7.有力貴族と養父
「アントワネット様。毎度ごひいきいただきありがとうございます。」
豪奢なドレスを着こんだ人物の前に膝まづくと渋面の男が差し出された手に口づけた。
「わざわざ来てくれてうれしいわ。ブラウン。」
ブラウンと呼ばれた男は促されるまま対面にある椅子に腰かけた。
アントワネットは侍女が入れた紅茶を一口飲むと彼に驚くべきことを提案してきた。
「メグをセドリック王太子様の愛妾にですか。」
「ええそうよ。」
「ですがセドリック王太子様にはすでにアンジェ様がいらっしゃいませんか。」
「ええ。聖女としてはまあまあ国民に人気があり、最初はそれほど問題はなかったのですが・・・。」
アントワネットは紅茶をソーサーに置くと遠い目線で今回の人災について語った。
「あの飢饉にかかわる顛末ですか。」
「そうです。セドリックももう少し思慮深ければ問題ないのですがどうもアンジェが関わるとなんとも甘い面が目立って・・・。」
「アントワネット様。ですがセドリック王太子様がさすがにお断りになられるのではありませんか。」
「そこはセドリックの実母である私がどうにかしますわ。それに・・・。」
アントワネットは椅子から立ち上がると対面に座るブラウンの横に来ると彼の耳元にささやいた。
ブラウンの表情が見る間に変わった。
彼は椅子から立ち上がるとその場に膝まづいてアントワネットの手を取るとそのまま口づけた。
「仰せのままに。」
「ありがとう。あなたならそう言ってくれると思ったわ。」
アントワネットは妖艶にほほ笑むとテーブルに置いてあった鈴を鳴らした。
すぐに傍に控えていたメイドが立ち上がってどこかに消えた。
アントワネットがもう一杯紅茶を飲み終えた頃に客間の扉が開いて黄金に輝く髪を上品に結い上げた人物が現れた。
「レトリー。」
ブラウンは椅子から立ち上がって思わず彼女の名前を呟いた。
「これは私からの褒賞の前渡しよ。」
アントワネットはそれだ言い終えると二人を客間に残して去って行った。
「君にまた会えるなんて・・・レトリー・・・。」
ブラウンは立ち上がるとレトリーと呼んだ女性を抱きしめた。
「私もですわブラウン。」
二人はそのまま傍にあったソファーに移動した。
「今日は公爵様とはいっしょっじゃないんだね。」
「もちろんよ。だって私ちゃーんと義務は果たしたわ。ブラウンあなたこそどうなの。」
「私はいつまでも君のものだよ。」
「ブラウン。」
レトリーの華奢な両手がブラウンの背中に回った。
ブラウンはそのままレトリーをソファーに押し倒した。
その客間は夕方まで誰も近づくものが出ないようにアントワネットにより命令が徹底されていた。