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思い出話と交渉

 ライ様に案内されて到着したのは、白の外壁が特徴のお高そうなおしゃれ感漂うお店だった。

 とてもではないが、私一人だったら絶対に立ち寄らなさそうなところである。

 私が呆気に取られている間に、彼は顔馴染みっぽい店員さんと話をしていた。


「ステラ嬢。ちょうど窓際の席が空いているようだ。そこでいいか?」

「あ、はい。大丈夫です」


 ハッと我に返った私は、ライ様の後に続いて案内された席に向かった。

 座席に向かい合って座ると彼の方から声をかけてくる。


「さあ、遠慮せず何でも好きな物を頼んでくれ」


 メニューを手に取った私はあまり高くなさそうなオーソドックスなショートケーキとダージリンの紅茶を選んだ。


(値段表記がないのが気掛かりだけれどね……!)


 前世でいうところの時価のようなものだと判断して、ありきたりなケーキを選んでみたが正解かどうかは分からない。


(それにしても、写真がないのに文字だけでも美味しそうなケーキが沢山あるなぁ)


 ライ様が店員さんに注文をしている横で、私は店内にそれとなく視線を向ける。

 あまりお客は入っておらず、人の話し声や食器の音が時折聞こえる比較的落ち着いた雰囲気の場所だ。

 テーブルに置かれている食べ物から察するに、ここはレストランというよりも紅茶やスイーツを楽しむカフェのようなお店なのだろう。

 また、お客が上品そうな服を着ているので上流層が利用する店なのかもしれない。

 余計な雑音がないからとても過ごしやすい空間になっている。

 しばらくして、店員さんが注文の品を届けにきてくれた。

 文字だけで選んだショートケーキだが、くもりひとつなさそうな白いお皿に鮮度の良さそうな真っ赤に熟したイチゴ。しっとりとしていそうなスポンジ。綺麗にデコレーションされたホイップクリーム。

 そのどれもが、ここが一流の店であることを証明している。


「……とてもおしゃれなお店ですね。このようなお店を利用されるとは、もしやライ様は貴族のご子息だったりするのでしょうか?」

「まあ、そのようなものだ。それとこの店を気に入ってくれて良かったよ。雰囲気が好きで良く利用していてね。騒がしい場所は苦手だから、静かな場所で考えたいときはよく来ているんだ」

「確かに考えをまとめるには最適の場所かもしれませんね。来たばかりで王都には詳しくないので、このようなお店を知れたのは嬉しい限りです」


 私の推測通り、ライ様は貴族のご子息だったか。

 それにしても素敵な場所だ。メニューを見ていたら、メニューの端から端まで網羅してみたい願望が湧き出てくる。むしろ他のお店にも行って食べ比べがしたいくらいだ。

 だがしかし! 残念ながら今の私に余暇を楽しむ余裕なんてない。

 事業が軌道に乗ったらまた個人的に絶対に来ようと私はひっそりと心に決めた。


 一先ず今はお店のことよりもライ様のことだ。ケーキのことを頭の片隅に追いやった私が彼を見ると、顎に手を当ててジッと私を見つめていた。

 口は緩やかな弧を描いていたが、どうにも感情が読み取れないという不思議な表情を浮かべている。

 この人もお父様と似てあまり感情を表に出さないタイプなのかもしれない。

 などと思っていると、彼がゆっくりと口を動かした。


「先ほども王都には一度も訪れたことがないと口にしていたようだが、見たところ君は裕福な家のご令嬢なのではないか? 本当にこれまで一度も訪れたことがないと」

「ええ、ございませんね。元々、うちの父は世間から隠れた場所でひっそりと暮らすのが好きだからという理由がありまして。尤も、一番は楽しい思い出のある土地から出たくないからだったのかもしれませんね」

