星墜ちした俺は猫耳達とノンキに放棄された大地を進む
「……それ、本当?」
俺はフサフサした和毛が生えた彼の耳の動きに目を奪われながら、アホのように聞き返した。
「はい、本当です」
彼はフサフサした和毛が生えた耳をピッと立てながら、やはり律儀に言い返してくれた。
いや、まあ、誰だってそう聞き返したくなるってもんじゃないか? あれだけ待ち望んだ軌道エレベータがやっと降りてきて、これで帰れると安心したのも束の間、降りてきたエレベータから現れた犬みたいな風貌(キチンとライカ犬ソックリだ)の彼は、いかにも有能そうな空気を漂わせながら、丁寧な言葉で軌道エレベータはあと一度しか上昇せず、その後は一切稼働されず廃棄される、と教える為にわざわざ降りてきてくれたのだ。職務に忠実な律儀な奴である。見た目は二足歩行する犬だが。
俺は様々な偶然と幸運、そしてちょっとした気紛れで打ち捨てられた地球にやって来た。母船の事故で船外活動中に放り出され、流れ星のように母なる地球に墜ちたのだが、何だかんだで猫耳達と暮らすようになった。但し、散々待たされた末、漸くやって来た迎えの【スター・コンパニオン】のアダマスがもたらした報告は、残念としか言い様が無かった。
「ねえ、ご主人様……軌道エレベータって、何人くらい乗れるんですか?」
傍らのミケが落ち着かなさげに耳をピクつかせながら、縋るような目付きで尋ねてくる。彼女は俺の身の回りの世話をしてくれている【アース・コンパニオン】の一人。いわゆる「猫耳」である。
「……残念ながら、搭乗可能人数は三十人です」
犬耳でフサフサの毛並みも見事なアダマスが、申し訳なさそうに教えてくれる。そう、軌道エレベータは巨大な鉄塔のような構造物だが、ステーションから降ろされて来れば細いドーナツ状の昇降機が此処まで降ろされて来て、搭乗者や荷物を積載したらゆるゆると天高く昇っていき、最高部の【宇宙ステーション】へと到達するのだが……問題なのは、それ以外ではエレベータは降りて来ないのだ。つまり、呼んでも来る保証は全く無いって事だ。
軌道エレベータは、ランニングコストが安く済み、そこそこ嵩張る物も運べる便利な機械である。だが、問題は【宇宙ステーション】自体が、どの星間連合から見ても無用の長物として廃棄される存在でしかないそうだ。
「大変申し難いのですが……私を含め、ハジメ様が選んだ方を優先して乗せたとしても、大多数の【アース・コンパニオン】の皆さんは……ここに残っていただくしかありません」
言葉通りに悲しげに耳を垂らし、アダマスが【アース・コンパニオン】への冷遇を告げる。まあ、俺の回収に彼等を伴う必要性は確かに無いが、だからと言って無責任に放置ってのは、余りにも非道過ぎるんじゃないか?
