2話
帝都の夜は、田舎の町に比べれば随分と星空が見えにくい。眠らない都市という程の喧騒も無いが。
街灯に照らされた道を行けば、それなりに人とすれ違う程度には活気がある。
そんな中を、目的の建物まで歩く事しばらく。夜半でも出入のある大きな建物は商業ギルドだ。
建付けの良い扉はそっと押すだけで音を立てずに開いていき、代わりにドアベルがカラカラと鳴る。
周囲の目線等には特に気を払う必要を感じないので、直接接客の為のカウンターまで向かう。
「い、いらっしゃいまひぇっ」
年若い受付嬢は仕事に慣れていないのか、まあ噛んだところで仕事さえしてくれるなら何も問題は無いのだが。
「若い女物の服と家具、明日までに準備できる所を頼む」
袖から仲介料として札の束を机に取り出す。急ぎという事と出来るだけ良い所を寄こせという催促になる。
元の世界で買い物と言えば近所のコンビニやデパート、あるいは目的の物の専門店へ向かう事になる。
しかしこの世界で買い物と言えば、買いたい物を探すのであれば露店を探し回る事になる上に見つかるとも限らない。
故にある程度の金があるのであれば今どの商家がどのような物を仕入れているのか、といった事を把握しているギルドに仲介を頼むのが最善。
あとは流行の服を作る職人を抱えている、といった事もとりあえず金さえ積めば良い様にしてくれる。
大きな貴族の家であればそういった情報を扱う人員も居るかもしれないし、御用商人のようなものも居るかもしれないが。
少なくとも家にはそのような物は無いし、露店市に行った所で手に入るのは古着や椅子程度。つまり一般人の使うものだ。
食糧程度ならそれでいいかもしれないし、家具に関しても正直なところ昔は使えれば何でもいいとは思っていた。
が、自作すれば分かるが木を思った通りに切れるからと言って良い家具を作れるとは限らない。
季節による歪みだとか、そういった所まで含めての良い物が作れるのが良い職人という事で、少なくとも自分は良い職人では無かった。
服に関して言えば更に問題は多くなるわけで、更に高校に通うというのであれば良い服を着ていく方が良いだろう。
つまり出来る限り早く出来る限り最高の品を手に入れる、その為に商業ギルドに仲介料を積むのは最適解だろう。
「ひゃぁぁぁぁ」
「では頼んだ」
そういう訳で家から一番近くにある商業ギルドを後にする。昔の政策の結果として、職人ギルドどころか商業ギルドも複数ある故に。
「まあ多く回るのが実際一番良いだろう」
まだ夜は長く、回るべき場所は多かった。