「そこまでその土地にこだわっていたのに、なぜ王都に?」

「そうですね……事業の改善のため、ですかね。ちょっと取引先を増やそうかと思いまして……」

「父君ではなく君が? 他にやれる者はいなかったのか? 例えば……母君とか」


 ライ様の問いに私は困ったような笑顔になってしまう。


「ああ、いえその、母は私が一歳になる前に病気で亡くなりまして……。ですので、私が母に代わって父のサポートをしようと動いているのです」

「母君を亡くしていたのか。知らなかったとはいえ無神経なことを聞いてしまったな」

「いいえ。付き合いの長い相手ならともかく、出会ってすぐの相手の家族構成など分かるはずがございませんもの。どうかお気になさらないでくださいませ」

「気を使わせてしまって済まない。母君を亡くしているというのに、弱音ひとつ吐かないとは強いのだね。寂しさなど一切感じさせない」


 そんなことはない。

 前世で精神的に参っていた私を救ってくれたのはお母様だった。

 いくら感謝してもしたりないくらい私の中でその存在はとてつもなく大きいものになっている。

 だからこそ何度も何度も後悔した。

 もっと私が大きければ、もっと早く生まれていれば。そうしたら助けることができたのかもしれないのに、と。

 喋ることもままならず、自由に動くこともできない自分に腹を立てたことは数知れずだ。


「寂しくないわけではございません。今ももし母がいてくれたらと思うことがありますもの。父に口うるさく言う私を見て叱るのか、笑って見てくれていたのかと想像しては会いたくなることだってございます」

「よく覚えているものだ。君には一歳頃の記憶があるのかと思うほどだよ」


 しまった……。

 ついうっかり本音をこぼしてしまったが、普通は一歳頃の記憶がある人間はほぼいない。


「あ、いえ。母の書き記した日記がございまして……。それを読んでいたのでまるで覚えているかのような物言いになったのだと思います」

「ほう。日記が」

「ええ」


 大丈夫。嘘は言っていない。

 実際にお母様の日記は存在するし、ことあるごとに読み返したりして私の生まれる前の二人の生活を垣間見たりしているのだから。


「ちょうど母が我が家に嫁いできた日から日記が始まっておりましてね。うちの父はとても顔が怖くて、あまり評判が良くなかったようで母は嫁いだことを後悔しては泣く毎日だったようです」

「だというのに、君の母君像はずいぶんと穏やかな人のようではないか」

「あら、まだ続きがあるのですよ。……半年ほど経った頃、よその子が庭に迷いこんできて現れた父の顔を見て泣いて逃げてしまったのだとか。去って行く子供の後ろ姿を見ていた父がすぐに子供の身元の確認と痩せすぎているから食べ物を分けてあげるようにと使用人に伝えていたのを母は隠れて見ていたそうです。それで、もしかしたら怖い人ではないのかもしれないと思い始めたと書かれておりました」

「ゴホッ」


 いきなり飲んでいた紅茶をライ様は吹き出してしまったが、気管にでも入ったのだろうか。


「大丈夫ですか?」

「すまない、気管に入ってしまった。……話を戻すが、それで母君は普段と違う姿を見て認識を改めたということか。非常に読み応えがありそうな日記だな」

「かなりの量ですので、ついつい時間を忘れて読み耽ってしまうほどです。母の日記は細かいところまでよく書かれているので、そのときの光景が目に浮かんできて笑いを堪えるのが大変なのですよ」


 日記に書かれていたことを思い出し、私はクスクスと笑い声を上げた。

 お母様の文章は表現力が豊かな分、その絵がありありと目に浮かぶのである。


「その日から母は父を観察するようになり、相手の隠れた一面を次々と発見していったそうです。言葉の裏にある本音も読み取れるようになった日の日記のテンションが高くて読んでいて微笑ましい気持ちになりました」

「君の話を聞いているだけで、ご両親の仲の良さが伝わってくるよ」

「ええ。本当に仲睦まじい二人だったと聞いています。今も父は母の誕生日にご馳走を用意して母が大好きだった洋梨のタルトと一緒に家の人間総出で祝ったりしてますもの。一年に一回とても豪勢な食卓となるので、我が家の一大イベントなのです」