「判ったよ、つまり……軌道エレベータで戻れるのは一回こっきりで、一緒に上がれるのは一握りだけ……それ以外はここに残れって訳だろ」
ぶっきらぼうに俺が言うと、アダマスは無言で頷き、返答を待った。
「……じゃあ、俺は軌道エレベータには乗らんよ。宇宙になんて戻らなくたって全然構わん……これで満足か?」
そう告げた瞬間、アダマスの耳がピンと立ち、横に居たミケが泣きそうな顔で笑いながら、俺に抱き付いた。
「……本気ですか? 軌道エレベータの使用許可を蹴るって事は……つまり、二度と宇宙には……」
「きゃ~っ!! ご主人様ぁ~♪ 大好きぃ~!!」
全く正反対な反応の二人だったが、俺の考えはアダマスの言葉を聞いた時点で決まっていた。俺の都合だけで他の【猫耳】達を棄てて戻る気なんて更々無いし、そんな残酷な選択をさせる宇宙ステーションの連中が気に食わないし、一緒に居たくない。だから、軌道エレベータなんかにゃ乗らないのさ。
「……判りました。それでは、軌道エレベータは稼働終了と言う事ですね。ステーションにはそう伝えておきます」
アダマスはそう言うと、襟元に付けた端末のスイッチを押し、小さな声で短く呟いた。その瞬間、窓の外に見えていた軌道エレベータがゆっくりと動き始め、微かな振動と共に上昇すると視界から消えていった。
「……でも、ご主人様……ホントに良かったんですか?」
ミケが俺から身体を離しながら、上目遣いで聞いてくる。
「ああ、良いさ。宇宙なんかに戻ってもつまらんし……君やタマ、それに他の連中と離れる方がやるせないからな」
俺がそう答えるとミケはニパッと笑いながら再び抱き付いて来て、
「じゃあ、これからも……一緒に居てくださるんですね♪ やああぁ~! 嬉しいぃ~!!」
ニッコリ笑いながら、ぐりぐりと頭を俺の肩に押し付けた。
「で、マスターはこれからどうするんですか?」
アダマスが俺に抱き付くミケの様子を眺めながら、真面目な顔で尋ねてくる。それに答える為に俺は暫く考えてから、ハッキリと告げた。
「……今日は、俺が此処に残ると決めた歴史的記念日だ。だから、祝ってもらおうと思う。それもとびっきり盛大に、だ」
そう言うとミケが両耳をピンと立て、眼をキラキラと輝かせながら嬉しそうにしている……のだが、その横にじっと直立不動の姿勢を崩さないアダマスが見える。いやいや待て、そう言えばアダマスは何故、今も当然とばかりにここへ居るんだ?
「あー、ちょっと聞いてもいいかい?」
「何なりとどうぞ。私が答えられる範囲ならば」
そう言われて一瞬だけ躊躇したものの、俺は思いきって尋ねてみる。
「……アダマス、職務に忠実なのは判るんだが、なんで君は軌道エレベータに乗ってステーションに戻らなかったんだ?」
「ああ、それですか。いえ、単純な話で御座います」
アダマスはそう言いながら不動の姿勢を崩し、腕を組み足先で地面を軽く踏みならしてから、
「……私も色々な局面に遭遇して参りましたが、遭難者の貴方そして我々【スターシップ・コンパニオン】と地上要員の彼等への処遇を鑑みて……明日は我が身かと思われた次第です」
そう言うと、最後にニヤリと微笑みながら(牙を見せながらなので正直言って怖い)一言付け加えた。
「……それに、私の退職祝いも兼ねて頂けるなら、当に僥倖かと」
俺のたった一言で、今日は急遽全ての業務が放棄され、猫共は毎度お馴染みの宴会モードに突入する。その規律正しさと整然とした機敏な動作からは、いつもの平凡で怠惰な日常からは想像もつかない程だ。それだけコイツらの酒好きは、最早本能に刷り込まれてるのではないか、と思う程徹底している。それを逆手に取って環境保全に従事させていたら、荒廃した地球も少しは発展したんじゃなかろうか?
