握具合から見て仕組んだと見てもおかしくはないが、リアーナ様の身上を考えれば勿論黙っておく方がいいに決まっている。


「そこでリアーナ姫に伺いたい。イーデンス国王に嫁ぐ事になっていたはずだが、正式な即位はまだだが実質私が王になった。親書に記載されていたのは国王に嫁ぐとだけしか記されていなかったはず。つまり今は私が相手という事になる」


 私は驚いたが堪えて表情には出さない様に気をつけた。


「だが私は無理を強いたいとは思ってはいない。あんな下劣極まりない書類の不備で婚姻を無効にするのも今なら可能だ。我が国は今は混乱しているからな。アーヴィンが大切にしてきた姫を無碍にはしない。……戦があれば異名が取れるだろう位の剣士であるアーヴィンがキレたらうちが大変な事になってしまう」


 ヘンドリックとセイファードが私を見て苦笑を浮かべ、リアーナ様もまた笑みを浮かべた。


「もし婚姻が無効になった場合、オレファへの援助はどうなりますか?」

「勿論取り消す事はない。私との婚姻が成っても成らなくとも契約を交わした以上の援助をしたいと思っている」


 リアーナ様はじっとヘンドリックを見、そして私の方にちらりと視線を向けたと思ったら綺麗な笑顔を見せた。


「アーヴィンが仲良くしていたヘンドリック様を私がよく思わない訳はありません。……私も色々とアーヴィンから聞いてましてよ?」

「え?」


 ヘンドリックが目を見開き私の方に視線を向けて来た。何を話したんだ!? と目が語っている。

……いや、大した事は言ってないはずだが。


「ヘンドリック様は私と同じく大きな猫を飼っていらっしゃって可愛がっているとか」


 ぶはっとヘンドリックとセイファードが吹き出した。


「やっぱりいい!」


 ヘンドリックが笑いながら肩を揺らしている。


「普通の御令嬢なら媚びへつらい取り繕ってくる所だろうに! ご自分から明かしてくるなんて!」

「だってアーヴィンがへらへらと私の事をバラしているのでは今更ではないですか」


 はぁ、とリアーナ様が溜め息を吐かれる。

……申し訳ない。反省はしていないが。

 リアーナ様の魅力は聡明さと美しさだけではない。その飾らない所こそが魅力であると私は思っているから。


「貴族、ましてや王族であれば巨大猫を大事にしている方の方が安心できます」

「まったくその通りだと思う。だが、出来れば私は妻とは飼っている猫の大きさを競い合いたいとは思っていない」

「同感です。我が国の為、イーデンスに嫁ぐのはいいけれど巨大猫をあと何匹飼わなきゃいけない事になるかと憂いてましたがどうやら増やさなくとも大丈夫な様で安心致しました」


 くつくつとヘンドリックが笑っており、セイファードは顔を背けて体を震わせていた。

 ……なんか居た堪れないのだが。この場から逃げてもいいだろうか? いや、ダメな事は分かっているが。





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