勇者喫茶
ごきげんよう。私の名前はオルガ。
一応、元勇者で魔王も三年前に倒しました。でも自慢する様なことじゃない。私がやらなくても、いずれ誰かがやった筈。悪の栄えた試し無しってね。
で、平和になったから、昔からの夢である喫茶店を開くことにした。
平和なんだからコーヒーでも飲んでゆっくりすれば良い。それが私の考えってわけ。
静かな田舎町に、木造の小屋を建て、内装は少し薄暗くして隠れ家的な店にしてみた。まさに理想的な店。
店の名前は『勇者の喫茶店』。売名行為になっちゃうけど、まぁ世界を救った特権ってことで♪
店の中で、女だてらに黒と白のウェイターの服を着て、コーヒーミルで豆を潰す。これぞ私の至福の時なり♪
「て、店長。」
「ん?テオ君どうしたの?」
我が店の唯一の店員であるテオ君が、顔を真っ赤にしながら話し掛けてきた。優しく仕事も、そつなくこなすんだけど、緊張し過ぎるのが悪い癖。
「て、店長、髪を切りましたね。」
「あぁ、少しね。よく気づいたね。ほんの二、三ミリ切っただけなのに、そういうの気づけるのポイント高いから、こんなオバさんじゃなくて、もっと若い子に言ってみなよ。テオ君モテるよぉ♪」
「い、いえ、店長も・・・まだお若いです。凛々しくて美人でポニーテールもお似合いです。」
あらあら、今日はテオ君とってもお喋り。私をおだてても余裕無いから給料上げられないだけどねぇ。
店が開店すると、馴染みの客がコーヒー一杯で三時間も居座ったり、老夫婦が美味しそうにコーヒーを飲みながら語らったり、これ、これなのよね、私が求めていた喫茶店っていうのは・・・最高の光景だわ♪
"ドーン!!"
そんな静寂をぶち壊す様に、無駄に入り口の扉を力一杯開けるバカがやって来た・・・はい、最高の時間の終わり、ここからは変な客の相手をしないと。
「ちょとぉ!!聞いてよオルガァ!!」
「もう、シッー、他にお客さん居るでしょ。話なら聞いてあげるから、音量下げて。」
こうして我が喫茶店に、エルフの女フィリアと、やたらデカいオークの男マイケルが入って来た。二人は別の客と思われるかもしれないけど、茶色で真ん中にピンクのハートの刺繍が入った、お揃いのセーターを着ていてね、二人は種族を越えたカップルってわけ。
こういう客がタマにやって来て、我が店の平穏を乱しに来るのよね。そして、厄介な客は決まって私に話を聞いて貰うために、カウンターの席に座って来る。
いやぁ、いつ見ても、このカップルから連想されるのは"くっころ"よねぇ。
「ねぇ、聞いてよオルガ。」
「ふぅ、分かったから、言ってごらんよ。」
早々に悩みを聞いて、出てってもらうことにしよう。
「実はね、マイケルのお母さんから、結婚のこと反対されてるの。」
そりゃな。種族違うもんなぁ、私だって自分に娘が居て、ゴブリンの彼氏連れて来たらやだもん。でも、「お母さんが正しいよ」って正直に言ったらフィリアが怒って店がメチャクチャになるかもしれないし。ここは彼女の味方をすることにしよう。
「まぁ、種族の違いはあるかもしれないけど、何度も説得すれば、お母さんも分かって・・・。」
"ダーン!!"
「違うの!!そういうことじゃないの!!」
・・・とりあえずテーブルを思いっ切り叩くのをやめて欲しい。
「じゃあ、どういうことなの?」
「年の差よ、年の差。私が300才で、マイケルが27才だから、マイケルのお母さんが結婚に大反対していて・・・愛があれば年の差なんて関係ないのにぃ!!ねぇ、マイケル!!」
「うん、僕、熟女好きだから年上大歓迎。」
おいっ、なんか話が噛み合ってないぞバカップル。
なんとかバカップルをなだめて帰ってもらったが、その頃には閉店間際になっており、私はどっと疲れた。
てか、アイツら結局、今日も何も注文しなかった・・・殴りてぇ。
人の恋路を応援してる場合じゃないのよねぇ・・・もう今年で30才だし、出会いは無いし、焦るわぁ。
「店長大変でしたね。」
そう言ってテオ君が、カウンターのテーブルにコーヒーを置いてくれた。ハチミツのたっぷり入った甘いヤツである。疲れた体にピッタリだわ。
「うん、美味しい。ありがとう。本当にテオ君って優しいよねぇ。」
「べ、別に、誰にでも優しいわけじゃありませんよ。」
「えっ、そうなの?じゃあどういう基準?」
「えっ、その、あの・・・じ、時間なんで僕は上がりますね!!お疲れ様でした!!」
「あぁ、はい、お疲れ様。」
疾風のように去って行くテオ君。なんか、はぐらかされた感が半端じゃないけど、いずれ分かることでしょう。
だって世界が平和で、明日も日が昇るのだから。