突如報された【ご主人様宇宙を諦めて地球に永住!!&アダマスさんはじめまして】祭りを祝う為、いつもは居眠りと休憩を交互に繰り返している情報管理局員達が、眼の色を変えて備蓄食糧から算出した宴会用の材料を抽出し、各方面に添付資料【#ご主人様・特AAA】として電信する。それを受け取った各担当部署内から、調理班及び会場準備班が急ぎで編成され、昼前には何もなかった会場にテーブルと長椅子、そして幾つもの宴会料理と配膳器具が所狭しと並べられていく。だから、こーゆー所を他に活かせって。
「……汽車ですか? 確かに有りますが……何故、今更そのような物が必要なので」
毎度お馴染みの挨拶と乾杯の音頭を終えた俺がそう尋ねると、アダマスが不思議そうに聞いてくる。
正確に言えば汽車ではない。今居る軌道エレベータ発射場の周辺には、幾つかの中継地が存在し、それらと発射場とを繋ぐ物資輸送鉄道網が整備されていた。しかし、地球から人類が撤退して長い時間が過ぎ、どれだけの鉄道網が機能しているのか不明なのだそうだ。
「……一番近い場所に有る中継地まで、ラムエアジェットで半日程度、そこから無事鉄道が動いて即時発車しても……到着は最短で三日後です。しかし、一体何の為に……」
自分なら鉄道さえ動けば操車は出来ますが、とそう言うアダマスの言葉を信じて、俺は猫達にまだ話していない肝心な事を小声で伝えた。
「……軌道エレベータってのは、危ういバランスで吊られているよな。もし、貴重な資材を再利用しようと宇宙ステーションの連中が考えたら……エレベータ基部近くから切り離して回収するかもしれん」
俺がそう告げた瞬間、アダマスの鼻先がピクッと動いた。
「……有り得ます、いえ……その線はかなり濃厚かもしれません。私が出発する直前に、何故かサルベージ系企業所属船がやたら入港していましたから……」
次の日、俺は各部署担当代表を緊急招集し、彼等に口頭で差し迫る危機の可能性を告げた。
「……マスター、そいつは笑えない冗談だね」
最初に口を開いたのは、情報管理局長のムハメド。黒い毛並みで額だけ白い三角形の彼はそう言うと、担当管理局員に耳内インコム経由で通話し、
「……ああ、ステーションの回線を開いてみてくれ。……繋がらない? やはりな……」
そう言って通話を切った。いつもなら相手方のサーバーに繋がって《担当者不在・追って連絡を求める場合は改めて連絡を》と表示され放置されるのに、今日に限って全く繋がらなかったそうだ。
「設備管理用センサーをフル活用してモニタリングしましょう。切り離しを開始すれば何らかの振動が発生するし、ステーション側で何か行っているのも観測出来るわ」
エレベータ設備管理局のアンがそう告げながらコンソールの端末を操作し、銀の糸のような白い毛並みを揺らしながらフンフンと頷いてから、
「……思った通り。こちら側のアクセスコードにステーション権限を発動して接触する回数が激増してるわ。それに重力分散用の外縁リングが不規則振動してる……切り離しの準備をしてるのかもね」
まだモニタリングは続けるわ、と言ってアンは再び画面へと意識を集中させる。
「そういや最近、現住生物の緩衝エリア内への侵入が増えたんだよ。盛りがついたからって思ってたけど、違ったのかねぇ?」
一人だけ椅子に背中を預けてバランスを取っていた現住生物駆除班のバルムが、意外そうに言いながら俺とムハメドの顔を見る。
「……軌道エレベータは保守と安全確保の為、我々が管理監督していない中継ドローンを使って、電磁波や波長を流していたが、それらが放棄されたら侵入が増えるのは当然だろうね」
「……けっ!! だったら皆殺しにすりゃーいいんだろう? やってやんよっ!!」
バシッ、と掌に拳を叩き付けて立ち上がると、豹柄の毛皮に包まれた全身を波打たせながら、滑るような足取りで部屋を出ていった。ただ、彼女の唯一の女らしさを彩る、鬣に結んだピンク色のリボンの印象が妙に残ったが。
その日から五日後。アダマスから極東中継地を出発したと知らせが届いた。どれだけの積載量が有るのか判らないが、俺が求めるだけの猫人と物が積めればいいんだが。