 カチャン、と金属製の物が落ちた音が聞こえ、そちらを見ると床にフォークがあるのが目に入った。

 位置的に考えるとライ様が落としたのだろう。

 あまり見ているのは失礼に当たるので、私はそっと視線を逸らしていると店員さんがフォークを回収し、すぐに新しいフォークを持ってきてくれた。

 即座に動くあたり、よくお客を見ているものである。

 それにしても、先ほどからライ様の様子がちょこちょこおかしいのが気にかかる。

 いったいどうしたというのか。

 何か私が無礼でも働いたのかと思って口を開きかけた瞬間、少し離れた場所にいた女性達の会話が耳に入ってきた。


「聞きまして? あのクレマン伯爵が王都に戻られたようですわよ」

「まあ、先代の伯爵からずっと領地にいらしたのに? ついに政権を握ろうと動き出したということなのでしょうか……。欲が深いと申しますか、諦めの悪い方ですのね。まあ、宰相閣下がいらっしゃるのですから、政権を奪い返すことなど天地がひっくり返ってもありえませんけれど」

「陛下の信頼厚い閣下といえども安心はできませんわ。証拠に閣下の秘書官の一人が横領で辞職されたではありませんか」

「真面目で仕事のできる優秀な方で主人が嘆いておりました。とても犯罪を行うような方ではないとも申しておりましたが、まさか、あれはクレマン伯爵が?」

「ええ。閣下の力を削ぐためにクレマン伯爵が裏で手を回して濡れ衣を着せたに違いありません。そうでなければあり得ませんもの」


 違う。


「目的のためにそこまでなさるのですか……!? なんという卑劣な」

「跡継ぎをお生みにならなかったからという理由でご自分の妻を虐げた方です。それくらいはなさるでしょうね」

「そういえばそうでしたね。本当にお可哀想に……」


 全部デタラメだ……!

 うちが王都に来たのは家業のため。政権を握ろうだなんて考えてもいない。

 大体、お母様は虐げられてなんかいない。ずっと見ていた私が一番よく分かっている。

 好き勝手なことばかり言っているが、彼女達はお父様達の何を見てそんなことを言っているのか。

 腹立たしいやら悔しいやらで私は下を向いて膝の上で拳を強く握りしめる。

 あまりの言い分に反論しようと立ち上がりかけたが、まるで諫めるように私の肩に護衛の手が置かれ動きを止めた。

 見上げると、力なく首を横に振る彼と目が合った。

 第三者からの制止のお蔭で、いくらか私の怒りは収まりをみせる。


(そうよね。ここで騒ぎを起こしたら私がクレマン伯爵家令嬢だってバレてこれからのことが全て駄目になってしまう)


 両親の馴れ初めから、どれだけ二人の仲が良かったのか自信満々に言いたいが、ここは我慢するべきところだ。

 私は深呼吸をしながら握りしめた拳の力をゆっくりと抜いていく。

 嘘の噂を払拭する機会は絶対にあるはずだ。そのときのために今の憤りは貯めておこう。

 そう決めて歯を食いしばった。


「君は噂をどこまで信じる?」

「え?」


 突然何を言い出すのかとライ様を見ると、彼は私の目を真剣な表情を浮かべて見つめていた。

 多分、彼の耳にもあの女性達の話が聞こえていたのだろう。

 私の正体がバレた訳ではなさそうだし、単に意見を聞きたいだけなのかもしれない。


「……噂というのは案外当てになりません。あまり信憑性はないのでは? とは思います。証拠もないのにあれこれ口にするのは良いことだとは思えません」

「そうかな。あの女性達の話していた内容は王国内で広く伝わっている。実際にあの家の先代は女王……今の王太后を裏切り表舞台から退いた経緯がある。少なくとも事実は含まれていると思われるが」


