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まず、目が覚めた時には、生きていたことに感謝した。
時空の裂け目から生きて帰った者は少ない。
生きて帰ったものには類稀なる力を授かっている。
――授からない場合もあるのかな…?
ガイは周囲を見渡した。
ここがさっきまでいた野営地近くではないことがすぐに分かった。
木々の植生が違う、風に乗る匂いが違う。
「とにかく人のいる場所に行こう…」
旅立ちの時に準備した荷物がそのまま自分と一緒に転送されたことを確認して歩き出した。
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人の居そうな方へ歩いて1時間ほど、森の中にひっそりと佇む家を見つけた。
周囲は夕暮れ、日の沈む間際。幸いにも家には灯があり、人がいそうだった。
「ごめんください、旅の者で道に迷ってしまいました。
ここはどこになりますか?」
もう正直に言うしかない。ご時世柄強盗山賊を疑われても仕方がない。
「こんなド田舎に旅人が来るもんか!
もっとマシな言い訳を考えないか!」
やっぱり疑われてる…。とシオシオ、オドオドしていると
その気配を察したのか扉が開いた。
「なんだい、本当に山賊じゃないのか?」
咥えタバコをしながらランタンを片手に、反対の手には小さな杖を構えて出てきたのは中年の女性だった。
整った顔立ちに少しだけ尖った耳。ハーフエルフだろうか。
見た目はすごく綺麗だったので話し方とギャップがあったことが少し理解できた。
見た目以上に生きているんだろうと。
その女性の後ろには身をフルフルと震わせてこちらを覗く女の子の姿があった。
三つ編みをハーフアップにした髪型に可愛らしいお顔、丸眼鏡に少しのそばかす。
明らかにサイズの合っていないブカブカののローブを着ている。
「なにボーっと見てんだい!金目の物なんかないよ」
「ち、違います、本当に道に迷っていて…」
杖を向けられて思わず両手を挙げるポーズをとる。
「そうかい…、まぁ、入りなよ」
そういって女性は目線を家の中へ送った。
――何か首元を見られた気がしたけど、虫でも付いてたかな?
ガイは首元をさすり、ホッと一息ついて家の中へ入った。