《マスター、ラムエアジェット機は中継地に置いてきました。車両は客車が五両、貨物車が十五両、武装車両が二両です》
「ああ、そんなもんだろう……いや、ちょっと待ってくれ、武装車両って何なんだ?」
《はい、用心に越した事は無いかと思いまして……30ミリ四連速射砲と大気圏内レーザー、あと12テスラ・レールガンを搭載しております》
「うんうん、用心は大事だよ確かに……えっ? 大気圏内レーザーはともかく、12テスラ・レールガンって仮装航宙巡洋艦に搭載されてる奴だよな!?」
「……マスター、アダマスは用心深いので……お許しください」
彼の言葉を聞いた俺は、判ったよ判ったよと連呼しながら通話を切った。アダマスは唯一の犬タイプのコンパニオンで、忠義に篤く誠実そのものなんだが……たまーに、融通が効か過ぎて暴走する気配がある。今回は特にそうだ。用心だとか言いながら、地上で遭遇する現住生物相手に使うにしては、大いに過剰殺戮な兵器を搭載した武装車両を引っ張ってくるなんて、明らかにステーション側に対する敵意剥き出しなんだが……まあ、使わない可能性の方が高いけど。
結局、報告してきた期日通りの午前七時半に、アダマスと列車が軌道エレベータ中継地に到着した。
到着と同時に待機していた猫人達は銘々の職務に就き、今回の一番の目玉、バラバラにされた【酒精製装置】を貨物車へと積み込み……いや、組み込み始める。
「……マスター。まさか、この機械を運び出す為に列車が必要だったのですか?」
「あー、うん……黙っていて済まなかった。勿論、猫人達が一番優先なんだが、連中は自分達より先に載せろって喧しくてな……」
様々なモジュール状態に分割された装置を貨物車に押し込みながら、猫人達は俺とアダマスに向かって敬礼してから、客車へと消えていく。
「まあ、それは良いとして……軌道エレベータの方はどうなんですか?」
アダマスは最も気掛かりだった案件について、俺へと尋ねる。そりゃそうだろう、下手すりゃ何百トンどころじゃ済まない大量の部材が、目と鼻の先に降り注ぐ可能性があったんだからな。
だが、アダマスの懸念は脆く砕け散っていたのだ。俺と猫人達が様々な対策を行使した末に編み出したその場凌ぎの方法を知った彼は、暫く声が出せなくなる程の衝撃を受けた後、絞り出すように呟いたんだ。
「……これは、正にその場凌ぎそのものですね」
アダマスの視線の先には、銀色の細い糸で基部と接合された軌道エレベータのシャフトがドーンと聳え立っているのだが、問題はその銀色の糸の正体である。
「まさか補修用の【蜘蛛の糸】を使うとは……驚きました」
キラキラと光る糸は通称【蜘蛛の糸】と呼ばれる単分子ワイヤーの一種である。但し、その名の通り蜘蛛の糸と同じ原理で生成されるが、元素構造と構成酵素を大幅に弄り倒した結果、加熱以外で切断する事はほぼ不可能な強靭さを獲得したのだ。俺が作った訳じゃないけど。
そんな【蜘蛛の糸】で軌道エレベータの基部とシャフトを幾重にもグルグル巻きにした上から、更に重ねて固定し続けた結果、結合部から剥離される筈のシャフトは今も普通にくっついたままである。
「でもまぁ、アダマスと列車が到着したからな。安全な場所まで離れたらパージさせるけどね」
俺の言葉に一瞬だけ反対する素振りをアダマスは見せたが、直ぐにかぶりを振ると、
「……そうですね、余り長引かせるとステーションから何をされるか判りませんし」
そう言って列車へ戻り、群がってきた猫人達に操作の仕方を教え始めた。仕事熱心なのはいいが、無理はしてほしくない……猫人達の集中力は君程じゃないんだから。
「……長老が抵抗してる?」
「そうなの!! おじーちゃんったら行きたくないって言い始めちゃって……」
だいたいの積み荷(移転先の食糧プラントはまだ活きているそうだ)を積載し、残りの貨物車に何を積むか担当者と相談していた時、大慌てで駆けてきたタマが教えてくれた。
「どうしたんだろう……長老は何て言ってるんだ?」
「うん、それがね……自分は軌道エレベータが出来た時から居るし、余所の土地に行っても生きていける自信が無いって……」