 ちょっと待って欲しい。

 先代ってことは、私が生まれる前に亡くなられたお祖父様のことで間違いないと思う。

 どんな人かは知らないけれど、あのお父様を育てたことを考えるととても王太后様を裏切るようなことをするとは思えない。

 身内に甘い人だったのならその限りではないけれど、私は自分の身内を信じたい。

 きっと何かの間違いだ。


「私はその現場を見たわけではございませんので簡単にそうですねとは言えません。真実を知りたいのであれば、当人と直接お話ししてみるとか?」

「そうだな……。確かに噂に踊らされることほど馬鹿な話はない。直接話をしてみるという案は俺も同意だ」

「ええ。ただの噂だったと分かるかもしれません。結果としてそのクレマン伯爵が普通の善良な方であれば、他の貴族の方も安心されるでしょうし余計なことに労力を使うこともなく政治に専念できますもの」


 むしろ、お父様と親交を深めてその誤解を解いて欲しいくらいだ。

 ……少しだけ侮られるかもしれないとの不安もあるが、怖がられて遠巻きにされるよりは良い。

 私や使用人、身内が目を光らせて先手を打てば何も問題はない、と思う。思いたい。

 お父様の良かれと思ってが発動しなければの話であるが。


「なるほど。君は噂を馬鹿馬鹿しいと考えていると」

「そこまでは思っておりませんが、悪い方の噂はただ悪口を言っているにしか過ぎないという考えなだけです。楽しいお話をして笑っている方が絶対に自分のためになりますし、人との交流も増えると思っております」


 マイナスのことばかり言う人といたら、自分の気分も沈み込んでしまうのは前世で嫌というほど経験している。

 生きている以上、人付き合いは避けられないのだからせめて毎日を楽しく過ごしたいと私は思うのだ。


(その人付き合いが今はほとんどないのが悲しいところではあるけれどね……!)


 現状を嘆いているだけではどうにもならないことは分かっている。

 一番下にいるのなら、後は上がればいいだけの話だ。


「確かに君の話には一理あるな。笑い合える人と出会える確率は少ないが、それでも心のどこかで期待もしている」

「気の合う方を見つけるのは中々難しいものがございますものね。出会いの切っ掛けすらない私からしたら至難の業ですけれど」


 自嘲気味に笑って見せるとライ様が肩をすくめた。


「君の話術があれば、誰とでも知り合いになれそうだけれど」


 これは他の貴族、もしくは仕立屋を紹介して貰えそうな良い流れだ。

 絶対に逃してはならない。

 この流れに乗ってみせる……!


「そうでもございません。事業のためには貴族の方と知り合う必要がありますが、どなたかの紹介がないと厳しいのが現状です。現に、この一ヶ月で知り合えたのはライ様だけですもの」

「俺だけ? 本当か。それは驚いたな」

「ええ。話しかける切っ掛けが何もないので、どうしようかと途方に暮れていたのです。偶然とはいえ、ライ様とお知り合いになれたのは幸運でした」

「期待を裏切るようですまないが、多数の貴族を紹介できるほどの人脈は俺にはないんだ」


 貴族が駄目ならまだ手は残っている。問題はない。

 あまりがっつき過ぎないように注意しながら、私は控えめな態度を取ってみた。


「あの、でしたら王都で一番人気の仕立屋をご紹介いただけないでしょうか? 社交界で流行のドレスがどういったものなのか知りたいのです」

「……難しい話だな。俺は流行に疎いからドレスのことは不得手でね。仕立屋に関しても君の力になりたいとは思うが、背景が分からない者を紹介するのはこちらのリスクが高すぎる。君がどこの家の者か言えるのであれば話は別だが」


