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アーネスト様との再会

 アーネスト様ご夫妻の仲は上手くいったのかどうか、ソワソワしながら待つ

こと二週間。

 何度かお父様にお願いしてもライ様とアーネスト様の素性を教えてくれず、

はぐらかされてばかり。

 二言目には『その内に相手から接触があるのは間違いないのだから、今はジ

ッと機が熟すのを待て』である。

 言っていることは分かるけれど、やっぱり気になるものは仕方がないと思

う。

 ライ様との約束もある。でも、子供の私にすがるほど悩んでいた彼が喜ぶ姿

が見たいとも思っているのだ。


(でも、アーネスト様もお父様と同じで言葉が足らないところがあるから、そ

こが心配と言えば心配なのよね……)


 そう、言葉足らずのせいで余計にこじれたりしていないかどうかも気掛かり

である。

 こじれてしまった場合は早めに会って話を聞いた上で色々と策を出し合う必

要が出てくる。

 だから、この二週間ほどの私は用事もないのに町に出てブラブラする毎日を

送っていた。

 注意深くアーネスト様がいないかを探しながら歩き回る私は正に不審者その

もの。

 よく職務質問をされなかったものだ。

 ……もしかしたら顔が怖い、威圧感があるからで声をかけられなかったので

は? と一瞬頭をよぎるが、さすがにそれはないだろう。

 ないと思う。思いたい。多分。

 などと疑心暗鬼に陥っていた私の背後から待ちわびた声が聞こえてきた。 


「ああ、ステラ様。そちらにいらしたのですね」


 噂をすれば……とは正にこのこと。

 一体、彼はどのような表情を浮かべているのかドキドキしながら私は振り返

ると、朗らかに笑うアーネスト様が立っていた。


「お久しぶりですね。その節はありがとうございました」

「お、お久しぶりです……! あれから心配しておりましたが、お顔を拝見す

ると良い便りを聞けそうですね」


 私の言葉に更に目を細めたところを見ると、きっと上手くいったのだろう。

 事情はあるけれど、やはりお客様の喜ぶ顔を見る瞬間は最高だ。

 こっちも嬉しくなって自然と頬がゆるんでしまう。


「ええ。今日はその件のお礼をしたいと思って探していたのです。ステラ様の

言葉を受けて実行してみましたが、初日はどもったり聞きたいことが聞けなか

ったりで不本意な結果に終わってしまいました。ですが、少しして妻の方から

遠慮がちに声をかけてくれるようになりまして……」

「まあ、奥様も歩み寄って下さったのですね」

「ええ。私の態度が変わったことに戸惑っている様子もありましたが、根気強

く話を聞いてくれてまして。それでこれなら行けると、思い切って妻のことを

もっと知りたいと伝えることができたのです……!」

「素晴らしいです! 正直な気持ちを打ち明けることが一番ですもの」

「ええ。本当にそうですね。一度口に出してしまえば、不思議なもので平気に

なるのだと気付かされました。お蔭で会話が圧倒的に増えて知りたい情報を聞

くことも、私の思いを告げることもできたのです」


 おおー! 奥様の変化があったことに自信を付けたことで殻を破ったわけで

すね。

 普通はもっと時間がかかるものなのに、凄いじゃないですか。

 奥様と心を通わせることができて嬉しそうな彼をこんなに早く見られるなん

て……。

 もしかしたら奥様の方もアーネスト様ともっとお話ししたいと思っていたの

かも。

 それでも、やっぱりお客様の嬉しそうな顔を見られるのはアドバイスした冥

利に尽きるわ。


「本当に……本当に良かったです……! 目的のためという気持ちが先行して

いた自分が恥ずかしくなります」

「何を言うんですか。ステラ様がたとえ、ご自分の欲のために動いていたとし

ても貴女の言葉がなければ私は妻に愛想を尽かされていたことでしょう。それ

を気付かせてくれただけで十分です」

「アーネスト様……」

「私は本当に感謝しているんです。それに妻も」

「ん?」


 助言をしたアーネスト様は分かるけれど、奥様も?

 一体どういうことなの?


