5.北部領の救援。
三日後。
なんとか多くの救援物資を積んだ馬車は無事北部領領主が治める領主館に辿り着いた。
「よく届けてくださいました。」
両手を大げさに広げたジャガイモのように肥え太った領主にメグとレリックは迎えられた。
領主は興奮したように英雄殿にお会いできて感激ですとメグの両手を強く握るとそのまま離さなかった。
内心気色悪く思いながらもここでこの領主の視線を守備隊が守っている救援物資に向けるわけにはいかない。
メグは領主に話しかけられながらも目線を一瞬守備隊長に向けた。
彼がわずかに頷いたのを確認するとメグはレリックを促して下卑た笑いを浮かべる領主に従い、領主館に入っていった。
それを見届けた瞬間、守備隊長は守備隊に命じて救援物資を飢えている村々に配るため領主館を後にした。
その頃メグは隣で嫌そうな顔でメグを睨み付ける領主夫人をレリックに押し付け、メグの手をにぎにぎと握りしめる領主に歓待されていた。
「さあこちらをどうぞ。この地方の特産品です。」
領主はそういうとアルコール度数がかなり強いワインを勧めて来た。
メグは溜息を吐きながら注がれたグラスにそっと魔法を流してアルコールだけ飛ばすとそのままそれを口に運んだ。
アルコールを飛ばしたので味は生温かいぶとうジュースだ。
美味しそうにグラスから飲むがあまりの不味さに吐き出しそうだ。
だが飢えた村人を救うためにもここは我慢だ。
しばらく領主夫妻の自慢話に付き合っていると領主館にいる使用人が追加の料理を持って現れた。
「おい、お前ら。折角頂いた食料があるんだ。お疲れの英雄様たちには領主館にあるものを全てお出ししろ。」
やはりか。
メグは隣で遠慮するレリックを魔法で黙らすと領主夫妻から出された食事を全て堪能させてもらった。
その間もベタベタと触って来る領主を強い酒で酔いつぶすまで相手をした。
ちなみに領主夫人の方は魔法で拘束されているレリックに心置きなく触れて満足そうだ。
最後は無事お酒で潰れた領主を領主夫人に預けると戻って来た守備隊長と共に早々と領主館を後にした。
「おいメグ。さっきの態度はなんなんだ。折角持って来た食料を・・・。」
「守備隊長。食料は言われた通りに分配出来た。」
「はい。」
「そう。ならここに長居は無用ね。すぐに引き上げるわよ。」
「おい。ちゃんと配られたのか?」
「大丈夫。ここにはお父義様が関係している商会があるからそこがちゃんとやってくれるわよ。」
「オイそれはどういう意味なんだ。」
メグは守備隊長が連れて来てくれた自分の馬に跨るとレリックの質問を無視して走り出した。
レリックは何度かメグに後方から怒鳴って見るが彼女は馬をそれでも馬を止めなかった。
結局、守備隊長引きいる護衛隊とメグが馬を止めたのは北部領から大分離れた場所だった。
「ここまでくれば追いかけて来ないでしょう。」
「おい。なにがどうなっているんだ?」
「まったくいつも聞くばかりよね。」
ムッとした顔になったレリックにメグは状況を掻い摘んで説明した。
「ここまで北部領が飢饉に陥ったのはあのバカ領主が備蓄を使い切ったからよ。」
「はぁー何の話だ。」
「あいつは備蓄を自領じゃない所に売ったのよ。」
「???。」
レリックは何を言われたのか理解できなった。
「はぁー。本当に知らなかったの?」
「何をだ。」
「あの皇太子夫妻がオフレを出したでしょ。」
「オフレ?」
「そう隣国を助けるってオフレよ。」
「それがどう関係して来る。」
「あのオフレ。いつもなら隣国に売る時かかる税を今回はなしにしたでしょ。」
「ああ、そうだが?」
「今回は緊急を要するからって国に全てを報告する必要もないし税金がかからないって知って商会が掻き集められるだけ食料を買ったのよ。逆に売る方も同じように税がかからないから売れるだけ商会に売ったの。」
「つまり?」
「通常なら備蓄される食料も国に報告の義務もなく納税も要らないから儲けられるって色々なところが備蓄に手を付けて商会に食料を売った。普通ならここまで領地が困窮しないから余るものだったはずだったけど・・・。」
「実際は魔法の使い過ぎで飢饉になった。」
「そう。」
「じゃ今回はその支援物資はどうしたんだ?」
「領主には届けた商品の御品書きを渡したわ。後は全て領地にある商会に渡したから彼らが飢饉になっている村を優先にそれをもう届けに行ってる。」
「それなら俺達が届ければいいだろう。」
「場所が散らばり過ぎてこの人数じゃ無理なのよ。でも商会なら普段から色々彼らに届け物をしてるからそれを使って行って貰ってるわ。」
「おい、奴らが掠めたらどうするんだ。」
「そこは大丈夫よ。彼らの商人が商品を入手する最終経路は王都にあるお義父様の商会が必要だからそれは出来ないわ。」
メグはニヤリと笑って馬を兵士に渡すと食料を作り始めた兵士を手伝いに行っってしまった。
レリックはここまで流れる様に渡りをつけるメグ背中を感心した目線で見つめた。