 私は言葉に詰まるしかなかった。

 先ほどの噂話の件から、ライ様は我が家に良い印象を抱いてはいない。

 正体を明かせば、スッパリと縁は切られてしまうのは間違いない。

 かといって偽った場合、バレたら彼からの信頼は地に落ちる。

 この策も駄目か……と私は肩を落とした。


「しかしながら有意義な時間を提供してくれた君に報いたいという気持ちもある。だから交換条件を出させてくれないか?」

「……交換条件ですか? それでご紹介していただけるのであれば是非お願いしたいです!」


 藁にもすがる思いとはまさにこのこと。

 ライ様の条件を聞こうと、私は前のめりになる。


「仕立屋の紹介はできないかもしれないが、知人の身内から流行のドレスを聞くことはできるだろう。それでもいいのなら」

「もちろん構いません! それで、どういった条件なのでしょうか?」

「ああ、実は俺の知人があることで悩んでいてね。その悩みを解消してもらいたいんだ」

「悩みの内容は?」

「それは俺の口から軽々しく言えない。本人に直接聞いて欲しい」


 それはそうだ。本人のいないところで了解もなく見知らぬ他人に悩みを知られたくはないだろう。

 悩みの程度にもよるが、私で解決できそうなことであって欲しいと願うばかりだ。


「悩みを解消できなければこの話はなかったことになるが、それでも受けてくれるか?」

「こちらが注文をつけられる立場にはありません。ですので、その条件をのみたいと思います」

「了解した。後日その知人を交えて詳しい話をしたいと思うが、都合の良い日はいつになる?」

「ご指定いただければ、いつでも大丈夫です」

「では、一週間後にこの店の前で待ち合わせでいいだろうか? 時間は今ぐらいで」


 メモなど取れないので、私は頷きながら日時を頭に叩き込んだ。


「その方のお力になれるように頑張ります」

「気持ちは嬉しいが、あまり気負う必要はない。知人も悪い奴ではないから気楽にしていて欲しい」

「はい」


 とは言ってみたものの、切羽詰まっているこちらとしてはある意味未来が決まるようなものだ。

 心してかかった方がいい。

 どのような悩みなのかを推測している私に反して、若干険しい表情を浮かべているライ様が「ああ、そういえば」と声を出した。


「先ほど君は『噂は当てにならない』と言っていたが、俺としてはクレマン伯爵の噂に関してそれは当てはまらないのではないかと疑っている」

「……何か理由があるのですか?」

「ある。件の秘書官が告発される前にあの家のスパイが周囲を動き回っていた」


 いや、それはない。

 だって、スパイなんて私は見たことが一度もないのだから。

 見たことがあるのはお父様の代わりに商談相手と交渉してくれる人ぐらいだ。

 だから、周囲を動き回っていた人がいたとしたらその人なのではないだろうか。

 帰ったらお父様に聞いてみることにしよう。誤解されていると伝えた方がいい。


「……なるほど。それが事実であれば疑うだけの証拠にはなり得ますね」

「何事も疑いから入らなければならないのは悲しいことだが、それが貴族というものだからね」

「気を抜けば足をすくわれる可能性があるというのは怖いですね。権力とは無縁のところで平和に暮らせればそれで十分ですのに」

「それが一番ではあるが人に欲がある限り、それは無理な話だろう」


 どこの世界であっても泥沼の足の引っ張り合いは存在するということか。

 この世界の貴族社会に関してまだまだ勉強不足だから、そこら辺もこれから知っていかないと後々大変なことになりそうだ。

 ……まずは教えてくれる人を見つけることから始めないといけないけれど。


(一人心当たりがあるけれど、若干浮き世離れしている人なのよねぇ)


 脳裏にその人を思い浮かべた私は乾いた笑いを零す。

 ライ様はそんな私の後方を見て、眉を顰めるとため息をひとつ吐いた。


「どうやら時間切れのようだ。迎えが来てしまった」


 振り向いてみると、身なりの良い長身の男性がライ様を見ていた。

 服装からすると彼の従者なのかもしれない。


「まだまだ話したりないが、俺はここで失礼させてもらおう。支払いはこちらになるよう手配しておくから君はゆっくりしていくといい」

「いえ、本日はありがとうございました。大変楽しい時間を過ごさせていただき感謝しかございません」

「ああ、俺もだ。では、また一週間後に」


 そう言い残して、ライ様はお店を出て行ってしまった。

 ゆっくりしていけと彼は言っていたが、それよりも私にはやるべきことがある。

 残りのケーキと紅茶を食べ終えると、私はお父様に言わなければと足早に屋敷へと帰宅したのだった。 

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