「アーネスト様だけでなく奥様もですか?」

「はい。一度、どうしてそんなに変わったのかと聞かれて『ある女性に助言を

もらったのが切っ掛けなのです』と答えましたら、妻の目の色が変わりまして

……。今度お会いしたら是非お礼を言って欲しいと言われていたのです」

「ああ、そのような事情がお有りだったのですね。それならなおのこと早めに

お会いできて良かったです」

「私もです。貴女にお渡ししたいものもあったので本当に会えてホッとしまし

た」

「渡したいもの、ですか?」


 全く見当がつかなくて、私は首を傾げた。

 なのにアーネスト様はニコニコと笑って懐から綺麗な封筒を取り出したの

だ。

 笑みを浮かべる彼が無言で差し出してきた封筒を私は疑問に思いながらも受

け取った。


「流れで受け取ってしまいましたが、こちらは?」

「妻からステラ様への感謝を綴った手紙だそうです。決して中は見るなと言わ

れているので内容までは分かりませんが、読んで頂ければ嬉しいです」

「奥様からのお手紙なのですね。大切に読ませていただきます……!」


 感謝の手紙なんていいのに……と思いながらもこうした反応を頂けるのは正

直なところすごく嬉しいものがある。


「そう言って頂けると妻も喜びます。では、私は仕事がありますのでこれで失

礼致します」

「お仕事の前だったのですね。貴重なお時間をありがとうございました。良い

報告を聞けて本当に良かったです」

「私もです。例の話はライ様の都合を伺った上で後日することになると思いま

すが、よろしくお願い致します」

「はい。お待ちしております」


 それでは、と挨拶をしたアーネスト様は綺麗なお辞儀をして立ち去ってい

く。

 待ちかねていたことだったから最高の結果を聞けて私は非常に浮かれてい

た。

 だから特になんとも思わず、受け取った封筒を大事に抱えながら私も屋敷に

帰宅したのだった。



 帰宅後、自室に戻った私は早速アーネスト様の奥様から貰った手紙を読もう

と封を開ける。

 ほのかに香る甘いコロンの匂いに酔いしれつつも、いそいそと折りたたまれ

た紙を広げた。

 均等に書かれた読みやすい文字から、奥様の几帳面な性格が窺える。

 アーネスト様と同じで彼女もきっと真面目な方なのだろう。

 何が書かれているのかドキドキしながら私は文字を読み進めていく。


 最初は夫であるアーネスト様との仲を改善する切っ掛けをくれたことへの感

謝が綴られていた。

 続いて、以前は会話もほとんどなく寂しい思いをしていたこと。贈り物で誤

魔化しているのではないかと疑っていたこと。他の女性の影があることへの落

胆した気持ち。

 おおよそ、私が予想したことが書かれていた。

 それらを変えてくれた私に心からの感謝をとのことである。


(夫婦関係のことって中々他人に話せることではないものね。信頼する相手が

いないと嫌なことばかり考えてしまうし)


 動機は不純とはいえ、一組の夫婦仲を修復できたことは嬉しい限りだ。

 私は笑みを浮かべて続きを読んでいくが、何やら不穏な文章が出始めた辺り

で真顔になる。


「……結婚して二年も経つのに妻でありながら私の存在に気づけなかったこと

の謝罪? 外に癒やしを求めたのは自分が至らないから?」


 ちょっと待って欲しい。これではまるで私がアーネスト様の愛人のようでは

ないか。

 奥様は何か重大な勘違いをしているような気が……。


「『つきましては、一度ご挨拶をしたいと思っています。来週、十七日の正午

過ぎに屋敷へいらしてください』……これ、もしかして果たし状なんじゃ」


 死んだ魚のような目をした私は読んでいた紙を綺麗に封筒にしまい、鍵のか

かる机の引き出しにソッと入れた。


 うん。私は何も見なかった。見ていないったら見ていない。

 

 現実逃避をしたところで起きたものはなかったことにならない。

 ならないが、今だけは逃げたくて仕方がない。

 前のめりになった私は膝を抱えて『何がどうしてこうなった……!』と頭の

中で叫んでいた。


「いや、アーネスト様。一体どんな説明をしたんですか……!? 何で修羅場

になること必至な状況作ってるんですか!」


 口に出したところで説明して欲しいアーネスト様はいない。

 分かっているが、それでも言わずにはいられなかった。


「……これ、行かなくちゃどんどん不利になるんじゃ。だったら、このまま黙

ってるのはマズいわよね。きちんと事実を説明すれば分かってもらえると思う

し、行って誤解を解いた方が絶対にいいわ」


 それと奥様にそう思わせてしまったことをまず謝ろう。

 行くことを決めた私は引き出しに入れてしまった封筒を取り出し、住所を確

認する。


「あ、家からそれほど遠くない。っていうかアーネスト様、伯爵だったんだ…

…」


 紙にはケイヒル伯爵家と書かれているから、きっとそうなのだろう。

 思わぬところで他貴族との接点を持ててしまった。

 貴族社会に詳しくないからどういった家なのか分からないのが怖いところだ

けれど、できる限り情報を集めておこう。


「顔が派手で威圧感を与えてしまうから、せめて地味な服装で伺いましょうか

ね……。相殺できるか疑問があるけれど、やらないよりはマシだもの」


 そうと決まれば着ていく服を選ばなくちゃ……!


 立ち上がった私は衣装が置かれている部屋に慌てて駆け込んだのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] このページだけ変な場所で改行されていて読みにくいです 次のページだと普通に読めてて、このページだけみたいです スマホから見てるからかな?
[一言] 知ってた(白目)
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