はなまる妖精
※こちらは瑞月風花様主催の「誤字から企画」参加作品となります。
「どうしよう、また0点とっちゃった」
学校から帰ると、ななみはノートにはさんだ漢字のテストをじっとみつめていました。
ななみは小学校3年生です。算数の計算は大好きですが、漢字だけはいくらかいてもおぼえられませんでした。
「学校の先生はやさしいけど、どうしてもおぼえられないよ」
ななみはテストの紙を丸めようとしました。すると……。
「あれ、この0って、なんだかまるみたい。そうだ、こうやったら」
0にくるくると赤えんぴつでらくがきして、ななみは大きなはなまるをつくったのです。得意げにはなまるをなぞって、ななみは歌うようにいいました。
「できた。はなまるはなまる」
ぱちんっと、風船がわれたような音がしました。ななみはひゃっとひめいをあげます。
「なんだい、そんなにおどろかなくってもいいじゃないか。きみがよびだしたんだろう?」
男の子のかん高い声がきこえました。ななみはあたりをきょろきょろしました。
「だあれ、どこにいるの?」
「ほら、ここさ」
はなまるのまんなかに、ちょうのような大きな羽がはえた、男の子が立っていたのです。
「あなたはいったい、だれ?」
「ぼくははなまる妖精。きみがはなまるをかいたから、よばれてやってきたんだ」
「えっ、妖精なの? すごい、すごいわ。魔法も使えるの?」
「もちろんさ。ほら、手をだしてごらん」
ななみはおそるおそる手をだしました。妖精はその上にぴょんっととびのります。ふわっとからだが軽くなり、ななみのからだは、みるみる小さくなりました。
「さあいくよ、ぼくらの国へ」
妖精が小さくなったななみの手をとって、はなまるのなかにとびこみました。まぶしい光に、ななみは思わず目をつぶりました。
「さ、ついたよ」
妖精の声がきこえたので、ななみはゆっくり目をあけました。
「うわぁ、すごい」
そこは広い広いお花畑だったのです。まっ白な花が、どこまでもつづいています。
「あっ、はなまるが見える」
お日さまのかわりに、空には大きなはなまるがうかんでいます。
「きみがかいてくれたはなまるだよ」
ななみは目をぱちくりさせました。はなまる妖精はとくい顔です。
「それじゃあきみも、この花をつむのをてつだってね。今日じゅうにブーケをつくらないと、ぱたぱた妖精とひらひら妖精の結婚式に間にあわないんだ」
はなまる妖精はふわふわととんでいって、花にちかづくと、ぷちりと、花をつみました。
「ほら、このバスケットに入れるんだよ」
いつのまにか、ななみの足もとにバスケットがおいてあります。
「よーし、じゃあわたしも」
ななみも白い花を、ぷちり、ぷちりとつんでいきました。やがてバスケットのなかに、白い花が山ほどあつまったのです。
「これでブーケがたくさんできるね」
「まだまだ。一本一本に色をつけなくちゃ」
「色って、絵の具でぬるの?」
「まさか。ほら、これを使うんだよ」
妖精はぱちんっと指をならしました。すると、赤えんぴつと青えんぴつが、ななみの目のまえにあらわれたのです。
「わっ、びっくりした」
「それじゃあ、いまからこの白い花に、赤えんぴつなら『赤』、青えんぴつなら『青』ってかくんだ。そうすれば花に色がつくよ」
妖精は青えんぴつを手に持ちました。
「みててごらん」
花びらに、『青』と漢字をかきます。すると、白い花が、青い色にそまったのです。ななみは目をぱちくりさせました。
「ほんとうだ、きれいな青色になったよ」
「じゃあきみは、赤えんぴつでかいてね」
妖精にいわれて、ななみは赤えんぴつを持ちました。でも、自信がありません。
「赤って、こうかくんだっけ」
白い花を手にとり、ななみは『赤』とかいたつもりが……。
「あれ? 上の線が一本すくないよ。花の色が、ピンク色になっちゃってるよ」
「わわ、ごめん」
ななみはもう一本、白い花をとりました。ところが……。
「わあ、こんどは下の点がひとつおおいよ。オレンジ色になってる」
「ごめんなさい」
ななみはしゅんとしてしまいました。
「だいじょうぶ、すぐにちゃんとかけるようになるよ。ほら、またやってごらん」
はなまる妖精にいわれて、ななみはこくんとうなずきました。ゆっくりと、『赤』とかいていきます。すると……。
白い花はみるみるうちに、赤い色にそまっていったのです。はなまる妖精もくるくるとおどりだしました。
「やったやった、よくできた。じゃあ、どんどんかいていこう。まだまだ花はたくさんあるよ。ぼくは青をかくから、きょうそうだ」
「うんっ!」
ななみは白い花に、つぎつぎと『赤』とかきいれていきました。最初は白い花ばかりだったのに、気がつけばバスケットのなかは、赤と青の花でいっぱいになっていました。
「ありがとう、きみのおかげで間にあわせることができたよ。こんどは黄色の花のときにてつだってね」
ななみはてれくさそうにうなずきました。
「ななみちゃん」
遠くから、ママの声が聞こえてきました。
「あっ、いかなくっちゃ」
「はやく、花びらがひらいているうちに」
妖精がそういったとたん、ななみははなまるの外にとびだしていました。
「ママ」
ななみはいそいで部屋のドアをあけました。
「どうかしたの?」
「ううん、べつに」
ママが首をかしげています。と、そのとき、ママはつくえの上にひろげられていたノートに目をやりました。
「まあっ、これって、ななみがかいたの?」
ノートには『赤』という漢字が、いっぱいにかかれていたのです。
「えらいわ、ななみちゃん! がんばってお勉強してたのね」
「きっと妖精さんのおかげだわ」
「えっ?」
「そうよ、はなまるはなまる」
ななみは顔をかがやかせて、なんどもなんども口ずさみました。
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また、この場を借りて素晴らしい企画を運営してくださった瑞月風花様に感謝の意を表明いたします。
本当にありがとうございます(^^♪