……ん? 確か猫人達の寿命は五十年程度だった筈だし、長老ってまだ……まあ、いいや。説得してみるか。
「のぉ~、ワシやぁ絶対に動かんのじゃ~!」
俺が駆け付けると、長老ネコが軌道エレベータの下で大の字になり、全てを諦めた雰囲気で空を仰ぎながら呻くように叫んでいた。
「ま、マスター……今朝からずーっとこの調子なの……もー、どうしたらいいか判らんなくて……」
小柄な白黒ブチ柄のタマがオロオロしながら立ち尽くし、俺に縋るような目付きで訴えてくる。だが、俺の方は……何となく察してたので、長老の脇に腰掛けて耳元で囁いてやる。
すると、今まで世界の終わりと言わん調子だった長老がスクッと立ち上がり、そのままスタスタと歩き、俺とタマを残したまま列車に向かって行ってしまった。
「……ご主人様、どんなマホーを使ったの?」
長老の豹変振りに、ボケーッと後ろ姿を眺めていたタマが思い出したように尋ねてくる。無論、その答えはちゃんと有るんだがね。
「あー、長老に【酒精製装置】を移転させるから、一緒に行かないと飲めないぞって教えてやっただけだよ」
「……はあ、聞かなきゃよかったよ……」
まだ酒に強くないタマはそう言うと、軌道エレベータのシャフトが共振して鳴る独特な音に耳を傾けてから、
「でも、この音も聞き納めかぁ。タマ、生まれた時から聞いてきたから、何だか寂しーなー……」
そう言って俺のお腹にしがみ付き、珍しく甘えたがる様子を見せたので、しゃがんで抱き上げてから、頭を撫でてやった。ゴロゴロと喉を鳴らしながら眼を細める彼女の髪からは、日向ぼっこの時のような平和な匂いと、干したばかりの布団のような、穏やかな匂いの両方がした。
「さーて、そろそろ時間かなぁ……」
俺が腕時計代わりの携帯端末を眺めると、遥か彼方に霞んで見える軌道エレベータのシャフトが、基部の真下からゆっくりと天に向かって上昇していく。地球の自転で生み出される遠心力が働き、急速に引っ張られてみるみる加速し、小さな破片をキラキラと撒き散らしながら消えていった。
ずーっと固定したままだと、いつかステーション側が強硬手段に訴えそうだったので、自分達が安全に離れられた頃合いを見計らい、時限起爆装置で切り離してやったのだ。もしかしたらステーションに被害が出たかもしれないが、知ったこっちゃないや。
「ねぇ、ご主人様。新しい所は住み良いんでしょーか?」
ミケが俺の隣に陣取りながら、上空へと消えていった軌道エレベータを眼で追いつつ、何気無い様子で尋ねてくる。
「そうだなぁ……食糧プラントが本格的に稼働するまでは、暫くは持参した食料で食い繋いでいくしかないが……でも、居住区は結構キレイらしい。とにかく、新天地って訳だから期待していいんじゃないか?」
「ふーん、だったら広いキッチンが有るといいなぁ~。ねー、ご主人様?」
当然のようにタマが俺の膝の上に座り、料理上手な彼女らしい要求をしてくる。まあ、何とかなるだろうな。
ガタンゴトン、とレールの繋ぎ目を乗り越える度に、ミケとタマの耳や髪が揺れる。その動きを眺めている内に、車両の後部からアルコールの匂いが漂ってくる。気の早い連中が、限定的に動かしている【酒精製装置】からビールをせしめて飲んでいるようだ。
バラして積載したせいで、作れる酒量も種類も限定してはいるが、丁度良いだろうな。揺れる車内で度数の高い酒は……悪酔いするんじゃなかろうか。
こうして、俺達は【酒精製装置】と共に大移動する事になったが、気になる事はてんこ盛りだ。ステーションの連中は何を考えているのか全く判らんし、新しい中継地が軌道エレベータ基地より住み良い環境なのか、気にはなる。アダマスの言葉を疑うつもりはないが、彼の性格を考えると……
「ご主人様ぁ!! ビール、飲みましょ~!!」
「おほおおぉーーっ!?」
ビタッ、と俺の顔に冷たいジョッキが押し当てられて、奇妙な叫びを上げちまったじゃねーか!!
「ミケっ!? いきなり冷たいってば!!」
「えー? 冷たい方が美味しいですよー」
「そーじゃないが……まあ、いっか」
結局、何だかんだ言いながら俺はジョッキを受け取ると、ミケの持つグラスに小さく押し付けて、カチンと鳴らしてから口を付けた。